『プロが教えるデジカメ撮影テクニック』の著者でプロカメラマンの三浦健司氏の担当編集者。ひとまわりも、ふたまわりも年下の上司にこき使われながら、なんとかこの数年を乗り切り、今や、いっぱしの“編集者づら”をしています(新人の頃の記事はこちら)。最近、気になっているサイトと同じような写真が、どうしても撮れません。「困ったときの三浦頼み」とばかりに、三浦カメラマンのスタジオを訪れていました。今回は、いつもと違って、ちょっと威張っています。
マックのハンバーガーが大変身
編集:三浦さん、こんな写真撮りたいでしょ!
三浦:羊かんにジャムって、撮ったから、もういいよ。あれ、これって超おいしいって有名なニューヨークの大人気ハンバーガー「シェイクシャック」のサイトか。
編集:そうです、そうです。11月に明治神宮外苑に日本第1号店がオープンしたんですよ。3時間待っても食べたい!って、大評判なんです。このサイトに載っている写真って、他のハンバーガーチェーン店とは違って、健康そうでニューヨークの雰囲気が感じられませんか。こんな写真、撮ってみたいと思って。
三浦:そう。背景がかなりボケているけど、いつものコンデジでいけるかな?
編集:三浦さんの担当になって何年だと思ってるんですか。中古ですけど、レンズとセットの一眼レフを2万7000円で買ってきましたよ! 一眼レフを使えばボケは完璧ですよね!
三浦:ほぉ、よく気がついたね。
編集:それで、ちょっと撮らせてもらえないかと。
三浦:えぇ、ここで撮るの。で、なんでマクドナルドとドトールの袋なの? シェイクシャックで買ってこいよ。
編集:写真のためにそんな3時間も待てませんよ。ハンバーガーならマックで十分でしょ。ホットドッグはマックには売ってなかったので、隣にあるドトールで買ってきました。
三浦:プロのスタジオ使って、素人がマックのハンバーガーの写真撮るの? 本気でいってるの、キミ。
編集:まぁ、まぁ、ドウ、ドウ。そういわないでくださいよ。頼みますよ。
三浦:じゃぁ〜お手並み拝見だなぁ、今日は特別ね。
編集:あ、ありがとうございます! シェイクシャックの写真と同じように、マックのハンバーガーとドトールのホットドッグを並べて……と。
編集:うまく撮れません。AUTOモードでもPモードでも、背景はあまりぼけないし、きれいに撮れないんです。せっかくの、一眼レフなのに。
三浦:う〜ん、AUTOモードでも、ハンバーガーとホットドッグの前面にピントがあうのはいいけれど、内蔵ストロボが自動発光しちゃうと、背景が暗くなるね。
Pモードは全体に暗くて、ぼやっとした眠い写真(全体的にピントが合っていない状態)になっている。さっきのシェイクシャックの写真は、背景はボケているけど、眠い写真じゃないよね。
どちらの写真も背景はボケているとはいえ、モノや文字がそこそこ識別できちゃうね。セットで付いていた、あまり明るくないズームレンズを使ったんだね。
編集:えぇ、そうです。明るくないレンズって?
三浦:レンズに何か書いてあるでしょ。
編集:レンズには「18-55mm 1:3.5-5.6」って書いてありますけど。
三浦:あぁ〜、やっぱりね。レンズには焦点距離と絞り値が書かれていて、「18-55mm」は焦点距離、「3.5-5.6」は絞り値を表しているんだ。絞り値の数字が2.8以下をおおむね「明るいレンズ」っていうんだ。価格も高くなるけどね。
編集:へ〜〜
三浦:ピンときてないね。分かりやすくいえば、セットで付いてきた絞り値が大きいズームレンズでは、さっきのシェイクシャックのように背景が大きくボケる写真は撮れないっていうこと。
編集:えぇ〜、一眼レフなのにぃ!
三浦:カメラのことじゃなくて、レンズのことでしょ、話しているのは。
編集:あぁ、そうですね。じゃぁ、どんなレンズが。
三浦:焦点距離が「50mm」で、絞り値が「1.4」の単焦点レンズなんかが、おすすめだね。
編集:それって高いんじゃないんですか。
三浦:安くはないけど、今回のように背景を大きくボカしたり、ポートレートで女性をきれいに写したり、写真の中心にある花なんかを印象的に浮かび上がらせたりとか、けっこう使いでのあるレンズなんだ。それこそ中古でもいいから、1本持っておくといいよ。じゃぁ、撮ってみよう!
三浦:こんな感じかな。
編集:あぁ、全然、違いますねぇ。
「段違いライティング」で背景を明るく
三浦:セットはこうなっている。
編集:あ、ライトは2灯で大丈夫なんですね。
三浦:もちろんそうさ。『プロが教えるデジカメ撮影テクニック』にも2灯で撮るって書いてあるでしょ。
編集:そうでした。
三浦:ライティングも大事なんだけど、そもそも、マクドナルドやドトールをおいしく見せるためには、ちょっと手を加えないといけない。食品写真を撮るときの鉄則でもあるよね。
編集:あぁ、カレーに砂糖たくさん入れてトロトロにさせたり、食材を光らせるために油塗ったりっていう『プロが教えるデジカメ撮影テクニック』にのってるやつですよね!
三浦:そう、そう。今回も、こんな感じでね。
編集:え〜っと、詳しいことは『プロが教えるデジカメ撮影テクニック』っていうことですよね、やっぱ。
三浦:もっと話そうか。いくらでもしゃべるよ。
編集:また、そんなイジワルを。それをペラペラしゃべられたら、あのコワイ、コワイ編集長になんといわれるか。でも、なんで、手前にあるハンバーガーとホットドックより背景の方が明るく撮れるんですか。
三浦:ほぉ〜、いいところに気がついたね。「段違いライティング」と勝手に名付けた照明テクニックを使っているんだ。背景側のライトとカメラ側のライトに高低差をつけて被写体にあたる光量に差をつけているのさ。背景側のライトは低くカメラ側のライトは高く設置して、トレーシングペーパーをかけて光量を落としているんだ。
編集:そうすると「段違いライティング」でバッチリっていうわけですね。
三浦:ライティングだけじゃダメなんだ。
編集:え〜?
三浦:「段違いライティング」のままでAUTOやPモードの自動露出で撮影すると背景の明るさが影響して、カメラに面しているハンバーガーやホットドックが暗く写ってしまうんだ。
そこでカメラの露出補正を+1/3や2/3にしてメーンの被写体を明るくするのさ。そうすると、背景側が明るくなって白く飛んだように明るくなり、手前のハンバーガーとホットドッグがちょうどいい明るさにできるんだよ。
編集:「段違いライティング」と「露出補正」なんですね!
三浦:背景をぼかす場合、光を強くして白く飛ばして空気感を感じさせるというのも1つのテクニックさ。それと、羊かんのときにも使った手鏡をハンバーガーのトマトにも使ってハイライトを入れれば、シズル感も演出できるよ。
編集:なるほどぉ〜!
三浦:あのさ、何度も同じことをいっているからイヤになるんだけど、なんで最初に撮るときに、トマトやレタスを足すとか、ライト使おうとかさ、工夫をしようとしないの。そもそもさぁ……
編集:ありがとうございましたぁ〜!