飯田橋クラウドクラブ(略称:イイクラ) 第24回
今年はメディア記者だけではなく、参加者まで引き上げちゃった
飯田橋で語り合うクラウド、機械学習、FinTech、サーバーレス、そして働き方
2017年01月25日 07時00分更新
FinTech×渥美 俊英さん
後半は、アスキーのオオタニが参加者を舞台に引き上げ、2016年を総括するという試みで展開する。登壇者には事前にまったく知らされていなかったが、その分、普段感じている本音が聞き出せたと感じられた。
最初にオオタニが登壇をお願いしたのは、元AWSエバンジェリストの渥美 俊英さん。ISID時代から金融システムのクラウド化に尽力してきた渥美さんは、AWSの社員になって「インタグレーターは自分たちがビジネスできるちょっとのことしか今までやっていなかった。でも、本当はものすごい可能性があって、しかも数ヶ月単位で拡がっていると感じた」と語る。一方で、クラウドがメジャーな存在になるとともに、付いてこられないユーザーが増えてくると指摘。現在はこうしたクラウドに付いてこられないユーザーを助ける側に回り、「社員のときよりも講演で忙しい」という状態だという。
渥美さんは、金融庁の安全対策基準がFinTech向けに改良されている動きを紹介し、「ものすごい勢いで金融機関でクラウドを使っていく方向に進んでいく」とコメント。渥美さんはAWSをベースにロボットアドバイザーを開発したFinTechベンチャーのウェルスナビと出会った1年前の出来事を回顧し、「たった1年で金融機関としてのお墨付きをもらい、50人近い会社に成長した」とアピール。また、「一生使える通帳」をマネーツリーとの提携で作ったみずほ銀行を例に挙げ、メガバンクもこの動きに追従していると解説を加えた。
規制が最小限でオウンリスクでFinTechに進む企業が多い米国に対し、ルール作りを重視し、その中でFinTechを進めるヨーロッパ。規制当局の方針の違いはあれ、グローバルではFinTechが加速化しており、日本でもクラウド導入とFinTechの導入は一気に進むというのが渥美さんの意見。エンタープライズでもクラウド導入の機運は高まっており、AWS自体も運用管理やセキュリティ面でサービスの拡充を進めていく方向性が見え隠れすると持論を展開した。
機械学習×得上竜一さん
続いて、オオタニは機械学習の話を聞くべく、オークファンの得上竜一さんを壇上に引き上げる。「Amazon S3リリースのメールが残ってる」という時代からAWSを使ってきた得上さんは、現在はMicrosoft MVPとして機械学習やAIの分野にチャレンジしている。「もともとAWSを使ったのも、Webサービスを立ち上げるのが目的ではなく、単純にプロセッシングがほしかったから。そんな話を海外から来た人と話していたら、その数年後にLambdaが出てきた」と得上さんは振り返る。
そんな得上さんから見て、2016年は機械学習が大きく動いた年。「機械学習は昔はライブラリでプログラミングして使うしかなかったけど、今はWebブラウザから操作できる、あるいはAPIで利用できるものができてきて、3階層になった。MicrosoftやGoogle、AWSなどのサービスが激戦区になっている」と得上さんは語る。とはいえ、精度自体は94~95%のレベルで争っている感じなので、組み合わせやすさで勝負した方がよいのではと指摘する。
一方で、2016年はGPUやFPGAをクラウドに組み込む動きが加速し、機械学習もやりやすくなってきた。「ライブラリが充実してきたこと、データ読み出しを高速化するフラッシュディスクが普及してきたこと、TensorFlowなどの登場でGPUのプログラミングがやりやすくなってきたこと。この3つでだいぶ機械学習が使いやすくなってきた」と語る。とはいえ、言語依存するテキスト処理などについてはまだまだ課題が多いのも事実で、本格的に利用するためには、敷居の高さを払拭することが2017年は求められてくると語る。
サーバーレス×吉田真吾さん
