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『角川インターネット講座』(全15巻)応援企画 第15回

【後編】鹿野司氏、堺三保氏、白土晴一氏「設定考証ブラザーズ」かく語りき

サイバー戦争よりも怖い「敵意を増幅させる装置」としてのインターネット

2016年01月17日 18時00分更新

文● 田口和裕 編集●村山剛史/ASCII.jp

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前編に引き続き、鹿野司氏、堺三保氏、白土晴一氏に話を伺った

前編はこちら

 インターネットの発達は映画やアニメ、ゲームといったフィクションの世界ににどのような影響を与えたのだろうか――。前編に引き続き、フィクションにリアリティーを付与する設定考証のプロフェッショナルである鹿野司氏、堺三保氏、白土晴一氏のお三方にお話を伺った。〈連載一覧はこちら

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スマホ・光学迷彩・3Dプリンタ……現実がフィクションを追いかける
「スタートレック」は偉大なイメージの源

鹿野司……サイエンス・ライター。『宇宙戦艦ヤマト2119』『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』をはじめSF作品の科学考証を多数手掛ける。著書に、SFマガジンでの同名連載をまとめた星雲賞受賞作『サはサイエンスのサ』(早川書房)ほか

堺三保 ウィリアム・ギブソンの「スプロール三部作」や「攻殻機動隊」みたいなコンピューターネットワークのイメージを膨らませたSFは当然あるんだけど、あれは現実のコンピューターとはまったく関係がない。

鹿野司 コンピューターネットワークにものすごく初期から取り組んでるのは「スタートレック」だと思うんですよ。あそこに出てくる通信機って完全にインターネットだからね。どこにいたって名前呼ぶとその人につながるんだもん。

 宇宙船の艦内どこにでもコンソールがあって、「コンピューター」っていうと「はい」って返事してなんでもしてくれる。これは今の言葉で言うところのユビキタスとかIoTってやつですよね。コンピューターが偏在してる社会。

 だれもが使ってるスマホは、スタートレックで言うとまさに「コミュニケーター」なわけじゃないですか。

鹿野 iPadなんて「トライコーダー」だしね。

堺三保……『ヘルボーイ』『キャプテン・アメリカ:ウィンターソルジャー』をはじめ英米SF/ミステリー/コミックの翻訳・コラム執筆、SF設定考証などを多数手掛ける

 ところが、今の人たちはそのスマホを使ってSNSでケンカしたりとかくだらないことに使ってるわけ。そんなことに使われるとは(スタートレック製作者の)だれも思っていなかったわけですよ。

鹿野 スタートレック製作時は、やっぱり超越テクノロジーを表現しているんだという感覚が(スタッフ側に)あるから、一般人が普通に使うと思ってない。すごいテクノロジーのひどい使い方って、昔の人は思いつかないんだよね。

 ひどいっていうかバカな使い方(笑)

鹿野 だからそれはフィクションで描けなかったんだよ。

 フィクションを作る人は『こういうものがあったらいいな』って考えて出しちゃうんだけど、それがほんとに実現すると、その目的以外のことにみんな使っちゃうわけですよ。

鹿野 いちばん大きなイノベーションっていうのは「だれでも使える」ってこと。インターネットもパソコンもそうだけど、一部のエリートだけじゃなくだれでも使えることによってこれだけ変わってきているわけだから。

 昔から「こういう世界にしたい」ってイメージはあるんですよ。スタートレックなんかは「こういう風にコミュニケーションできるとおもしろいな」というイメージを表現できてるわけね。今はスタートレックが提示したイメージを技術で実現しようとしているんだよ。

白土晴一……『ヨルムンガンド』『純潔のマリア』『軍靴のバルツァー』などアニメ・ゲーム・マンガ・小説の設定考証・リサーチャーを多数手掛ける

白土晴一 あ、逆か、なるほどなるほど。

鹿野 フィクションが先行しちゃって原理的にできないだろうってことを技術でやってる人もいる。

 「攻殻機動隊」で言うと、光学迷彩なんて原理的にものすごく難しいことですよね。

鹿野 もちろん光学迷彩は無理だよね。

 でもあれを一所懸命やろうとしてる人がいるし、だいぶ研究も進んできている。あんな無理筋をこんなにがんばってやる人がいるのを見ると、イメージって大事だなと思うよね。

鹿野 精神のダウンロードとかだってオレは無理だと思ってるのね。でも世の中には結構本気でやろうと思っている人がたくさんいて研究してるわけです。

白土 フィクションのせいですごいことをしでかすやつがいるという話なのか、それともフィクションのせいで無駄骨を折っているやつがいるという話なのか、どっちだろう?

鹿野 無駄骨だと思うよ。でも、フィクションで予想した通りのものはできなくても、無駄な努力をしていると、その過程で別の方向に広がって、今まで想像もつかなかったことが起きたりするんですよ。

IoTのイメージはスタートレックそのもの!?

 『お茶が欲しい』と言うだけで、何もない空間からお茶を出現させる万能3Dプリンターのような「レプリケーター」。今思えば携帯電話そのものと言える「コミュニケーター」、そしてiPadや片手持ちのサーモグラフィーを彷彿とさせる計測機器「トライコーダー」――1966年に初放送されたSFドラマ「スタートレック」シリーズに登場するガジェットは多くの人間を魅了し、「いつかは欲しい未来ガジェット」として君臨し続けた。

 昨今、巷でよく聞く「IoT」や「人工知能」はまさにスタートレックの世界そのものだ。IBMが開発中のコグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」のデモを見ていると、劇中で艦内どこにいても呼びかければ反応し、たいていの物事をサポートしてくれるコンピューターを思い出さずにはいられない。

 角川インターネット講座 第14巻では、モノとモノがつながり合ったときに生まれる世界について論考している。スタートレックで観た未来がどこまで実現しているのか、どの程度実現できるのか気になる人は、一読してほしい。

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(次ページでは、「すでに実現している「ネットワーク化された戦場」がフィクションであまり描かれない理由」)

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