“ブームとしてのIoT”を終焉させる国産IoTプラットフォームの正体
星の数あるIoTデバイスをつなぐSORACOMの全貌
IoTデバイスのセキュリティをクラウド側で高める「SORACOM Beam」
ソラコムはさらに「二の矢」も用意している。これがSORACOM Airに高いセキュリティを提供する「SORACOM Beam」だ。「SORACOM Airを開発する中で、お客様の声から新しい需要に気がついた」(玉川氏)ということで、まさに走りながら作ったサービスになるという。
SORACOM Beamはクラウドのリソースを使って、IoTデバイスの通信をセキュアにするサービス。「モバイル通信の場合、IoTデバイスからLTE/3G回線を経てキャリアの交換機までは安全性が高い。でも、その先のインターネットからサーバー/クラウドへの通信はセキュリティ面に不安がある。そうするとデバイスからVPN接続や、交換機から閉域網接続の特殊オプションが必要となってしまう」(玉川氏)とのことで、クラウド側でデータの暗号化、SIMのIDやタイムスタンプの自動付与、プロトコル変換を実施。デバイスでのSSLやMQTTSの処理をクラウド側にオフロードし、インターネットにつなぐ際の盗聴やなりすましなどの危険性を防ぐのが狙いだ。
さらにSORACOM BeamではWebサービスにつなぐ際のルーティングまでコントロールできる。ある種、SDN(Software-Defined Networking)的な機能を内包していると言えよう。SORACOM BeamにIoTデバイスをつないでしまえば、Webサービスとのつなぎ込みはSORACOM側から自由に行なえる。「IoTの事業者はデバイス設定のメンテナンスが悩み。でも、SORACOM Beamを使えばIoTデバイスを初期設定のまま運用し、あとから接続先をSORACOMで変えられる」と玉川氏は説明する。
しかもSORACOMプラットフォームはAWS上で動いているため、SORACOM BeamからのデータをイベントドリブンなAWS Lambdaで処理することもできる。「これまでお客様が、デバイス、通信、インフラと別々に用意しなければならず、敷居が高かった。でも、今後はデバイスにSORACOM Airを挿せば、セキュアなIoTシステムをAWS上で簡単に作れる」と玉川氏は語る。
こちらもすでに事例がある。地方創生に向けて地方と首都圏の交流を推進する山形県高畠町の廃校再生プロジェクト「熱中小学校」(NPO法人はじまりの学校主催)においては、SORACOM AirとSORACOM Beamを用いた「百葉箱システム」が構築された。システムを構築した内田洋行は、SORACOM AirとSORACOM Beamを用いて百葉箱から収集された気温、湿度データやカメラ映像を閲覧できるようにしている。玉川氏が教頭を務めている熱中小学校もプロジェクトに参画しており、思い入れは人一倍強いようだ。
また、新世代の車いすを提案するWHILLは、電力を消費する暗号化処理を可能な限り、クラウドにオフロードしつつ、高いセキュリティを確保したいということで、SORACOM Beamを採用した。「SORACOM BeamはすでにIoTをやってらっしゃる方には刺さるサービス。デバイスの数が増えて管理に困ったり、セキュリティの壁に当たっている方は大勢いるはず」と玉川氏は語る。
パートナー制度も同時に立ち上げ!開発者も集める
今回はSORACOM Air/Beamを販売するパートナー制度「SORACOM Partner Space(SPS)」も発表されている。9月30日に事前登録が開始されるSPSパートナー(SPSデバイスパートナー、SPSインテグレーションパートナー、SPSソリューションパートナー)に対しては、営業・技術面での資料の提供やトレーニング・マーケティング支援などが提供される。
SPSデバイスパートナーは、おもにIoTデバイスの開発・販売を手がけているベンダー。アットマークテクノ、エイビット、エコモット、兼松コミュニケーションズ、ぷらっとホーム、三井物産エレクトロニクス、メカトラックス、Skydiscなどが事前登録を済ませており、SORACOM Airでの接続をサポートするという。「IoTのデバイスは盛り上がっているが、ソリューションの中の大半は通信コスト。デバイスが安くても、通信コストが高くて導入できなかった。SORACOM Airを使えばコストを抑えられ、一過性のモノ売りから継続的なソリューション売りに転換できる。ものづくりメーカーにとっては、ある種の起爆剤になるかもしれません」と玉川氏はアピールする。
SPSインテグレーションパートナーは、SORACOMを用いたシステム開発を手がけるインテグレーターが中心。ここにはアイレット(cloudpack)、クラスメソッド、サーバーワークス、日立製作所、Fusic、ハンズラボなどAWSのパートナーが名を連ねており、SIMと閉域網を組み合わせたセキュリティの高いシステムを提供していくことになる。
実際、アイレットはIoTとAWSを閉域網で直結した「IoT Pack」の開発を進めている。また、日立製作所もSORACOMと自前のHitachiクラウドを専用線で直結し、企業向けのセキュアな仮想デスクトップサービスの実証実験を進めているという。「これまで通信のところだけは自社サービスとして提供できなかった。SORACOM AirはAWSと同じ発想で、自身が通信キャリアとしてソリューションを提供できるようになる」と玉川氏は語る。
SPSソリューションパートナーは、SORACOM Airを組み込んだソリューション開発を手がけるパートナーで、9月30日時点ではセゾン情報システムズ、アプレッソ、アレグロスマート、ウルシステムズ、GOGA、HDEが登録済み。オンプレミスのビジネスからSaaSへ、さらにSaaSとデバイスを組み合わせた新しいビジネスへと歩みを進められるのが、SORACOM Airの価値。「たとえば、アレグロスマートさんは環境センサーから同社のIoTプラットフォームに対するデータ送信にSORACOM Airを使っています。SORACOM Airは上りの料金を安くしているので、センサーからのデータ送信に向いています。セゾン情報システムズさんはHULFTの確実・高速なファイル転送をSORACOM Air上で行なうソリューションを提供しています」(玉川氏)。SORACOM Beamを使うことでセキュアな通信ができる点、データの送信先を動的に切り替えられる点も高い評価を得ているという。
これらパートナーの反応について、「IoTの未来が来るのはわかっているんだけど、だいたい同じところでつまづいている。高い通信コストや柔軟性の欠如、MVNOになる際の障壁の高さなど、みなさん感じている。これをフェアなプラットフォームで解決しますという話は、共感を得られます」と玉川氏は語る。
(次ページ、フェアネスや定期的な値下げなどAWSの哲学を色濃く受け継ぐ)
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