3人目は、サーバーレスやコミュニティ活動に注力してきたSection-9の吉田真吾さん。今年は「AWS re:Invent 2016」のコミュニティセッションで登壇し、要所要所で「つめあと」を残してきたという。会場や講師の調達などファシリティ面の質問が飛び交う中、「『次世代のヒーローを見つけて、成長させていくのがコミュニティの役割ではないか』と話して、会場をざわつかせてやった(笑)。そんなエモいことをいうヤツはいなかったので」(吉田さん)と、存在感を示してきたようだ。
Function as a Serviceのような用語も生まれ、だいぶ知名度を得てきたサーバーレス。吉田さんは2016年5月にニューヨークで行なわれた「Serverless Conf」に参加し、イベント自体を日本に持ってきた。「今まで僕は『サーバーレスっぽいもの』をやってきたけど、サーバーレスがなんだか正直わからなかった。イベントに行けば、このモヤモヤが解消できると思った」と感じた吉田さんは、小難しい定義より、なにができるかにフォーカスしたイベントの中身に感銘を受け、ライセンスをもらって日本で開催するに至ったという。
9月に開催された日本のServerless Confも400人規模の参加で非常に盛況だった。この背景としては、やはりサーバーレスというもやっとした概念を明確にしたいという参加者のニーズが強かったからのようだ。「サーバーレスはアーキテクチャ的に考えないといけないと凝り固まっているイメージがあるけど、実際は小難しく考えなくても、ツールとして素直に使えるところがいっぱいある」と吉田さんは力説する。
働き方×野水 克也さん
技術的な話メインのイベントで、最後に「働き方」を語るべく壇上に引き上げたのは、サイボウズ フェローの野水克也さん。オオタニは前週に参加したさくらインターネットのイベントで、エンジニア社長の田中さんが働き方について語っていたのに驚き、今年を振り返るトピックとして「働き方」で締めたいと会場に野水さんを紹介した。
2016年に100回以上登壇をこなしてきた野水さんだが、そのうち85回は働き方に関するものだったという。「女性活用やエンジニアの働き方、地方創生などの文脈で働き方を話しました。今後、日本の労働者自体は500万人くらい減る。これってどれくらいの数字かというと、日本のトラックとタクシードライバーを足しても100万人に満たないくらいの規模。しかも65歳以上の比率が今より10%増す」と、野水さんは警鐘を鳴らす。
こうした状況を打破するには、もはやITの活用しかない。しかし、それを支えるITエンジニアの労働環境は、満足できる状態と言えるのか? サグラダファミリアのように完成の見えない大手銀行のシステム刷新の問題や、24時間勤務とすらいえる劣悪な労働状況に身を置くエンジニアたち。勉強会出るために有給を使ったり、社内の承認が必要になる日本のIT業界。「自分の会社ではないところで、寝袋持ちこんで延々と仕事している。こういった『年収300万円のIT土方問題』をどうするか。本当に300万円の価値しか出していないのでしょうか」と野水さんは鋭く切り込む。
一方で、リモートワークや柔軟な人事制度のおかげで、生産性の高い働き方を実践しているIT企業も増えている。働き方にフォーカスしてきたサイボウズも、さまざまな試みを実践して、「副業・複業OKだし、週3日しかこなくてもいいし、1日3時間しか働かない人でも雇用する。一言で言えば、辞める理由をどんどんなくしてきたということ」と野水さんは語る。「働き方の鍵となる『技術』『制度』『文化』の3つの要素のうち、IT業界はすでに技術の実現可能性についてすでに理解しているはず。IT業界は他の業界に先んじて新しい働き方を実践すべき」とオオタニも持論を展開すると、野水さんは「『文化』という観点では、危機感の強い地方に比べて、首都圏の方がむしろ遅れている」と応じた。
スライドなしの2時間半のトークという剛毅なイベントは、事前に提示した「ほとんど記事化しない」という条件もあり、本音が飛び交う内容だったと思う。飯田橋クラウドクラブは今年も記事とイベントを並列し、さまざまなクラウド業界のテーマを扱っていきたいので、楽しみにしてほしい。
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