現場に聞いたAWS活用事例 第7回
“フツーの会社”の情シスが進めてきたAWS導入の葛藤と意識改革とは?
AWSの導入で内製化を加速した千趣会の情報システム部
2017年01月23日 07時00分更新
先進的な事例の目立つ「AWS Summit 2016」のセッションにおいて、4年かかって社内サーバーをEC2に移行し続ける千趣会のセッションは、一足飛びにクラウドに行けない日本の普通の会社に刺さる内容だった。「なに1つ珍しいことはやっていない」というAWS導入や情シスに起こった変化について千趣会の情シスの3人に聞いた。(聞き手、アスキー大谷イビサ 以下、敬称略)
サーバーの乱立と保守切れからAWSの導入を検討
大谷:まずはクラウド導入の背景からお聞かせください。
池本:10年前は、われわれもほかの会社と同じように、自社の社屋に空調設備やラックを置いて、サーバーを導入していました。でも、さすがにコストも運用負荷もかかるということで、それらをIBMのデータセンターに移したのが2008年。その後、仮想化によるサーバー集約を目的にIBMの「MCCS」というプライベートクラウドを導入しました。でも、2012年頃にオープンシステム系のサーバーが保守切れを迎えることになったんです。
中島:正直、サーバーの容量が増えたことで、MCCSのキャパシティがどんどん限界に近づいていたんですが、かといってオンプレミスに戻るとサーバーが乱立します。そのため、AWSへ積極的に移行することにしたんです。
大谷:AWSを選定した背景を教えてください。
池本:パブリッククラウドを選ぶ際には、AWSを含め、いくつかの選択肢がありました。とはいえ、2012年当時は専用線でクラウドと直収できるサービスが意外となかったんですよ。その他、使った分だけ課金されるとか、豊富なメニューを考えると、AWSが魅力的でしたね。
杉森:今までテスト環境を用意するには、まずリソースを用意するという手間が発生していました。それをなるべく短くするためにはAWSが最適でした。
中島:当初はコストも重要でしたが、今から考えれば、調達の迅速性の方が大きかったかもしれません。
入社していきなりクラウドからスタートした
大谷:ということで、導入なわけですけど、セッションに聞いた限りでは、AWSに詳しい人間が社内にはいなかったんですよね。
池本:そうです。杉森は2012年に入社したばかりだったけど、いきなりクラウドサービスの選定を任されたんです(笑)。しかもわれわれは物理サーバーを立てるとかイチからやったんですけど、彼は最初からクラウドです。CD-ROMからOSインストールするのではなく、最初からWebブラウザのコンソールでサーバーを立てることになったんです。
大谷:最初の印象はどうでしたか?
杉森:そもそも物理サーバーを触ったことないので、クラウドに抵抗はありませんでした。なるほど、こんなものなのかと。
池本:僕は気持ち悪かったです(笑)。このサーバー、どこにいてんのやろと思いました。でも、コンソールでポチポチするだけなのに、ちゃんと応答が返ってくる。ネットワークの設定も今までみたいにルーターに入らなくても、Webブラウザから設定を変えると、きちんと反映される。なんや気持ち悪いと思ってました。
中島:オンプレミスだったら、基本的にサーバー動かし続けなければならないけど、AWSの場合、時間が決められるじゃないですか。社内サーバーだと使わない時間もあるので、それは便利だなと思いました。
大谷:大阪には当時、相談できるSIerがいなかったとお話してましたが……。
杉森:そうですね。AWSさんも当時、大阪の拠点もできたばかりだったので、営業の方に来てもらっていろいろ教えてもらいました。当時、大阪で唯一導入されていたのが、あきんどスシローさんだったんですけど、こっち側にベースの知識がなかったので、講演を聞いても「すごいなー」と思うだけでした。
中島:関西のAWS事例ではスシローさん、モノタロウさん、ロート製薬さんが知られてますね。
使いこなせるまではひたすらトライ&エラーの繰り返し
大谷:池本さんや杉森さんは、どうやって使いこなしたんですか?
池本:ひらすたトライ&エラーです。私や杉森がAWSの講習会を受け、ベーシックな操作方法を得た後は、操作と設定を繰り返して、イメージを作っては消しの繰り返し。本を買って、ネット調べて、AWSさんの勉強会に出てという感じで、珍しいことはやってないです。
杉森:立ててみたら、IPアドレスがバッティングするとか、しょうもないミスもしながら、多少止まっても大丈夫な社内サーバーを少しずつ動かして行きました。
大谷:どんなサーバーを動かしたんですか?
中島:基本的なポリシーは、ホストや勘定系など重要度の高いサーバーに関してはIBMのMCCS、あまり重要度の高くないサーバーはAWS、そしてソフトやハードの制約があるサーバーのみオンプレミスに置くという感じです。基幹系のデータを扱うサーバーは、ネットワークやセキュリティ、運用の観点でもホストの近くの方がよいので、基本はMCCSです。とはいえ、今は人事系や物流系など、最近は事業戦略に近いサーバーもAWSに移行していますね。
池本:最初に移したのは、特定部署のホームページサーバー。多少落ちても、それほど困らないし、処理が小さいので、インスタンスのサイズも小さくて済む。
中島:逆に社内の業務システムは落ちると影響が大きいので、これはAWSに載せてないですね。100近いシステムがありますが、基幹系との連携が少なく、社内に閉じていて、Windows Server 2003の保守が切れたサーバーから随時動かしています。現状では3割くらいはAWSだと思います。
大谷:さすがに実績が増えてきたんですね。
杉森:いろいろ勉強することで、今まで要件的に載せられなかったサーバーもAWSに載せられるようになりました。監視に関しても、当初はわからなかったのですが、CloudWatchを使えるようになったら、サービスレベルが守れるようになった。こうなると、さらに載せられるシステムが増えるので、次はAWSにしてみませんかという提案ができるようになる。こうして、AWS上で動かすサーバーをどんどん増やしてきました。
正直、普通の会社だからAWSの導入が増えたという事情もあると思います。サーバー構築をアウトソーシングする場合は、当然その作業に対しての対価を支払うわけなんですけど、今まではどういう作業をやっていたかすべてを把握していたわけではないし、全部のサーバーでそういう作業をお願いしていた。でも、先ほど話したように、多少落ちてもいいようなサーバーに関しては、情報システム部がリスクをとって自分たちでサーバーを提供するようにすれば、コストメリットを得られるんです。
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