前回のMedia Visionに比べると小粒(?)ではあるが、サウンドカード、およびサウンドチップのベンダーは他にもいくつかある。今回はこれらをまとめて紹介したい。
サンプリングサウンドカードの先駆者
Advanced Gravis Computer Technology
Advanced Gravis Computer Technologyは1982年にカナダのブリディッシュコロンビア州で創業されたPC向け周辺機器のベンダーであり、当初はGravis Computer Peripherals Incという名前であった。その後、International and Abaton Resources Ltd.と合併してAdvanced Gravis Computer Technologyに改称される。
同社の主力製品は1991年に投入したPCゲームパッドで、一時はこのゲームパッドで世界No.1のシェアを握ったこともある。1994年にはPhoenix Flight & Weapons Systemという、フライトシミュレーター用のコントローラーやジョイスティック類を出している。ただ、サウンドの世界ではGravis UltraSound(GUS)を世に出したことが大きい。
GUSは1992年10月に発表された。このGUSが他のカードと大きく異なっていたのはサンプリングベースのシンセサイザーを搭載していたことだ。
画像の出典は、“retronn.de”
カード上にサンプリング用のDRAM(標準256KB、最大1MB)を搭載し、このDRAM内に音源データを格納して再生できるという、これまでにない特長を持っていた。
シンセサイザーはモノラルで32声、またはステレオで16声が同時発声可能で、これをボード上のアナログミキサーで制御できる構造になっていた。その一方でOPL2/3などは搭載しておらず、SoundBlasterとの互換性もない、ある意味割り切った構成が特徴だったわけだ。
ところが従来のサウンドカードでは不可能な、非常にリアリティのある音が出せると好評で、id SoftwareのFPSゲームDoom/Doom II/Duke Naken 3Dなどはわざわざこれをサポートしている。
またMEGADEMOでもGUSは評判で、Debut/DarkzoneやTimeOut/Epicalなど、1992~1993年に登場したMEGADEMOの中にはGUS専用のものも少なくなかった。何を隠そう筆者もこのMEGADEMOの対応でGUSの存在を知った口である。
これに続き、1994年にはGUS MAXを投入する。こちらは初代GUSにCrystal SemiconductorのCS4231を追加し、また標準状態で512KBのRAMを搭載したモデルである(最大1MBは同じ)。
CS4231はWindows 3.1向けに規定されたサウンドカードの標準規格「Windows Sound System」に対応したチップであるが、あいにくGUSのI/Oポート設定がこのWindows Sound Systemとバッティングしており、GUS MAXもGUSとの互換性を保つためにI/Oポートの設定を変更しなかった。
その結果、肝心のWindows Sound Systemがサポートできないありさまであった。ただCS4231はSoundBlasterのソフトウェアエミュレーション機能を持っており、こちらを利用して音を鳴らすことは可能だった。
翌1995年にはPnPに対応したUltraSound PnPをまずリリース、ついでUlrtaSound ACE(Audio Card Enhancer)をリリースする。これはCreative TechnologyがリリースしたWave Blaster(MIDIシンセサイザー)と互換性を持った製品である。
さらに1996年にはUltraSound Extremeをリリースする。これは初代GUSに、ESS TechnologyのES1688チップを搭載した製品だが、単体販売はせずにOEM供給のみであった。こうした製品とは別に、GUSチップのOEMも行ない、AMDはこれを受けてAMaDeus(Am78C201)として販売したりしている。
ただ初代GUSのリリースから3年経っても、GUSのコアとなるサンプリングベースの音源機能にはなんの進化もなく、いささかスペック的に見劣りしたことに加え、Windows 95への対応が遅かった。一応最終的にWindows 95/98向けのドライバーがリリースされたが安定性が悪く、そもそも動かないことの方が多かった。
このWindows 95/98への対応が遅れたのはGUSの商品性を著しく損なうことになった。というのは、若干スペックは落ちるものの、やはりサンプリングベースの再生が可能なSoundBlaster AWE32にはしっかりとWindows 95/98で動くドライバーが提供されていたからだ。
結局同社は1997年に、やはりPC向け周辺機器を手広く扱っているKensington Computer Products Groupに買収され、製品ラインナップはばらばらにされたうえで一部が切り売りされるような格好になった。
GUSシリーズのサウンドカードは早い時期に放棄されてしまい、今ではサンプリングベースのサウンドカードの先駆者という名前だけが残っている。
この連載の記事
-
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第792回
PC
大型言語モデルに全振りしたSambaNovaのAIプロセッサーSC40L Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第791回
PC
妙に性能のバランスが悪いマイクロソフトのAI特化型チップMaia 100 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第790回
PC
AI推論用アクセラレーターを搭載するIBMのTelum II Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第789回
PC
切り捨てられた部門が再始動して作り上げたAmpereOne Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第788回
PC
Meteor Lakeを凌駕する性能のQualcomm「Oryon」 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