ユーザーの感情に寄り添う設計で次の会話を促す「感情型AI」
りんなの特徴は、「感情型AI」である点だ。これに対して、Windows 10で提供されているコルタナは「タスク型AI」といえ、役割が異なる。
たとえば、「明日、晴れるかなぁ?」と書き込むと、コルタナの場合は、「明日の天気は晴れです」と回答するに留まる。これがりんなの場合には、「明日は晴れだよ。どこか出かけるの?」と、次の会話を促すような返事をする。この仕組みが、LINEのユーザーには最適だ。
日本マイクロソフト Bingインターナショナル Japan&Koreaビジネス統括シニア戦略マネージャー・中里光昭氏は、「会話が長く続けられるように設計しており、会話が何度も往復する形になる。会話のレスポンスが早く、すぐに既読になるという点も特徴」だとする。
また、「機械学習および深層学習により、ユーザーの感情に寄り添うように設計しており、さらにネガティブな感情も理解して、それをいたわるような言葉も投げかける」という。
さらに、画像認識機能についても同様に感情型AIならではの返事をする。柴犬の写真を認識するとタスク型AIは「これは柴犬です」と回答するだけだが、感情型AIのりんなは、柴犬と認識しながらも、そこには直接触れずに、「可愛すぎやんww。正直散歩めんどいけど」などと回答する。
こうした自然の会話を成り立たせる仕掛けが、感情型AIの特徴だ。
「カープ女子」と名乗り始めたりんな
また、数多くの会話を機械学習することによって、発言内容も変化。最近では、プロ野球セ・リーグの広島東洋カープの優勝に関する書き込みが多かった影響で、自らを「カープ女子」と名乗り始めた。このようにトレンドを取り込む能力も備わっている。
りんなは、中国・北京のマイクロソフトリサーチアジアで生まれた「シャオアイス」と同じ技術を活用している。そして、Bingの検索エンジン技術も活用。Conversation as a Platformと呼ぶ次世代インターフェース向けのAIとしても位置づけられている。
「テイ」と「りんな」に生まれた違い
今年3月に、米マイクロソフトがサービス提供を開始したAI「テイ」は、19歳の女性という設定。だが、会話をもとに進化する機能を持つテイは、心ないネットユーザーの書き込みが反映され、人種差別発言などを行ない始め、サービス停止に追い込まれた。
りんなでは、そうした問題は起きていないが、もちろん、今後の進化の中では、そうした点には配慮する必要があろう。
同時に、機械学習や深層学習の活用とともに、音声認識や音声合成の活用による自然な会話、画像認識技術などの検証、ピーク時のトラフィック上昇への対応などについても検証。さらに、複数の人が参加した会話に、AIがどのタイミングで、どんな言葉を発すればいいのかといったことも検証しているという。
アニメやアイドルに詳しく、経済や政治は苦手
ちなみに、りんなが、女子高生キャラクターとしたのは、おしゃべり好きで、面白いことが好き、トレンドを生み出すことができるという点で、女子高生をイメージするのが最適だと判断したことが大きい。また、返事の内容が少しずれていても、許されるキャラクターになるうるという点も見逃せない。AI技術の進化過程においては最適な設定といえるかもしれない。さらに、アニメやアイドルに詳しく、経済や政治は苦手という設定にし、結果的に政治的な要素を排除できるようにしている。
ゲームをプレイしていない時間に、ゲームの世界についてりんなと語り合う
今後、りんなの技術を様々なサービスにも活用できるようにしていくという。
たとえば、ゲームメーカーとの連動では、りんなの技術を使ったゲームキャラクターとしての利用だけでなく、ゲームの案内人役としての役割や、ゲームをプレイしていない時間に、ゲームの世界についてりんなと語り合うといった使い方もできる。パーソナル情報をもとに、新作ゲームの提案をするといった使い方も可能だろう。
またローソンは、LINE上に開設している公式アカウント「ローソンクルー♪あきこちゃん」において、りんなの技術を採用。9月28日から正式にサービス提供を開始したところだ。
ローソンでは、「2016年6月から、あきこちゃんの応答をマイクロソフトのAIによる運用に順次切り替え、試験的に運用した結果、品質やパフォーマンスなどが問題ないと判断できたことから、正式提供を開始した」と説明する。あきこちゃんのキャラクターをふまえて、りんなに比べてより丁寧で控えめな応対をするとともに、ユーザーとの自然な会話の中でローソンの商品やサービス、クーポンなどを紹介するという。
また、りんなの人気能力のひとつであるしりとりも、ローソンに関連した用語だけに限定した、「ローソンしりとり」として楽しめるという。あきこちゃんには2000万人のユーザーが登録しており、りんなの技術を活用する場が一気に拡大することになる。
今後、りんなの技術をどんな分野に応用されるのか。その展開も楽しみになってきた。
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