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現場に聞いたAWS活用事例 第2回

「世界中の名刺をすべて取り込む」というゴールに向け挑戦中!

AWSやChefをフル活用!名刺管理サービス「Eight」の舞台裏

2014年01月23日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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50万ユーザーを突破した個人向け名刺管理サービス「Eight(エイト)」と法人向けサービス「Sansan」を手がけるSansan(サンサン)。高いデータ化精度と使いやすいスマートフォンアプリを売りに、古典的な名刺管理の市場に風穴を空けたサービスの概要と裏側に迫る。

スマホ&クラウドネイティブな名刺管理とは?

 ビジネスマンの人脈形成において、もっとも重要な名刺交換。しかし、紙ベースの名刺は管理や検索が難しく、部署や会社での共有にも課題がある。もちろん、デジタル化のツールも数多く市場を賑わしているが、高価な営業支援システムや精度の低いスマホアプリばかりで、なかなか決定版に当たらないというのが正直なところ。こうした中、ビジネスマンの心をつかみつつあるのが、新世代の名刺管理サービス「Eight」だ。

 Eightの開発を手がけるSansan Eight事業部 開発統括責任者 宍倉功一氏は、「最新のユーザー数は50万人。一日で数万単位の名刺が取り込まれており、管理している名刺はすでに1000万枚を超えます」と実績について語る。

Sansan Eight事業部 開発統括責任者 宍倉功一氏

 Eightを展開するSansanは、もともと2007年から法人向けの名刺管理サービスとして「Sansan(旧リンクナレッジ)」という有料サービスを展開している。これに対して、2012年からスタートしたEightが焦点にしているのは、個人の名刺管理だ。両者の違いについて宍倉氏は、「法人向けの場合、名刺を会社の資産として顧客管理や営業などで使います。一方、Eightはあくまで個人を基準としたソーシャルグラフをメインとしています」と語る。

 Eightの利用はきわめてシンプルだ。アカウントを作り、スマホアプリを導入した後、カメラで名刺を登録すればよい。「外出先でも簡単に取り込めるようにスマートフォンに特化したサービスとしてスタートしました」(宍倉氏)。登録した名刺へのタグ付けやグループ化も容易で、名刺からの電話やメール、あるいはEightユーザー同士のメッセージなどコミュニケーション機能も充実。所属が変わっても名刺情報が自動的にアップデートされ、他の人にきちんと通知されるというのもクラウドならではの強みだ。

スマホアプリが前提だが、PCからも利用できるEight

 なにより、Eightの最大の特徴は、名刺情報の取り込み精度にある。宍倉氏は、「撮影した名刺情報の登録は、オペレーターが行ないます。これにより、取り込み精度を限りなく100%に近づけています」と語る。検出精度に課題のあるOCRに取り込みを任せるのではなく、人やお金をかけて取り込み精度の問題を解決するのが、同社の矜持と言えるだろう。宍倉氏は「オペレーターが入力するインターフェイスや、データ入力前の前処理に何が必要かなど、Eightでは法人向けのSansanのノウハウを活かしています。精度の向上に関してもサンプリングしており、なぜ失敗が起こるのかを定期的にチェックしています」とその取り組みをアピールする。

 名刺管理は昔からあるが、今なぜEightが注目されるのか? 宍倉氏は、Eightのコンセプトに時代が追いついたからだと分析する。「私自身、10年前の学生時代に、とあるベンチャーにて交換した名刺を死蔵させないで、活用できるサービスを開発してきました。でも、当時はiモードやPalmの時代だったので、デバイスが追いついていませんでした」(宍倉氏)。しかし、今は高解像度のカメラを持つスマートフォン、そしてデータの活用プラットフォームとしてのクラウドが登場。名刺のデータ化や閲覧、活用が以前に比べても、圧倒的に容易になったわけだ。

当時のプライベートクラウドからAWSへ

 好調にユーザーを増やすEightのインフラは、現在AWSをフル活用して構築されている。実は、同じ名刺管理でありながら法人向けのSansanと個人向けのEightはインフラは大きく異なっている。両者のインフラを手がける間瀬哲也氏は、「名刺管理っていくつかフェーズがあって、最初はアドレス帳として管理してるんですけど、そこから溜まったデータを活用したいというニーズが生まれます。この活用の仕方が個人と法人でけっこう異なるんです」と語る。

Sansan インフラストラクチャ部 Eight担当マネジャー 間瀬哲也氏

 両者とも名刺管理は個人情報を取り扱うため、セキュリティを最優先するのは変わらない。だが、個人向けのEightでは急激なユーザー増加も見込まれるため、高い拡張性も重要だった。また、スモールチームでの運用を前提とした低廉なコストも求められた。この結果、オンプレミスで構築されたSansanに対し、Eightは当初からクラウドサービスの利用を想定していたという。

 しかし、クローズドベータを展開していた2010年当時は、AWSも国内のクラウドサービスも未成熟な状態だった。「AWSの東京リージョンもありませんでしたし、セキュリティ設定やAWS独自の機能を使いこなせるかも不安があったため、国内サービスプロバイダーのプライベートクラウドで構築していました」(間瀬氏)。その点、問題になったのは拡張性をいかに確保するかだ。「スケールする部分をパブリックで、スケールしない部分をプライベートでやる必要がありました。しかし、これを当時のプライベートクラウドでやるとネットワークが複雑になる可能性があったんです」(間瀬氏)。

 インフラの再整備を考え、数多くのサービスやオンプレミスの可能性まで検討した結果、最終的にAWSに落ちついた。移行期間も短く、経験者もいなかったが、AWSのインテグレーションで多くの実績を誇るサーバーワークスにコンサルティングを依頼。設計や構築までを2ヶ月で実現した。間瀬氏は「オンプレミスやレンタルサーバーを使うのと異なるいわゆる“AWSのお作法”に不安がありましたが、勉強会にも行きましたし、サーバーワークスさんのサポートもあってなんとか乗り切れました。実質、手を動かしたのは3週間くらいでした」と振り返る。

 Eightのシステムは、AWSで提供されているサービスを可能な限り組み合わせて構築されている。仮想サーバーのAmazon EC2の利用は最低限に抑え、セキュアな環境を構築しやすいAmazon VPC(Virtual Private Cloud)をメインに採用。大量の名刺データはAmazon S3(Simple Storage Service)とAmazon RDS(Relational Database Service)で管理し、Multi-AZ(マルチアベイラビリティゾーン)配置で可用性を向上させている。ただ、最近はデータベースも用途にあわせて複数を使いこなしているとのこと。宍倉氏は「だいたいはRDSですが、メッセージのようにデータの件数が逐一増えるものはDynamoDB、一時的にアクセスを増やすためにはmemcachedなどを利用しています」と語る。その他、Route53(DNS)、SES(Simple Email Service)、ELB(Elastic Load Balancing)、SQS(Simple Queue Service)などAWSのサービスを活用することで、運用やセキュリティ対策の負荷も大幅に軽減している。

 AWSを導入したことで、『とれたま』で取り上げられた際に、Webへのアクセス増加をしのげたという。「アクセスが急増することは予測できていたので、放送開始前くらいからWebサーバーを大量に起動しておき、落ち着いたら元に戻すことにしました。もちろん、Auto Scalingで対応することもできましたが、起動したばかりのインスタンスのウォームアップをしておく必要もあったので、負荷に応じて追加ではなくあらかじめ用意しておくことにしました。こうした処理が柔軟に行なえるのがAWSの強みですね」(間瀬氏)。

(次ページ、Chefを使いこなして自動化を推進)


 

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