このページの本文へ

「OpenStack Days Tokyo 2015」基調講演で語られた、これからの方向性

「2015年のOpenStackは“コア”の再定義に重点」コリアーCOO

2015年02月17日 06時00分更新

文● 五味明子 編集● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 2月3日、4日に開催されたOpenStackのユーザーイベント「OpenStack Days Tokyo 2015」。来場者数は延べ3,000名を超え、事前の参加登録者数は2800人を超え、スポンサーや出展企業も昨年度に比べ大きくその数を増やし、あらためて国内におけるOpenStackへの注目度の高さを印象づけた。本稿では、2月3日に行われたOpenStackプロジェクトの共同創始者で、OpenStack Foundation COOのマーク・コリアー(Mark Collier)氏の基調講演をレポートし、OpenStackが現在、どこへ向かおうとしているのかを探ってみたい。

OpenStackプロジェクトの共同創始者 兼 COOのマーク・コリアー(Mark Collier)氏

OpenStackが5年で急成長を遂げた理由

 コリアー氏は講演の冒頭、次の文章をスライドで表示した。

To produce the ubiquitous Open Source Cloud Computing platform that will meet the needs of public and private clouds regardless of size, by being simple to implement and massively scalable.

(訳:ユビキタスな“オープンソースのクラウドコンピューティング”プラットフォーム、それもサイズにかかわらずパブリック/プライベートの両方のクラウドのニーズに合致したプラットフォームを生み出すには、実装がシンプルであり、どこまでもスケールできるものであることが求められる)

 そして、この条件を満たすプラットフォームこそがOpenStackであるとコリアー氏は断言する。

 「世界中のすべての企業が現在、変革を迫られている。どの企業もスタートアップのような状態に立たされていると言っていい。その中で勝ち抜いていくためには、ソフトウェアをビジネスの価値創出の中心に据えなければならない。数年前から“Software-Defined Network”といったバズワードが聞かれるようになったが、いまや“Software-Defined Economy”――ソフトウェアを制する者がビジネスを制する時代だ。そして、その中心にある変革のためのエンジンがOpenStackである」(コリアー氏)

 では、OpenStackは何をもってして、企業にとっての変革のエンジンとなりうるのか。コリアー氏は、冒頭の文章からいくつかのキーワードを拾ってOpenStackの優位性を説明している。

・アダプション … どんな環境においても採用できる柔軟性(ubiquitous)
・アプリケーション開発 … 開発者にとって使いやすい環境(platform)
・マーケット… パブリック/プライベートを問わず、どんなユーザーのニーズにも応えることで市場を拡大(public and private clouds)
・(唯一の)プラットフォーム … シンプルでスケーラブルなクラウド基盤を構築できる唯一のオープンソースソフトウェア(simple to implement / massively scalable)

 OpenStackがプロジェクトとして発足したのは2010年、ちょうど5年前のことである。コリアー氏は「わずか25人の開発者でコミュニティをスタートしてから、5年でここまで成長できた。最初の『OpenStack Summit』の参加者は75人だったが、いまは世界各国で開催され、参加者の数も桁違いだ」と、当時を振り返り、わずか5年の短い歳月でプロジェクトが大きく成長したことを強調する。

コリアー氏は、わずか5年でOpenStackプロジェクトが大きく成長したと語った。「日本でもこの10月に、初めてのOpenStack Summitを開催することになっている」

 エコシステムも拡大している。OpenStackベースのパブリッククラウドの数は昨年に比べて2倍になり、OpenStack採用事例にもWells FargoやDisneyなど、世界的大企業の名前が上がるようになった。単なるオープンソースのクラウドフレームワークから、本格的なエンタープライズクラウド基盤として認知されつつある。

最も重要なコンポーネントは「Nova」である

 もっとも、クラウドプラットフォームとして急激な成長を遂げつつあるとはいえ、OpenStackはテクノロジーとして未熟な部分を指摘されるケースも少なくない。コリアー氏は、OpenStackが今後取り組んでいかなければならない課題として「より多くのアプリケーションを開発者に開発してもらえるよう、相互運用性と安定性を向上させる」と明言する。さらに、2015年は、コアコンポーネントであるコンピュートエンジン「Nova」の改良に注力していくという。

 「コアの安定性を求める開発者や運用担当者の声は強い。我々はこれに応えていかなければならない。ひとことでOpenStackというとき、どこまでを指すのか、その定義はばらばらだったのは確かだ。今年、コアの再定義は最も重要なプロジェクトになるだろう。もちろん、他の関連プロジェクトやサードパーティ製品との互換性強化も図っていくが、これからもいちばん重要なのはコアであり、その中心はNovaであることは変わりない」(コリアー氏)

 コリアー氏が示した資料によれば、Novaとともに最も使われているコンポーネントは統合認証の「Keystone」で、アタッチ率は90%を超えている。そのほか、ブロックストレージの「Cinder」、ネットワーク管理の「Neutron」、フロントエンドダッシュボード「Horizon」、イメージサービス「Glance」などが続くが、プロジェクトとしては今後はコアの安定性を最も重視し、その上で使うコンポーネントはユーザーの選択に任せることになると、コリアー氏は語った。

Novaとともに使われているOpenStackコンポーネント群のアタッチ率

“The OpenStack Way”で拡げる/深めるOpenStackの世界

 オープンソースのクラウド基盤としてこの5年で大きな成長を遂げたOpenStackだが、今後さらに普及していくためにはどのような施策が必要なのか。コリアー氏は最後に、プロジェクトとしての開発方針を3つ示した。

・ソフトウェアビルディング … “The OpenStak Way”を貫く。「デザイン」「デベロップメント」「コミュニティ」「ソース」の4つのオープン、そして6カ月ごとのリリースサイクルの堅持、年2回のサミットの開催
・安定したプラットフォームコア … どんなニーズにも応じられるセットを提供する“Novaとなかまたち(Nova and Friends)”にフォーカス
・イノベーションのためのエンジンはコアをベースに … オプショナルモジュールは、すべて上記の“The OpenStak Way”に準拠して開発される。どんなユースケースにおいても一般的なタスクを自動でデプロイできるようにする

OpenStackでは多様なコンポーネントが提供されているが、“Novaとなかまたち”で構成されるプラットフォームコアがやはり重要だとコリアー氏は述べた

 「OpenStackはどこにでもアダプションできるクラウドソリューションだが、今後はよりその深さを極めていきたい」とコリアー氏は語る。そして「広さ」も「深さ」も、すべてはコアコンポーネントが堅牢であればこそという考えだ。

 そうであれば、2015年のOpenStackは、オープンソースクラウドソリューションとしての“原点回帰”が大きなテーマだと言える。10月に同じ会場で開催される初めての「OpenStack Summit Tokyo」までに、OpenStackにはどんな変化が起こっているのだろうか。今から期待したい。

■関連サイト

カテゴリートップへ