法律の本でもありデジタルカルチャーの書でもある「CODE」
高橋 先ほど“レッシグ教授の「CODE」を読んで感銘を受けて法律家を目指した“というお話がありましたが、法律の世界でもやはりデジタル時代の公共圏や公共財という考え方は当時センセーショナルな話題だったのでしょうか?
水野 いや、当初あの本に反応した人は法律系ではほとんどいなかったと思います。僕自身は当時、いまの言葉でいうと「サブカルクソ野郎」でしたから(笑)、完全に文化/社会思想のコンテクストで読んでいましたね。
レッシグ教授のクリエイティブ・コモンズやクリエイティブ・コモンズ・ライセンスという概念は基本的には著作権法をテーマにしたものですが、その姿勢はとてもポップかつパンクで、硬直化し柔軟性を失った著作権法に対するハックとも言えます。そういう意味でアメリカ西海岸のヒッピー文化やシリコンバレーの自由な精神を、法律という切り口からデジタルカルチャーの領域に持ち込んだことが単純にカッコいいと思いましたね。
高橋 僕も法律の勉強をするという感覚ではなく、デジタルカルチャーに関する興味/関心から読んでいました。
水野 あの本はカルチャーの側にいた人たちに法律に対する興味/関心を抱かせたという点がとても大きな功績ですよね。逆に法律の側にいた人たちにカルチャーに対する視線/意識を向けさせたという点も少なからずあります。僕なんかはまさに前者で、あの本によって「クリエイティブ×法律×インターネット」というテーマが自分の中で芽生えてしまったわけですから。
高橋 自分がアーティストやクリエイターになるのではなく、法律家として表現の分野に関わろうとされたわけですね。
水野 まさにそうですね。サブカルクソ野郎ということで言えば、僕はジャック・ケルアック、ウィリアム・バロウズ、アレン・ギンズバーグらに代表される「ビートニク」の文学が大好きだったので、事務所の名前である「シティライツ法律事務所」もそこからとったんです(笑)。
高橋 ああ、あの「ビートニク」の作家たちの本を世に送り出したサンフランシスコの「City Lights Bookstore」が由来なんですね?
水野 「CODE」の日本語版は山形 浩生さんが翻訳されているんですよ。山形さんと言えばそれこそウィリアム・バロウズの著作の翻訳を数多く手掛けた方でもあり、学生時代によく山形さんが翻訳をした本を読んでいたんですね。そのつながりでレッシグ教授の「CODE」を知ったという経緯もあります。
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