飯田橋クラウドクラブ(略称:イイクラ) 第19回
「リアルイイクラ2015年納会」のIT記者パネルは異論・反論の応酬!
ITmedia三木、ライター五味、ASCII大谷が本音で語った2015年のIT
2016年01月19日 07時00分更新
エンタープライズのクラウド移行が本格化する
五味さんの記事の中で読まれたのは、先日TechTarget(ITmedia)で掲出された丸紅のAWS導入事例の記事だ。事例はプライベートクラウドを仮想化して、AWSに持っていったという意味では、先進的というよりは一般的な内容。「この記事が読まれたというのは丸紅という大企業がパブリッククラウドを導入したというインパクト、大企業がクラウドに移行しなければならないという事情を、ここまで赤裸々に話したことが大きかったのではないか」と筆者である五味さんは分析する。
今年はさらにエンタープライズからの単純な移行のみならず、クラウド化した企業が戦略的なITを試すという事例も増えた。「日本のエンタープライズの場合、最初はオンプレミスの環境をそのままクラウドに移すんですけど、いったん移したらクラウドネイティブの考え方になることも多いです。丸紅さんもそうですが、旭硝子さんの事例もそんな感じです」と五味さんは語ると、三木さんも「特にAWSの場合は、クラウド的な企業になりたいというのが、採用企業のマインドにある。最初は導入に難色を示していた重厚長大・伝統的な製造業も、裏には『インダストリー4.0』的な潮流について行かないとまずいという感触、AWSであればそういう方向に進みやすくなるのではないかという期待がある」と語る。
もう1つ五味さんが挙げたのは、海外のITベンダーの事例で必ず出てくるUberの記事。「自社の車を1台も持っていないのに、世界一の交通網を目指すと言っている。実際、時価評価総額で6兆円くらいの規模になっているけど、日本にそんな会社は存在しない。米国ではすでに“Uber”が動詞になっている」と五味さんはデジタルディスラプションを引き起こすUberのインパクトについてこう説明する。
Uberのどこがすごいのか? これはまさにEnablementだ。「今まで無理だったことが、クラウドという巨大なゆりかごを得ることでできるようになった。それ以前にもNetflixがやっているが、Uberで火が付いた印象がある」と五味さんは語る。Uberが各国の規制当局ともめる話はよくニュースになるが、五味さんは「そんな反発をモノともせずに進むパワーがすごい。でも、そのパワーの源にはITとクラウドがある」と語る。Uberのこうした動きをフォローすべく、スタートアップや多くのエンタープライズ企業がエンジニアのハイヤリングに力を入れているのが米国の実情だ。
一方、三木さんは「ITベンダーは一般企業に対し、UberやAirBnBのようになろうと訴えるけど、ITを使えば彼らのようになれるわけでもない。こういうスタートアップは規制を壊すことで自らのビジネスを拡大している。既存のエンタープライズはなかなか規制を壊しにくいが、(医薬品のネット販売でもめた)楽天のように時には規制当局と戦うくらいの気概が必要」と訴える。既存の業界にも等しくデジタル化の波は訪れるが、どのようにITを使えばよいのか考えるのはなかなか至難の業だ。
日本にこういう企業はあるのか?という問いに対して、五味さんは「日本はあまり見ていないので、よくわからない」と答えつつ、「「ソーシャルゲーム中心だった日本のスタートアップ業界からUberのような世界を変えようとする信念をもった企業が出てくるかは正直、疑問に思っている。理想の高さ、志、VCの質など根本的にレベルが違うのでは。もっともこの予想が外れてくれたほうがいいとは思っている」と指摘する。
IoTに形を与えたSORACOMにエール!既存のITベンダーは?
続いてオオタニは2015年に読まれた記事として、AWSからの“卒業”から始まり、ソラコムの起業、そしてSORACOM Developer Conferenceの記事まで含めた“玉川サーガ”を挙げる。11月には玉川さんと八子さんをゲストに迎えたニコ生も実現し、アスキーのIT系記事としては異例ともいえるPVを稼いだ。
オオタニはこのうち18本の全LTをレポートしたSORACOM Developer Conferenceの記事を挙げ、「同じエンジニアというくくりながら、なかなか交流のなかったプログラマー、ネットワークエンジニア、クラウドエンジニアがお互いにリスペクトしあって新しいモノ作り出そうという機運が感動的だった」と語る。
このコメントに対して、三木さんも「まさにそう思います」と同意。その上で「機能だけ見れば、SORACOMのようなサービスは作れるけど、違うのはデベロッパーをどのように巻き込むかを理解している点。既存のモノをインターネットにつなげるだけではなく、まったく新しいモノがつながるIoTの世界を見据えると、やはり新しい人種、新しい野望が必要になる。ソラコムはそれをうまく組織しようとしている」と語る。IoTで考慮しなければならない通信や管理、セキュリティなどの課題をSORACOMが一手に解決し、つなぐ先のクラウドサービスのコンポーネントを組み合わせ、より簡単にアプリケーションを開発できる。
前半では三木さんと反対の意見を言うことの多かった五味さんも、SORACOMについては同意見。「3人とも玉川さんと仲がいい。AWS時代からなにかやりそうだと思ってはいたけど、こういう形でサービスを作るとは思わなかった」と高く評価。その上で「IoTというぼやけたものに形を与えた功績はすごいと思うし、日本からこういうスタートアップが生まれたのは素直にうれしい」と語る。
SORACOM、ひいてはIoTへの期待は総じて高い。「製造業=IoTというイメージも強いが、どんな業界に属している人だろうが、IoT的なもので新しい価値とビジネスを作れる素地ができてきた。クラウドサービスを提供する側も無視できない」と三木さんは語る。
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