青い山並みにあざやかな紫色が映える。ミツバツツジの花だ。
ミズナラ、シラカバ、ダケカンバ。木々の緑がまぶしく、木漏れ日の奥からはウグイスの声。カエルのような声で鳴いているのはハルゼミという3cmくらいの小さなセミ。「天気がいいと鳴くんです」とガイドさんが教えてくれた。
めざすは標高1674m、赤城山・地蔵岳山頂。とはいえ出発地のビジターセンターは標高約1370m、わずか300mだ。深田久弥さんが『日本百名山』で言うことには「赤城山は逍遥する山である」。いいトレッキングコースなのだ。
カシオ計算機のスマートウォッチ「WSD-F10」(実売価格7万円)は、このくらいがちょうど楽しい。
Androidペアリングして出かけよう
WSD-F10はスマートフォンとペアリングして使うAndroid Wearスマートウォッチ。カシオ「ACTIVITY」アプリでゴールまでの距離や時間を測りつつ、登山専門アプリ「YAMAP」で歩いた道を記録するのが今日の目標だ。
WSD-F10は水泳に堪える5気圧防水、マイク付き。米軍調達基準(MILスペック)の堅牢設計で、方位計・高度計・気圧計機能を搭載。文字盤にはモノクロ+カラーの2層液晶を採用、バッテリーは公称約1日以上。時計部分だけ使ってバッテリーの消費をおさえることもできる(タイムピースモード)。
初期設定でエラーが何度も起き、Androidスマートフォンとのペアリングに手間取ったが、あとは楽しい。YAMAPを使えば通信圏外でも地図を見ながら登れる。
ただAndroid Wearなので仕方ないが、iPhoneがほぼ使えないのが切ない……WSD-F10はスマートフォンと接続しないとほとんどの機能が使えない。いっそのこと格安スマホとセットで売ってみたらいいんじゃないかと感じる。
ついでに目玉型デジカメ「EXILIM EX-FR100」をリュックの肩ひもにつけ、WSD-F10とペアリング。EX-FR100がとらえる光景をWSD-F10のディスプレーに転送するため、スマートウォッチをファインダー代わりに見ながらシャッターが切れる。デジカメは肩ひもにつけたあと角度を調整できる。
EX-FR100はGoProと同じウェアラブルカメラ。GoProは本気で映像を作ろうという人に向けたライド動画系カメラ。一方、EX-FR100は広角16mm、F2.8の広くて明るいレンズをもった静止画寄りの製品だ。インターバル撮影機能なども備える。防水機構はIPX8相当、1.7mの高さから落としても大丈夫な堅牢性を備える。
YAMAPがログをとってくれるのが楽しい
装備を調えたら湖のほとりから歩きはじめる。北海道・富良野と気候が近く、冬は最低気温マイナス25℃、夏も最高気温が30℃に届かないという清涼地域。当日も20℃前後の過ごしやすい気候だった。湖を過ぎたところからスタートだ。
スタート地点の高度は標高1390m。WSD-F10の表示高度は1391mと1mズレていた。高度は気圧差から割り出したもの。まあ誤差の範囲ということで。
地蔵岳山頂までは木の階段(木道)が多い。初めは登りやすくていいなと思うが、すぐきつくなってくる。階段だと歩幅が安定せず、もも上げで乳酸がたまりやすいのだ。
WSD-F10が使えるのは足を止めて休んでいるとき。登っているときは危ないのであまり詳しい情報は見られない。歩きスマホと同じだ。歩いているときは文字盤に表示した高度や気圧をチラ見で確認するくらいだ。
なお時計を見ようとしてサッと腕をあげると、画面が自動的に明るくなって見やすくなる。センサーが腕の動きを見て明るさを調整しているそうで便利だった。
休憩中に楽しいのはコンパスや高度計をスイスイ切り換えられるカシオ公式の「TOOL」アプリ。未来のアクティビティらしいUIで、山歩き気分を盛り上げてくれる。それからYAMAP。ログを表示してくれるので達成感がある。
WSD-F10のコンセプトは「主役は使用者、わたしは脇役」。トレッキングを一緒に楽しむパートナー。たとえば消費カロリー数が200kcalを超えるたびに振動で通知が来ると、伴走者がいるようで楽しい。
小さな喜びはカシオ公式「ACTIVITY」アプリ通知画面に犬の絵が表示されること。伴走犬だ。励まされる。1時間ほど歩いたところで中間地点に到達。小沼というきれいな湖を見渡せる場所でEX-FR100を構えてパチリと自撮りした。
少し行くと目の前に険しい木道が。ウッ。犬の励ましだけで登れるだろうか。
消費カロリーを見ると励まされる
