『進化するプラットフォーム』監修 出井伸之氏(クオンタムリープ)インタビュー
「トラブルが楽しくてしょうがない!」自分の枠を超えた30代の野心~出井伸之氏
2015年10月30日 18時00分更新
CDからHitBitへ。そして伝説の講演に立ち会う
オーディオ事業部は当時最も成績が悪かった部門。花形部門の事業部に文系社員が行けるわけがないと考え、事業再生のような具合で始めたが、出井氏に追い風が吹いた。当時は光デジタルディスク、CDの技術開発が始まった時期だった。
CDの技術を研究しながら、副産物として生まれたのがコンピューター事業だ。
「CDを開発していたとき、基板の解剖図みたいなものを玄関先に飾っていたことがあり、それを見にきた西(和彦)さんがえらく感心していて。要するにシステムチップだったので、『これはコンピューターでいけるね』と」
CDをきっかけにして、出井氏はデジタル分野への関心を深めていく。デジタル信号再生の誤り訂正技術、光ピックアップの仕組み、CMOSに心惹かれた。このときの体験がきっかけになり、一時はコンピューター事業部長も任された
その後、レーザーディスク(LD)やVHS/ベータの規格統一対応なども手掛けた出井氏。アメリカでハリウッドと映像産業のつながりなどを学んでいたとき、本社にひょいと移されることになる。
しかし「事業部長はめちゃくちゃ忙しかったので、本社に行ったら暇で仕方なかった」(出井氏)。たっぷり空いた時間を使い、出井氏が1ヵ月ほど訪れたのはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のサマースクール。
そこで目にした講演が、出井氏トップ時代の経営方針を形づくることになる。
1993年に提言した「10年後のソニーのあるべき姿」は
“モノを起点とするプラットフォーム事業者”
「1993年、アル・ゴアとクリントンの『情報スーパーハイウェイ構想』を現場で聞いたんだ。まだ、アメリカでもインターネットが普及をする前で、アル・ゴアが『この中で、インターネットを使っている方は手を挙げてください』と聞いても、挙がるのはちらほらという時代。でも、この講演を聞いて『これは世の中が変わるぞ』と確信した」
高度情報化社会、今のインターネット社会を予見する講演に衝撃を受けた出井氏は、日本に戻って「プロダクト・ライフスタイル研究所」というシンクタンクを立ち上げる。そこで書いたのが「2000年のソニーのあるべき姿」という論文だ。
UCLAで学んだ財務分析知識をもとにソニーのEBITDAを分析、10年後のバランスシートを予測して経営モデルを考えた。
もはやメーカーの商売はモノだけで終われる時代ではない。ソニーらしいモノを起点として、データを中心とした情報ビジネスにシフトしなければならない。ソニーブランドの第二創業をはからなければ──。
当時の上層部に論文は「まったく相手にされなかった」(出井氏)が、その思いはソニー、出井氏がトップになった際に掲げた“デジタル・ドリーム・キッズ”そして“リ・ジェネレーション”という2つのキーワードに込められた。
デジタル・ドリーム・キッズ、技術に夢見るような子供たち、将来のビル・ゲイツや孫正義、西和彦になる子供たちが、目をきらきらさせるような製品を作ろう。そしてリ・ジェネレーション、IT時代にも戦えるソニーを作っていこう。
金融ディール、ロジスティクス、開発現場……文系と理系の境を超え、さまざまな部署を横断したことで、ソニーの姿がくっきり見えた。遠くに見えている“10年後のソニー”に近づくべく、出井氏は経営改革を進めていく。
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(次ページでは、「10年後に30代を迎える若者たちがこれからの時代を築いていく」)
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