自然遺産の知床でテレワークはいかが?
北見市が進める人材回帰戦略、オホーツク海の「サケモデル」
2016年04月15日 06時00分更新
テレワーカーの「住」を追求
斜里町サテライトオフィスについては今後、2階部分を住居に改修する予定という。「ふるさとテレワーク」では、テレワーカーの「住まい」が課題の1つだ。本格的に移住・定住するのであれば物件購入・賃貸すればいいが、テレワークを気軽に試すという初期の段階では、ホテルの借り暮らしとなり、長期滞在が難しい。サテライトオフィスとなる施設に寝泊まりできれば、長期滞在も、夏休みだけの期限付きでも、問題ないというわけだ。
北見市では一軒家を利用した職住一体型サテライトオフィスを用意したが、それも「住まい」の課題に寄り添ったもの。このプロジェクトでは、一貫してテレワーカーの「住」にこだわったのが特徴とも言える。
北見市に用意された職住一体型サテライトオフィスは2棟。賃貸物件を市で借りて提供したという。北見市商工観光部 工業振興課 工業係 主任の松本武氏は「オフィスとして不特定多数が出入りするので難色を示す大家さんもいるが、今回の件でPRも進んだので、今後はこういう物件利用への理解も広まるのでは」と話す。
入居したアイエンターは「合宿」のように利用。実証後は自社で借り上げ、本格的に拠点化することに決めたという。
首都圏の企業から受ける刺激
北見市ではこのほか、既存のコワーキングスペース「TAYUMANU」を利用した商店街利用型の施設も用意した。普段から起業家やフリーランスの技術者が集まるこの場所に、首都圏の企業がやってくることで、どのような化学変化が起こるかを検証するのが狙いだ。
「TAYUMANU」運営元であるロジカル代表取締役の西野寛明氏は「グーグル社員もこの場でテレワークを実施してくれて、そのグローバルな価値観など、人との交流そのものが地域にとっては大きな刺激となった」と語る。
元々「TAYUMANU」は、SBI証券に務めた後に起業した西野氏が、故郷である北見市での人材育成を目的に、2015年1月にオープンした施設だ。起業家などの集まる場となっていたが、さらなる人材発掘・育成のために、かねてより企業との交流が必要と考えていたという。そんな頃にスタートした「ふるさとテレワーク」の実証事業は、西野氏にとって「渡りに船」と言えた。
「成果としては、首都圏の企業から仕事を受けるという業務上の関わりが生み出せた。これまでなら田舎ではとても触れられなかったビジネスモデルに関われたのは、北見市にとっては大きなこと。地域の人材や事業を東京の水準に近づけるきっかけになった」(西野氏)
このきっかけをさらに発展させるべく、今後の方針についてはこう語る。
「単に東京の仕事をこちらで受託するだけでは不十分で、地域に新たな価値を生み出していかなければ、きっかけで終わってしまう。そうならないように、首都圏の企業と地域の関わりのなかで、地域に新たな価値を生み出していかなければ」(西野氏)
そのための取り組んだのが、北見工大生との連携である。
主役は学生
「北見工大生と一緒に東京の企業の仕事を受託。アルバイトのような形で、スマホアプリやWebサービスのテスト業務をリモートで行った。この場を『東京とのハブ』として、今後もこうした活動を継続し、新しいビジネスの価値観やベンチャーマインドを地元の学生に根付かせてゆきたい。さらに北見で仕事をする若者を増やして、そこから有意義な事業が花開くような基盤が作れればと思う」(同氏)
学生との協働としてはこのほか、「大学隣接型サテライトオフィス」を稼働させた。北見工大に隣接するビルの空きフロアを改修。実証事業の参加企業が「遠隔インターン」として学生を受け入れた。
具体的には「スマホアプリ開発の特別講座」などを開催。学生たちが「こんなスマホアプリがあればいいな」と思ったものを試作し、テレビ会議を通じてプレゼンした。夏休みでもなく大学の授業で忙しい中、それでも合計約70名の学生が参加したという。
こうしてみると「北海道オホーツクふるさとテレワーク」では、当初より学生との連携を重要視しているのが分かる。あくまで主役は学生なのだ。学生重視の姿勢は、以前より北見市で進められていた「人材育成戦略」にも見て取れる。
道外に流出する若者をいかに北見市に根付かせるか。その解決策として2013年から進められている、通称「サケモデル」と呼ばれる戦略だ。
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