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最新ユーザー事例探求第28回

市内70校のファイルサーバーを統合し、データセンターへ

安全性重視だからVNXe!高松市教育クラウドでの選択

2013年04月23日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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香川県の高松市教育委員会は、校務システムのクラウド化を推進することで、教職員の負担を軽減するとともに、セキュリティや災害対策なども万全にした。こうした教育クラウドにおいて、高松市にある70校のファイルサーバーを統合したのがEMCの「VNXe」である。

延びる残業時間や情報漏えいのジレンマなどの課題

 “うどん県”を地域ぐるみでアピールしている香川県の県庁所在地である高松市。この高松市内の小中学校を所管する高松市教育委員会では、国の指針に基づき、教育研究や職員の研修、不登校児の対策、そして教育の情報化などを推進している。委員会が設置されている高松市総合教育センター前所長の川上伸吾氏は、「もともと小学校だったところを改修し、平成23年度に念願の高松市総合教育センターができ、職員の研修もここで一括で行なえるようになりました」と語る。

高松市総合教育センター 所長 川上伸吾氏

 小中学校で70校を数える高松市の教育現場でコンピューターが本格導入されたのは、今から10年前。2002年に示された「e-Japan計画」を元に、特別教室でのPC導入からスタートし、その後普通教室でのPC導入や教員を含めたソフトウェアの整備、さらに各校や施設を網羅するセキュアな高速ネットワークの構築を進めた。こうした生徒・教職員へのPC整備が済んだ2012年、次のステップとして進められたのが、今回紹介する「校務の情報化推進事業」である。

 このプロジェクトは、既存の教育用ネットワークを活用し、教員の校務を支援するシステムをクラウド上に構築。校務の効率化と教員負担の軽減を実現すると共に、課題となっているセキュリティ面の課題にきちんと対応するのを大きな目標としている。

 この背景には、教員の残業時間が以前に比べてどんどん延びているという実態がある。文科省の調べによると、この40年間(1966年~2006年)で教員の残業時間は、約8時間/月からなんと約34時間/月にまで延びているという。事務処理や生徒指導、補習・部活動など、授業以外で費やす時間が長くなっているのだ。「子供たちがいるときは、子供たちにかかりきりになっています。そのため、授業時間以外で残務をこなそうとすると、帰る時間が夕方5時になり、7時になり、9時になるというケースが増えているのです」(川上氏)という実態があった。

小学校の校舎を用いた高松市総合教育センター

 しかも、残務をこなそうと自宅に仕事を持ち帰ると、自ずと情報漏えいのリスクが顕在化する。私物のPCやUSBメモリなどにデータを保存すれば、ネットワーク上に情報が漏えいする可能性が高くなるからだ。実際、高松市では漏えいに至ったケースはないが、USBメモリを紛失したという事例はあったという。そのため、個人情報の校外への持ち出しは禁止しているが、こうすると学校のPCでしか作業ができなくなる。「子供をお持ちの先生は、夕食を作りにいったん家に帰り、お子さんを寝かせてから、学校で作業するといった例もあったようです」(川上氏)といった勤務態勢を強いることになり、教職員側も、教育委員会側も、ジレンマとなっていたわけだ。

 教育へのニーズが多様化する中、教職員の業務自体を減らすのはなかなか難しい。また、作業やデータの持ち帰りに関しても、業務に熱心に打ち込んでいる結果の行為であり、一律に禁止するのは問題がある。そもそも校務処理が紙ベースで構築されてきたため、無駄も多かった。「たとえば、担任は子供の名簿を作るのですが、集金関係の担当は別で名簿を作ります。成績を付ける場合は、また名簿を作るんです。通知表や学びの便りも学校ごとに違います」(川上氏)という。こうした数々の課題を踏まえ、紙ベースを前提としてきた校務処理を見直し、電子化・標準化を推進。さらにシステム自体やデータを全校で共有しようというのが、情報化推進事業のポイントになったのである。

