検索は時代遅れ……? Netflixの驚異的なレコメンド機能
2015年9月から日本でもサービスが開始された「Netflix」は全世界で6500万人以上の会員数を誇る動画ストリーミングサービスだが、その精緻を極めたユーザーの性向分析、およびコンテンツ特性のアルゴリズムにより、全視聴数の75%がレコメンド機能によって閲覧されているという。
しかもそれがいまから4年前の2012年の時点で実現されているというから驚きである。もはや私たちは「検索」すら不要のデジタル環境に推移しつつあって、それを推し進めたのは、ほかならぬ私たちが知らず知らずのうちに企業に供給した膨大な個人データの蓄積なのだ。
インターネットに接続されたデジタル機器がネットワーク外部性を増幅させ、私たちの個別性にフォーカスしたプロダクトやサービスが誕生する一方、その背後で私たちは確実に類型化されてしまうというパラドックス……。
筆者は先程あえて「もう後戻りはできない」と書いたが、便益性のためであれば個人情報が企業によって好き勝手に利用されることは本当に致し方ないのだろうか? とは言え、インターネットが本格的な普及を見たこの20有余年の間に構築された複雑かつ高度なアーキテクチャーを前に、「一人一人が細心の注意を払いましょう」と言ったところで、とても現在の状況を打破することなどできないだろう。
そうした意味で、今年4月に欧州議会本会議で可決された「EU一般データ保護規則」(General Data Protection Regulation)は、これまでシリコンバレーが主導してきた個人情報の取り扱い方法に大きな衝撃を与える可能性のある法律かもしれない。
EU一般データ保護規則は「忘れられる権利」をはじめとして、ユーザーが企業に供出した個人データを受け取り、さらにはほかのプロダクトやサービスにそのまま移管できる「データポータビリティーの権利」など、“個人が自らの情報を我が手に取り戻し、主体的かつ民主的に自らコントロールする”という、従来の常識を覆す理念と思想の上に成り立っている。
これは同時にシリコンバレーを擁するアメリカと、同国の独走に待ったをかけるEU加盟28ヵ国の“権利に対するイデオロギーの対立”とも解釈でき、法律が施行される2018年までの2年間にどんな議論や方策が両者の間で展開されるのか興味深いところだ。
ちなみにEU一般データ保護規則は、EUに顧客を持つ全世界のすべての企業に適用され、違反者した場合は総売上の4%、もしくは2,000万ユーロ(約25億円)のいずれか高いほうが制裁金として課せられる。同法についてはいずれ専門家の話などを取材しつつ、本連載でも取り上げてみたい。個人の情報と個人の権利……。インターネットは新しい局面に突入したのかもしれない。
著者紹介――高橋 幸治(たかはし こうじ)
編集者。日本大学芸術学部文芸学科卒業後、1992年、電通入社。CMプランナー/コピーライターとして活動したのち、1995年、アスキー入社。2001年から2007年まで「MacPower」編集長。2008年、独立。以降、「編集=情報デザイン」をコンセプトに編集長/クリエイティブディレクター/メディアプロデューサーとして企業のメディア戦略などを数多く手がける。「エディターシップの可能性」を探求するミーティングメディア「Editors’ Lounge」主宰。本業のかたわら日本大学芸術学部文芸学科、横浜美術大学美術学部にて非常勤講師もつとめる。
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