ふたたび木道を上がっていく。遠足の元気な小学生たちとすれちがい、元気のない挨拶を返す。けもの道に入ると、大きな石がゴロゴロ転がってガレ場のようになってきた。きつい。犬の通知も減った。さみしい。
気晴らしにと、EX-FR100で写真を撮っていく。
WSD-F10のディスプレイでEX-FR100から転送されてくる映像は粗い。これで本当に大丈夫なんだろうかと、やや不安な気持ちでシャッターを切る。両手がふさがらないのは便利だが、水平を取るのはほぼ不可能だ。水平になったときWSD-F10の画面に表示が出たりするといいのだが。
休憩終了、山歩き再開。時価数万円する鹿のツノがたまに落ちているとガイドさんが教えてくれるので目を光らせるも、まったく見つからない。
疲れもあってしょげていたところ、WSD-F10が震えた。「ゴールまであと何m」という犬からの通知があり、はげまされる。消費カロリー数は900kcalを超えた。ひとまず昼食分くらいは歩いたことになる。うれしい。
息が上がり、無言になってきた。そろそろ……と見上げると、白い建物が見えた。アンテナだ。NHK、TBS、国土交通省。国交省は何に使っているのかよくはわからないが、つまりこれは山頂だ!
ちょうどACTIVITYアプリの犬も「休憩しましょう」と言ってきた。お弁当の食べごろだ。ちなみにアプリから標高を見てみると、あと54m登ることになっていた。う、うーん誤差の範囲と思いたい……。
見晴らしから大きな湖、大沼が見渡せた。靄でかすんでいなければ、チルトシフトで撮影したミニチュア写真のような光景が見えたそうだ。
山頂でEX-FR100に自撮り棒をつけて写真を撮ったり、雲台で三脚に固定して集合写真を撮ったりといろいろ遊んでみる。余談ながら山頂で太陽に虹のようなものがかかっていた。同僚から「地震の前ぶれだ」と教えられて恐ろしくなった。
気軽に遊ぶくらいがちょうどいい
WSD-F10+EXILIM EX-FR100は、山歩きを楽しくしてくれる。
歩いているときにWSD-F10を見るヒマはほとんどないのだが(普通に時間を確認するときくらい)、ちょっと立ち休憩しているときに歩行ログが見られる、消費カロリーがわかる、残り高度を教えてくれる、このあたりが楽しい。
とくにYAMAPのログはおもしろい。なおログはWSD-F10ではなくスマートフォンに保存する。終了時に切り忘れると自宅までログをとってくれるそうだ。
サイズは大きくゴツいが、重量が約90gと軽いので山歩きでは気にならない。普段使いすると裾がヤバいことになりそうな気はする。バッテリーは1日まるまる使って満充電→約10%、宿で充電する必要がある。難点はペアリングやアプリの設定がわりと難しいところ。スマートフォンがなければ単なる変わった腕時計でしかない。使い勝手はよいが、使いはじめるまでは根気が必要だ。
山でスマートフォンを使うと落とすのが怖い。腕に巻いたスマートウォッチを使うのは安全策としても納得だ。それに頑丈で防水のゴツゴツしたスマートフォンは京セラTORQUEくらいになった。本当はカシオのG'zOneスマートフォンがあったらなあと思うが。カッコよかったのだが。好きだったのだが。
同じく登山用腕時計でも、カシオの登山用腕時計「PROTREK」は完全にガチ仕様、WSD-F10はトレッキングやハイキング向けだ。なので今回の地蔵岳くらいがちょうどいい。目標高度とゴール時の高度がズレていたので通知が来るべきときに来なかったのはさみしかったが、まあお遊びと考えれば楽しい。
EX-FR100は、予想以上にちゃんと撮れていた。レンズはとても明るく広く山向けだ。自撮りをしたとき風景がばっちり入るのでうれしい。少したわみがあるのが切ないが、なかなかおもしろい絵が撮れる。
というわけで今回は第1弾の山歩き。赤城山はとてもよかったので、みなさんまとまった休みがとれたら赤城山へぜひどうぞ。
WSD-F10アクティビティレポート第2弾は、自転車と釣りだ。とくに自転車はマウンテンバイクを使ったダウンヒル。山道の石にタイヤを食いこませながら降りていく。初体験の記者は無事に帰れるのか? 次回、筋肉痛。乞うご期待。
盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ、記者自由型。戦う人が好き。一緒にいいことしましょう。Facebookでおたより募集中。
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