東日本大震災を念頭にクラウドを検討

 注目すべきは、校務支援システムなどを「TENSクラウド」と呼ばれるデータセンターのインフラ上に構築し、可能な限り学校にデータやサーバーを置かない仕様になっている点だ。

 文科省がクラウド戦略を推進していることやセキュリティ対策といった背景もあるが、クラウド化に踏み切ったのは、災害対策という面が大きい。ご存じの通り、東日本大震災で津波の被害に遭った学校では、職員室に設置された校務用PCやサーバーが損壊・流出し、内部データは復旧できなかった。また、指導要録の入った金庫は行方不明になったほか、浸水した書類は再利用不能だ。穏やかな瀬戸内海に面している高松市ではあるが、「南海トラフの地震も懸念されているので、東日本大震災は決して対岸の火事ではありません。人命尊重はもちろんですが、子供たちの大切な情報をきちんと保護・バックアップする体制が必要だと考えました」(川上氏)とのことで、学校単体で情報管理する体制を止めようと考えたという。

 こうしたプロジェクトを進めるべく、2012年に高松市教育委員会では事業者と学校の関係者を集めて、断続的に検討会を開催した。教育クラウドというコンセプト自体が新しいものだが、「教育委員会の独断ではいけないので、学校側ときちんとタイアップしながら、業者さんからも意見を頂戴しました。その結果、どんな形が学校にとって最適か、使い勝手やセキュリティが確保できるか、十分な時間をかけて検討し、仕様策定を進めました」(川上氏)という。検討会では、大きくクラウドと校務支援システムの内容が検討され、前者はセキュリティポリシー、構築費用、サポート体制、後者は共有すべき電子情報の在り方、整備費用、サポート体制などが練られた。

 そしてこれらのシステム要件をまとめ、教育クラウドのインフラを構築したのが、愛媛県今治市に本社を置く四国通建である。四国通建は電気通信やITソリューションのほか、土木・建築、電気・消防設備まで幅広く手がける事業者で、前回高松市教育委員会のシステムを受注しているという経緯があった。四国通建 高松営業所 所長の近藤靖氏は、「文教系のシステムは数多く手がけてきたのですが、ここまで大きいシステムは初めてでした。ですから、弊社のSE部隊を高松に集結させ、システムを確実に動かすこと、そして高松市教育委員会様のニーズを確実に網羅できるよう腐心しました」と述べ、全社体制でシステム設計と構築に取り組んだと話す。

四国通建 高松営業所 所長 近藤靖氏

 川上氏から持ちかけられたシステム面の検討で大きかったのは、やはりサーバーの物理的な所在位置だったという。移ったばかりの高松市総合教育センターにサーバーを設置するか、あるいは市内のデータセンターに設置するかという点だ。近藤氏は、「災害対策や電気設備という面も大きかったのですが、もともとWebサーバーやメールサーバーが、すでにSTNetさんのデータセンターにあったので、移行がスムーズという事情もありました。光熱費やセキュリティを考えても、データセンターへの移設が適切とご提案させていただきました」と語る。

 同社はデータセンターや回線サービスを提供するSTNetとともに、高松市教育委員会が主催した検討会に参加。その結果、グループウェアの導入やファイルサーバーの統合、Active Directoryをベースとした認証システムなどを提案した。校務用サーバーはデータセンターに統合したクラウドで運用し、校外からセキュアにシステムを利用できる仕組みも盛り込んだ。

 また、校外からのセキュアなシステム利用に関しては、VMwareを用いたVDIを提案した。四国通建 ICT事業部 高松営業所の尾崎俊夫氏は、「VPNという提案もあったのですが、『これだとデータをローカルに保存できてしまう』という委員会のご意見もありました。なにより先生たちが普段と同じように使えるという点を重視すると、VDIという選択肢しかありませんでした」と語る。ハードウェアトークンを用いない二要素認証を導入し、セキュアな外部接続を実現したのも大きなポイントになっている。

四国通建 ICT事業部 高松営業所 尾崎俊夫氏

(次ページ、大事なファイルサーバーだからこそVNXeを使いたい)


 

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