このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

Amazonにとってはただのサービスの一角に過ぎない

音楽はオマケ――Amazon「Prime Music」が持つ「怖さ」

2015年11月23日 15時00分更新

文● 四本淑三

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

かえって怖いかもしれない本気度の低さ

 ざっと検索してみたところ、音源出し渋り常連組のソニーの各レーベルをはじめ、エイベックスやビクターエンタテインメントの音源も見当たりません。「乃木坂46」とか「倖田來未」とか「家入レオ」で検索しても、オルゴールしか鳴らない状態です。

 ほかのサービスと比べてみても、Prime Musicにはいろいろなものがありません。まずクラウド機能は、MP3ダウンロードストアのロッカー機能のみで、Apple MusicやGoogle Play Musicのようにローカルとの同期はなし。自分の好きな音源をパソコンから上げて、モバイル端末でストリーミングするという使い方はできません。

 ユーザーの嗜好から自動生成するプレイリストや、関連アーティストを連続再生するリコメンドラジオのような機能もありません。ライブラリが有限な聴き放題サービスにとって、ライブラリを掘り起こして聴かせ、サービスの価値を底上げするために、リコメンド機能は重要な機能です。ところがほかのサービスには必ずある「いいね!」ボタンすらありません。

 しかしながら、Amazonには「この商品を買った人はこんな商品も買っています」などの表示と、時折見せるその鋭い精度でもわかるように、CDやダウンロードで音楽を売ってきた組織ですから、それなりのビッグなデータがあるのでしょう。今さら、ユーザー個々の嗜好なんか集めなくたっていいのかもしれません。

 そして、そこがAmazonの一番怖いところでもあるのですが、Prime Musicの強みは、あくまでもAmazonのサービス全体の一角として存在していることです。

聴き放題をオマケにするのは音楽を売っているから

 たとえば日本では配信よりもまだCDが主力です。そして聴き放題にはなくても、MP3ダウンロードにはあるというケースも多々あります。検索してみて、聴き放題で配信していなくても、どうしても聴きたければそうしたほかのフォーマットも選べるわけです。

 ただ、CDは質量を伴う物質ですので、オンデマンドのストリーミングに比べると転送に時間がかかります。その場合でもAmazonプライムの特典は、ほかよりスピーディーに商品が配送されることですから、CDを買う場合でもそのメリットが享受できるわけです。

 だから、音楽を聴きたいと思ったら、まずAmazonで探そうとしてしまう。それがプライム会員向けに音楽を「オマケ」にする意味でしょう。

Amazonのトップページからアーティスト名などで検索すると「CD」「MP3ダウンロード」「LP Record」などと共に、「Prime Music」のリンクも表示されるようになりました。ひとつのコンテンツに存在するさまざまなフォーマットが選べるわけです

 もうひとつの強みは、だから「オマケ」でいいということです。ほかの聴き放題サービスの課題は、音源のコンテンツホルダーに支払う使用料です。ユーザーから回収できる月額料金だけでは、なかなか賄いきれない。なにしろ有料ユーザーが全然集まらないので。それで、今までに同様のサービスがいくつも立ち上がっては、消えていきました。そして今回も、日本国内の、どの聴き放題サービスも、アプリのダウンロード数や再生数しか言いません。心配です。

 ところがPrime Musicは、Amazonを利用させるための方策であって、必ずしも配信サービス単体で利益を上げる必要がない。この点で、有料会員集めてナンボの同業他サービスは、まったく歯が立ちません。

 もしAmazonが本気出して、Googleみたいに3500万曲を用意して、クラウドロッカーにユーザーアップロードを許可したとしたら、間違いなくほかがヤバいことになると思いますが、Amazonにはそうする理由もないでしょう。だってオマケで十分なんですから。それ以上、配信に資金やリソースを割いても無駄なコストがかかるだけ。プライム・ビデオだって全然Netflixに勝つ気ないっぽいし。

 と、音楽業界関係者のみなさんは思いたいところかもしれません。

 最後になりましたが、まだAmazonプライム会員でないユーザー向けに、30日間の無料体験期間が設けられています。フリートライアルジプシーのみなさんにも狙い目のサービスですよ。



著者紹介――四本 淑三(よつもと としみ)

 1963年生れ。フリーライター。武蔵野美術大学デザイン情報学科特別講師。新しい音楽は新しい技術が連れてくるという信条のもと、テクノロジーと音楽の関係をフォロー。趣味は自転車とウクレレとエスプレッソ

■関連サイト

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

週刊アスキー最新号

編集部のお勧め

ASCII倶楽部

ASCII.jp Focus

MITテクノロジーレビュー

  • 角川アスキー総合研究所
  • アスキーカード
ピックアップ

デジタル用語辞典

ASCII.jp RSS2.0 配信中