緊急時、現場の状況を素早く把握したい。そんなときにドローンが威力を発揮する。自治体や製造業のニーズに応えるべくブイキューブが挑むのが、ドローンとWeb会議を融合させて、空撮ライブ映像をリアルタイムに多地点共有することだ。
2016年の本格的な事業化を目指し、現在さまざまな実証実験を行っている。ドローンは今後どのように活用されていくのだろうか。ブイキューブ代表取締役社長の間下直晃氏にドローン事業の現状を聞く。
ドローン事業参入の狙い
Web会議を軸としたビジュアルコミュニケーション事業を進めるブイキューブが、ドローンを活用するロボティクス事業を始めたのは2015年1月のこと。ドローンの商用利用に必要不可欠な自律制御技術を開発しているRapyuta Robotics(以下、ラピュータ)への出資を発表し、市場参入を果たした。
ラピュータはスイス・チューリッヒ工科大学発のベンチャー企業で、ラファエロ・ダンドレア研究室の主要メンバーによって設立された。ダンドレア氏はAmazonが「惚れ込んだ」とされ「ドローンの魔術師」とも称される、ロボティクス業界の第一人者である。
そのラピュータが行った総額3億5100万円の第三者割当増資を、CYBERDYNE、フジクリエイティブコーポレーション、SBIインベストメント、ブイキューブの4社が引き受けた。
ブイキューブの狙いは、ドローンとWeb会議を連携させたコミュニケーションツールを開発すること。現状ドローンを利用する場合、操縦者が現地に足を運ぶ必要がある。空撮映像もその場で見るか、録画して持ち帰ることしかできず、後で確認したら「もうちょっとこういう映像が欲しかったのに」ということも少なくないという。そこでWeb会議の技術を組み合わせ、映像をその場で多拠点共有しようというわけだ。
これまでもメンテナンスなどのフィールド業務でWeb会議を利用する例は多かった。JR東日本も現場担当者がスマホで本部の指示を受けているように、専門家を全国に配備するのはコスト的に難しいので、本部の専門家と現場を映像で結ぶ事例が増えていたという。
「そこからさらに『そももそ人が行かなくてもいいのでは』というケースもあって、普及期にあったドローンがうまく活用できないかと考えたのが、この事業のそもそものきっかけだった」(間下氏)
ラピュータ出資の理由
では、出資先にラピュータを選んだ理由は何だったのか?
「ドローンとWeb会議だけなら他社でもできる。制御系も手掛けることで、ブイキューブにしかできないドローンを作りたかった」と間下氏は語る。
実現しようとしているのは、ドローンの自動操縦。人が操縦すると操作ミスの危険がある。GPSで位置を指定して飛ばしても、障害物があれば衝突してしまう。それらを避けて安全に飛ばすためにはコンピュータで自動制御する必要があるのだ。それでも“絶対に落ちない”というのは難しいが、操作ミスがない分、落ちる確率は下げられる。
ラピュータはまさにその自律制御技術に定評がある。間下氏によれば「すでに技術的には確立されていて、あとはどう実装するかという段階だ。電線を避けたり、明るさの影響を緩和したりするために調整が必要で、商用化のレベルにはまだ達していないが、それでも2016年後半には市場投入できるのでは」という。
ドローン×Web会議のメリット
用途として想定するのは、大規模な工場やなど人が容易に立ち入ることができない場所の定期点検業務などだ。現場に人が行かずに済むため、広大な敷地や煙突などの高所の点検に、特に大きな効果が期待できる。実際には法規制の問題があり、完全な無人化は難しいというが、それでも必要な人員は最小限に抑えられる。
また、自治体では災害対策への利用が検討されている。災害発生時、現場へ近づくのも容易ではなく、即座に状況を把握するのは難しい。まずドローンを飛ばし、その映像を災害対策本部で確認できれば、時間的なアドバンテージが得られる。
さらに「今年も浜松市で山の斜面の点検に行ったところ、土砂崩れに巻き込まれて職員が死亡する事故が起きている。こうした例は枚挙に暇がなく、最初の確認をドローンで代替して二次災害を防ぐという意味でも、その可能性は大きい」と間下氏は語る。
また、固定されている従来の監視カメラと違い、自在に移動できるドローンなら、物理的に制限されずに見たい場所をモニタできるため、線路、橋梁、トンネル、道路、河川といった社会インフラの保守など、幅広い活用が想定される。
そこで気になるのは、実際にどのような用途で使われることになりそうなのか、だ。同社は実際のニーズや市場を調査するため、2015年2月から現在(2015年11月時点)で6件の実証実験を行ってきた。そこから実例を考察してみよう。
(→次ページ、実証実験に見る実用例)