ここまで洗練されたIoTの活用例があるだろうか――。
建設機械を手掛けるコマツが2015年初に立ち上げたICT事業「スマートコンストラクション」。10月にコマツレンタル・美浜機械センタで開催された説明会に参加して、そんな感想を抱いた。
以前より自動操縦が可能な「ICT建機」を開発してきた同社だが、その取り組みは「施工全体の見える化」にまで広がっている。そのキー要素となっているのが、施工現場で工事に関わる人・建機・土までもクラウドにつないで見える化するIoT技術だ。
そんなスマートコンストラクションの驚きの全容をお伝えする。
現場を高効率化する「情報化施工」
震災復興、東京五輪――建設業界は空前の人材不足である。日本建設業連合会(日建連)の試算では、2025年に350万人の需要に対して約130万人の労働者が不足するとされる。高齢化も深刻な同業界を維持するには、若手就業者を増やすことが急務となっている。
そこで日建連や国交省が進めるのが、未経験者や女性の活躍推進だ。そのためのアクションプランを策定し、現場作業員の女性比率を現在の約3%から、5年で倍増させる目標などが掲げられた。
実際に現場で働く女性からは、更衣室やトイレの要望が強い。そんな環境整備に加え、根強い「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージ改善に取り組んでいる。
とはいえ、現場作業に経験が必要なのも確か。計画、施工、監督、いずれも熟練された勘に依るところが多く、建機を利用するシーンには危険もないとはいえない。そんな問題を一挙に払拭するかもしれないのが、「情報化施工」という仕組みだ。
建設業務の「調査」「設計」「施工」「検査」「維持管理」というプロセスにおいて、ICT技術を使って「施工」の効率化・高精度化を図る。そこで得られるデータを他にも流用することで、プロセス全体の生産性を高めようという考え方で、2008年7月の国交省・情報化施工推進会議で提唱された。
コマツのスマートコンストラクションは、その情報化施工という考え方をソリューションに落とし込んだものといえる。2013年には、構成要素の1つとなるICT建機「iMC(intelligent Machine Control)」を世界で初めて投入している。説明会ではそのデモも行われたので、まずはICT建機の威力を紹介しよう。
感動!初めて間近でみるICT建機
ICT建機で「土を除く(切土)」「土を盛る(盛土)」「整える(整地)」といった施工をする際、必要となるのが現場の「現況」と「完成図」の3Dデータだ。現況データは3Dスキャナで測量し、完成図データは設計図面からCADを使って作る。両データを重ね合わせると、施工範囲や必要な切盛土量が浮かび上がってくる。
そのデータをICT建機に投入すると、ブレードなどの装置の高さ・角度・位置が設計面に沿って自動制御される。運転手はただ建機を進ませるだけでいい。実際にデモでは、ブルドーザーのブレードを操作するレバーから手を完全に離したまま、難易度が高いという傾斜の整地を成功させていた。ショベルカーならブレードの刃先の位置情報が計測されており、どこを何センチ掘るかまで自動制御される。
実際に初めて同社製ICT建機が投入された現場では、面倒な「丁張」が不要となり、経験の浅いオペレーターでもブルドーザーでの盛土施工が可能になったことから、工期が37日から12日に短縮。さらにこれまで必須だった建機の周辺に配置する補助作業員も不要となり、人件費および事故のリスクが大幅に減ったという。
さらにコマツレンタルが作成した動画には、運転技能講習を修了したばかりの女性2名が、ベテラン作業員が習得に4~5年はかかるという「法面整形」を、たった3日でやり遂げる様子まで紹介されている。これはかなり感動的だ。
ただ、課題がまったくないわけではない。コマツのICT建機はこれまでに約1000現場で稼働してきた。中にはあまりうまくいかなかったケースもあったという。
たとえば、ある現場では盛土にICT建機を利用した結果、1日あたりの盛土量は550m3から825m3へと効率化された。ところが「全体の生産性」は結局まったく変わらなかったという。理由は、土を運んでくるダンプの稼働率に15台/日という限界があったためだ。施工の一部が最適化されても、どこかにボトルネックがあると、生産性の向上にも限界がくる。
また、建設業の生の声としても「施工計画書がない場合もあり施工範囲が不明確」「日々の仕事量は監督の経験値で見積もるしかない」「何が起こるか分からず、起きたらその都度帳尻合わせ」といった、ICT建機だけではカバーしきれない施工全体に関わる悩みがあるという。
「そこで考えたのが、多くの現場で正確に施工計画が作れず、日々の実績が分からない、そういう中でICT建機だけ提供しても真の生産性にはならないということ。そうではなく、正確に現況を把握して計画を作れないか。計画と実績のギャップもリアルタイムに分かるようにならないか。ダンプのボトルネックの話も、現場でダンプが足りないと分かった時に我々がダンプを提供することはできないが、最初からそこにボトルネックがあることが分かるだけで、いろいろな負荷が圧縮される。そういうことができないかと考えた」(執行役員 スマートコンストラクション推進本部長の四家千佳史氏)
そうして開発されたのが、施工全体を見える化して生産性を高める「スマートコンストラクション」というわけだ。
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