IoTや田舎案件、地方DC、リモートオフィス、地球温暖化予想まで
四国中の濃い人が集まるクラウドお遍路はうどんに負けない歯ごたえ
2016年11月01日 07時00分更新
四国4県のJAWS-UGが一堂に会する「四国クラウドお遍路」が、今年も開催された。2016年の開催地となったのは、うどん県高松市。高松駅からほど近い複合施設の一画、2つの会議室を使って2トラック12セッションが展開された。
準備万端で向かう予定が時間切れ
のっけから私事で申し訳ないが、せっかく四国に来たんだし、お遍路だし。ということで、取材前に八十八ヶ所札所巡りを敢行した。「お遍路してからクラウドお遍路に来ました」とひとこと言いたかった、ただそれだけのために回ったのだが、七十九番札所 天王寺まで巡ったところで時間切れとなり、中途半端な状態で取材に向かうことになった。
ちなみに時間切れで終わったのみならず、今年はうるう年なので逆打ち(八十八番から一番に向けて回る)の年だったのに正順で回っており、二重に残念な結果となっている。このリベンジは年内に必ず、と心に誓っている。
さて、そんなこんなで乗り込んだクラウドお遍路2016の様子をお伝えしよう。2トラックに分かれているため全セッションを取材することはできなかったが、四国らしい話題を選んでピックアップしていきたい。
東京と地方でリソースを奪い合わない生き方を提案するサイファー・テック
セキュリティ技術を中核として、DRM技術やスマホゲームアプリのチート対策機能などを提供するサイファー・テックの吉田基晴さんは、半東京半地方のワークスタイルを提唱した。社員には半X(エックス)半ITを勧めているという。
一例として紹介された従業員の住吉さんは、かつて東京の企業に勤めており、片道1時間半を通勤に費やしていた。それが徳島県海部郡美波町にあるサイファー・テックのオフィスで働くようになってからは、平日の朝に趣味のサーフィンを楽しむ余裕が生まれたという。半サーファー半ITという訳だ。
「地方にはビジネスチャンスが少ないと言われますが、課題はいっぱいあります」(吉田さん)
地域にすでに存在する資産であるコト・ヒト・カネ磨き直して、地域課題を解決することでビジネスチャンスは生まれる。仕事がないなら、仕事を持った人や仕事を作れる人を地方に呼べばいいと吉田さんは言う。実際に大阪のクラウドシステム開発会社の鈴木商店が、徳島にクラウドオフィス「美雲屋」を開設し、子育てしながらゲーム開発を行なうなどし始めているという。また、仕事があるのに若者がいないというなら、若者を集めればいいとも言い、実際に自身で取り組んでいるハッカソンやインターン、美波クリエーターズスクールについて紹介した。これらの参加者の中からは、毎年数名が美波町に就職を決めているという。
この吉田さんのセッションは他にも濃い話が盛りだくさんだったので、別の記事で改めて紹介したいと思う。
ソラコム片山さんがIoTの重要性について語る
ソラコムの片山 暁雄さんは「IoTで高める四国力」と題したセッションで登壇。IoTの重要性について説いた。IoTは今や重要なビジネス基盤であるにとどまらず、国の施策でも取り上げられており将来の社会基盤としても期待されている。そうした中、IoTの世界でイノベーションが加速していると片山さんは言う。
「ここ数年のイノベーションは、モバイルとクラウドがもたらしました。これらの技術革新が失敗コストを大幅に下げたために、事業者は次々と新しいビジネスモデルにトライできるようになったのです。資金調達の面では、キックスターターなどのクラウドファンディングも一役買っています」(片山さん)
以前はIoTで新しいシステムを構築するためには、サーバーを用意するところからスタートしなければならなかった。それが今ではクラウドを使い、サービスモデルをスピーディに実現、トライできる。そして、IoT機器とクラウドを結ぶ通信部分を担っているのがSORACOMなどの通信企業だ。
「長距離、安価、省電力な通信サービスが多く提供されており、これからもIoTの革新を支えていくでしょう。もちろんSORACOMもその一翼を担っていきます」(片山さん)
全国代表立花さんは田舎案件とAWSの親和性について力説
続いて登壇したのは、JAWS-UG全国代表でもあるヘプタゴンの立花 拓也さん。「田舎案件でのAWS活用術」と題して、田舎案件でありがちな要件をAWSでどの程度低コスト化できるのか、実際に試した結果を公開してくれた。
田舎の小規模案件との相性が良いt2.microインスタンスに、100ドメイン分の架空サイトを設置。半分はWordpressで、残り半分は静的サイトとして構築してストレステストを行なった。EC2インスタンスでは負荷が高まるとCPUクレジットが消費され、処理能力が制限されるが、100ドメインに対して一般的に想定されるアクセスを行なってみてもCPUクレジットが減ることはなかったそうだ。
「CPUクレジットに余裕がある状態であれば、毎分500PVくらいまではt2.microインスタンスで対応可能でした。CPUクレジットを定期的に監視して、減り続けるようならアップグレードが必要だと思いますが、初めから大規模なインスタンスを立てなくてもある程度の要求には応えられることがわかりました」(立花さん)
EC2だけではなく、Lambdaを使ったCPUオフロードも田舎案件では効果的だという。Lambdaなら使わない時間の料金は発生しないため、使用頻度が低いシステムや不定期に発生する案件では特に大きなコスト低減効果を示す。効果をわかりやすく示すため、一般社団法人MAKOTOでのシステム構築事例も紹介された。
「手作業で行なっていた車内の統計処理をAWSでシステム化しました。作業頻度が低いのでS3とLambdaを使ったサーバーレスでスケーラブルなシステとして構築し、使用しない時間はコストが発生しないシステムになっています。保守費用も個別対応が必要なときだけ従量でいただく契約にして、システム維持費を限りなく低く抑えることができ、お客様からも喜ばれました」(立花さん)
立花氏はこれらの田舎案件におけるAWS活用のテンプレートをICDP(Inaka Cloud Design Pattern)として普及させる活動も行なっている。CDPをもじったものでロゴもソックリ。ふざけているかのようだが取り組み自体はいたって真面目。
「ニュースになるのは都会での華々しい案件ばかりですが、地方進出の小さな案件でもAWSは役に立つんだと伝えていきたいと思っています。賛同くださる方には、青森土産の飴を差し上げます」(立花さん)
そう言って会場の参加者に飴玉を配り、セッションを終えた。「関西の人には飴ちゃん配っとけば仲良くなれると聞いた」と言う立花氏。出所の怪しい情報に惑わされているのでなければいいのだが。
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