インターネット以前の20世紀的な表現の原理がパッケージ化だとすれば、インターネット以降の21世紀的な表現の原理はモジュール化である。
音楽にせよ映像にせよ文章にせよ、デジタル技術によって誰かが産み出した創作物は、デジタルデータゆえの特性として断片化され、細分化され、部品化され、誰かの次なる創作のための素材となり、インターネット上で無限のクリエイティブの連鎖を生起させていく。
しかし、そこには同時に著作物の借用/改変/盗用となる得るリスクも常に潜伏しており、デジタル時代のメディア環境における表現の「自由と規制の拮抗」は、重要かつ喫緊な課題となっていると言えるだろう。そんなデジタルをベースとした創造/創作が主流となった時代に、法律のクリエイティブな解釈によって表現の可能性を模索し続ける弁護士の水野 祐氏に「クリエイティブ×法律×インターネット」の未来について話をうかがった。
CCライセンスは4.0からインターナショナルな統一バージョンに
高橋 4月13日に「DOMMUNE」で放送された「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」の新バージョンのリリースイベントに僕が出演させていただいたとき、水野さんとご挨拶をさせていただいて、近いうちにぜひこの連載で対談をと思っていたのですが、思いのほか早く実現できてうれしい限りです。
5月には「情熱大陸」に出演されたりしていたので、仕事の依頼が殺到してスケジュールが取れないんじゃないかと思いましたが(笑)。現在、水野さんは「クリエイティブ・コモンズ・ジャパン」の理事もされていますが、その活動に参画されたのはいつ頃からなんですか?
水野 2008年からですね。もともと「クリエイティブ・コモンズ」の提唱者であるローレンス・レッシグ教授の「CODE」(翔泳社刊)などの著作を読んで感銘を受けて法律家を目指したという経緯があるので、かなり以前から注目はしていましたが。
高橋 レッシグ教授の「CODE」が出版されたのが2000年で(日本で翻訳が出版されたのは2001年)、翌年には米国でクリエイティブ・コモンズが創設されましたよね。日本における活動の拠点であるクリエイティブ・コモンズ・ジャパンが設立されたのはいつ頃だったんでしょう?
水野 これが比較的早くて2004年なんですよ。2003年から準備会は発足していたんですが、日本語版のクリエイティブ・コモンズ・ライセンスがリリースされたのはその翌年で、本国に次いで2番目ということになります。
高橋 あっ、そうなんですね。僕は大学時代の恩師である武邑 光裕先生が札幌市立大学の教授だった2008年に「iCommons Summit 2008」という国際会議にレッシグ教授を招聘されて、その頃からデジタル時代における創造/創作という視点からクリエイティブ・コモンズを意識するようになりました。水野さんが関わり始めたのもちょうどその頃なんですね。
DOMMUNEのときにもクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの新バージョンについては当日司会をつとめてくださったドミニク・チェンさん(クリエイティブ・コモンズ・ジャパン理事)から説明がありましたが、せっかくなので水野さんからも読者向けに軽く紹介してください。
水野 そうですね、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは15年以上の歴史がありますが、時代の状況合わせてあたかも生き物のように変化していて、今回のバージョンアップで4.0ということになります。変更点のすべてをここで紹介しているとあまりにもマニアックな話になってしまうので(笑)、詳細は公開されているデータを参照していただければと思います。
ただいちばん大きな変更点は、これまで各国ごとの著作権法の事情に合わせて微妙に異なっていた内容をインターナショナルなもの1つに統一したという点です。その日本語版が先頃リリースされたということですね。
高橋 バージョンアップの方向性としては以前よりも簡略化されたということなんでしょうか?
水野 一概にはそうとも言えなくて、インターナショナルな統一バージョンということでは簡素化ですけれども、新たにデータベース権に対応する規定が入るなどしたり、これまで「Works」と呼んでいた著作物を「Material」という表記に置き換えたり、時代の要請に合わせてよりきめ細やかになっている部分もありますね。
ほかにも、誰かの創作物を使用した際にはリスペクトを表明する意味で作者の名前を表記しましょうという考え方が一般的にはあるんですが、なかには名前を出したくないという権利者もいるんですよね。なので、「by-」というクレジットの表記義務を免除する選択肢を新たに付け加えたりしています。
高橋 なるほど、作者の中にはクレジットされることがかえって使いにくいという場合もあるんですね。素材の利用者のニーズだけでなく、制作者のニーズも実に多様ですね。
水野 そうなんです。クレジットの表記を拒否する人たちの中にも、全員が完全にフリーでの利用を望んでいるのかというとそうとばかりも言えなくて、名前は入れたくないけれども商用利用は不可というケースもあったりします。
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