後編 『ケイオスドラゴン』企画 太田克史氏(星海社COO)インタビュー
たとえ失敗しても「変えようとする側」でありたい
2015年12月19日 17時00分更新
今はドラクエIの次にファイナルファンタジーIを作るときじゃない
同じシステムのドラクエII、IIIを作るべき
太田 もし、ゲームが流行ってからアニメ化を決定していたら、ゼロから準備すると1年半かかります。残念ながらそのときにはブームの旬は過ぎているんです。今はブームの流れるスピードが速いですからね。「ゲームが流行ってから、儲かってからアニメを作ろう」では間に合いません。
―― アニメ単体がリスキーなら、スマートフォンゲーム単体で利益を出すという方向性もありそうですが。
太田 じつは、スマートフォンゲーム単体でヒットさせることも、ちょっと難しくなっているというのが今のスマホゲーム界の状況です。
スマホゲームの開発は、ここ数年で莫大な開発費用がかかるようになりました。少し前までは、3000万円とか5000万円あれば、ランキングのトップ30に入るようなゲームに育てることは可能でした。
でも今は、1億5000万から2億円くらいかかります。内訳も、開発予算が真水で1億円。そしてリリースした瞬間に広告を打つためにまた5000万円から1億円ぐらいです。だんだんコンシューマーゲーム並み、いやそれ以上のお金のかかり方になっています。
それでいて、短時間で「いけるな」「これはもうダメだね」と判断されてしまうんです。
―― リスクが高いですね。
太田 そうなんです。さすがにいくら昇り調子の業界だとは言っても、ゲームを作る費用はばかになりません。
せっかく作った作品が、短期間でジャッジされて消えていく。そこに虚しさを感じている業界の人は僕だけではないと思います。やっぱり作品が残らないと投資する意味がない。今はいろんなコンテンツ会社がその方法を模索しているところだと思います。
アニメとスマホ、1本だけやっても、もう難しくなってきている。それで、『ケイオスドラゴン』では、双方がお互いに影響を与え合えるよう、両輪にしたんです。
―― 前回のお話のなかでも、アニメとスマホの連動は興味深いものでした。とはいえ、『ケイオスドラゴン』ではアニメとゲームを同時に開発されたのですよね。初期投資が膨らんで大変そうですが……。
太田 そこは、SEGAさんと組んで、『チェインクロニクル』のシステムという、“ガワ”を使うことでクリアしました。
開発側からすると、ゲームのシステムをイチから作るのはお金がかかるし、ハズれると大惨事になります。昔みたいに次から次へと新しいゲームシステムが登場して、お客さんが「今度はどんなものが出たのかな」と買ってくれる時代ではなくなっています。
ですから今は『ドラゴンクエストI』を作ったら、次に『ファイナルファンタジーI』を作るのではなく、『ドラゴンクエストII』を作るべき時代なんです。なぜなら、『I』をプレイした人なら『II』も『III』も特に迷いなくプレイに没頭できるからです。
なぜ迷いなくプレイできるのか。それは同じゲームシステムを採用しているからです。
―― ゲームシステムを毎回イチから開発するのではなく、すでにヒットしたものを利用することで開発費用を抑えるのですね。
太田 スマホゲームでも、そういう形が若干増えてきています。あるゲームが流行ったら、そのゲームシステムを使って新しい世界観を見せていこうと。プラス、前のエンジンをブラッシュアップしていく。そういう作り方がこれから増えてくるのでは。でないと、投資に耐えられない。
プレイヤーにとっても、1つのゲームシステムがしっくりくるまでには時間がかかるから、慣れた感覚で新しく遊べる『~II』ものは良いことなんじゃないかと思います。
これはSEGAさんにとってもメリットがあるはずなんです。お客さんが『ケイオスドラゴン』のゲームを面白く感じたら、『チェインクロニクル』にも興味をもってもらえるはずなので。うちも『チェインクロニクル』の本を出させてもらっていますので、『ケイオスドラゴン』から入って『チェインクロニクル』に行ったり、その逆もあったりと、相乗効果で広がっていったらすごくいいなと思います。
アニメとスマホの連動での相乗効果
―― 『ケイオスドラゴン』は、アニメとスマホゲームを同時展開することで、作品にはどんなメリットがあるとお考えでしょうか?
太田 アニメの役割は、ファンの数を広げる告知効果。100万人が見てくれる可能性がある媒体として、TVアニメは大きな影響力を持っています。
一方、スマートフォンゲームはお客さんに無料で楽しんでもらいつつ、濃いファンには課金をしてさらに楽しんでもらえたらという構造です。
作品を展開するには、お客さんの注目度とお金、その両方がないとどうしても成り立ちません。両者が両輪として成り立っていけば、うまく進むことができるんじゃないかと思いました。
―― スマートフォンゲームは課金も含めた成り立たせ方なのですね。
太田 「スマートフォン」に着目しているのは、短期的なお金の話だけじゃないんです。僕は編集者として「デジタルで新しいことをやる」という目標を立てているんですが、それはいわゆるソーシャルゲームにこだわっているのではなく、「スマートフォンの向こう側にあるもの」がこれから大事になってくるから、今から勉強も兼ねてトライしている段階だと思っています。
僕には大きく感じている危機感があって。アニメ単体でお金を稼ぐというのは、年々難しくなってきています。
(次ページでは、「答えは「スマホの向こう側」にある」)
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