世の中になくて、人が驚いてくれる製品を開発できないか
「MOVERIO BT-300」 - エプソンが挑むAR / スマートグラスのあるべき姿
2016年11月22日 11時00分更新
「BT-300」 - スマートグラスのあるべき姿の始まり
その後「BT-200」を経て開発されたのが今回の「BT-300」だ。最大の特徴は、独自開発のシリコンOLED(Si-OLED)を採用したこと。シリコンOLEDによってバックライトが不要になり、小型軽量化を実現。さまざまな工夫も盛り込むことで、デバイス全体で大幅な小型軽量化を実現した。
エプソンがディスプレイ事業を譲渡したとき、残された技術の中に有機ELがあった。これを発展させた独自技術を採用した製品がBT-300なのだ。しかも単なる有機ELではなく、シリコンを採用したシリコンOLEDであり、0.43型という小型ながら高輝度で長寿命のものが実現でき、量産化のめどが立ったことも、BT-300の開発を後押しした。「実は世界で最も明るいクラスの有機ELディスプレイ」と津田氏。この明るさに加え、コントラスト比10万:1というコントラストの高さも重要で、「これによって画面が表示されているという感覚がない映像表現ができた」と髙木氏は明かす。
また、シリコンOLEDを利用した商品化の第1号がこのBT-300であり、その結果、ヘッドセットの重さは約69gまで軽量化。サイズもさらに小型化し、よりメガネに近いデザインになった。津田氏は、「企画当初に想定していた製品ができた。(スマートグラスの)あるべき姿の始まりがBT-300」とアピールする。
軽量化追求のためのデザインをふんだんに盛り込む
メガネ型デザインを追及することによる難しさもあった。「(実際の)メガネと比べられるので、どうやって重さを感じずに軽くしようかと工夫した」と鎌倉氏。約69gと軽量化したとはいえ、やはり一般的なメガネよりは重い。そこで、BT-300を支えるツルの形状を工夫。従来よりも巻き込みを大きくして、後頭部から頭を抱えるような設計を加えた。これによって、頭を振ったりしてもズレにくく、安定して装着できるようにした。
さらに、メガネメーカーと協業することでメガネの技術を投入したという。特に、鼻あての部分では、鼻パッドの面積を大きくするなどして、BT-300を支えても鼻が赤くなったり痛くなったりしないように工夫した。もともと、メガネは装着性が定量的にデータ化されておらず、個人個人が自分に合わせて購入する。BT-300はそれができないため、これまでの経験を生かして重量バランスを計算してきた。そうした蓄積したノウハウも生かされているのがBT-300だ。
光学設計とディスプレイ設計の双方を垂直統合で開発
さらに、「ディスプレイにとんでもない小細工が入っている」と津田氏。本来、ディスプレイの光は直進するか散乱方向に拡散する。これは視野角を確保するためだ。しかし、BT-300ではこれを中心部分に向かうように設計した。それは、「ディスプレイの光を受けるレンズを小さくできる」(津田氏)ためだという。こうした工夫ができたのは、光学設計とディスプレイ設計の双方を垂直統合で開発できるエプソンだからこそ、と津田氏は強調する。