“ブームとしてのIoT”を終焉させる国産IoTプラットフォームの正体
星の数あるIoTデバイスをつなぐSORACOMの全貌
元AWSエバンジェリスト 玉川憲氏が立ち上げたソラコムのIoT(Internet of Things)プラットフォーム「SORACOM」がいよいよベールを脱ぐ。リリース間際で慌ただしい雰囲気のソラコムオフィスで、玉川氏にサービスの全貌を語ってもらった。
IoTの障壁はいろいろなところにある
「すいません。リリース前で本当にバタバタしてるんですよ」。秋空が拡がる9月の某日、二子玉川にあるソラコムオフィスを訪れると、そこではCTOの安川健太氏をはじめ、多くのメンバーがオフィスを行き交っていた。7月に取材に訪れた時よりも明らかに人は増えており、オフィスはすでに手狭。クラウド界隈で名の知れたエンジニアたちもちらほら見かける。思わず「フルスタックエンジニアの固まり」と表現していた玉川氏の以前の台詞を思い出す。「いろいろ種類ありますけど、コーヒーはいかがですか?」。リリース前の最終レビューを終えた安川氏は、大谷とカメラマンに飲み物を勧めてくれた。
「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」を謳うソラコムのIoTプラットフォームが約半年間の沈黙期間を経て、いよいよ9月30日にデビューする。もったいぶらずに結論から言うと、ソラコムが手がけたのは、星の数あるIoTデバイスをつなぐべく、クラウド上に実装したパケット交換機を核としたMVNO(Mobile Virtual Network Operator)サービスだ。つまり、SORACOMは通信事業者として、エンタープライズやスタートアップに対して、セキュアでローコストなIoTデバイスへのコネクティビティを提供する。
サービス登場の背景には、クラウドとIoTデバイスの進化がある。AWSをはじめとするクラウドの登場により、ストレージとデータベースのコストが劇的に下がった。また、デバイスに関してもスマートフォンやタブレットはもちろん、AppleWatchやドローンなど多様化し、センシング技術や機械学習などの技術も一気に高度化してきた。こうした中、IoTによる新ビジネスの登場やMakersムーブメントがわき起こってきているのは周知の通りだ。
しかし、これまでIoTとクラウドをつなぐためには、いくつもの障壁があったと玉川氏は指摘する。「今までのクラウドって、モノ向けのクラウドだったのか? モノとクラウドのエンドツーエンドのセキュリティどうするのか? デバイスを小型化した際に、バッテリはどうなるのか? いろいろな障壁があったため、今までのIoTの試みはあくまで実験に終わっていました」(玉川氏)。
手軽に始められるIoTの新しいつなぎ方「SORACOM Air」
こうした課題を解消すべく、ソラコムでまず手がけたのは、IoTデバイスの接続性を向上させる「SORACOM Air」だ。
現状、IoTデバイスの通信環境は、Bluetoothとスマートフォンのテザリングや局所的に設置されている無線LANに依存している。一方で、3GやLTEなど通信事業者のモバイル通信は、初期コストや2年間縛りなど参入障壁が高い。「いざIoTデバイスをつなごうと思っても、ネットワーク環境を整える必要が出てくる。すぐにインターネットにモノをつなげるプラットフォームが必要だと考えた」(玉川氏)とのことで、自らが通信事業者になることを思いついたという。
ご存じの通り、通信事業者になるための障壁は、以前に比べて低くなっている。現在、NTTドコモやKDDI(au)、ソフトバンクなどの通信事業者(MNO:Mobile Network Operator)はモバイル通信向けの基地局をはじめ、交換機機能を持つデータセンター、インターネットに接続するためのISPの機能を保有している。そして、一部のMVNO事業者は、L2卸売り契約によってMNOから基地局を借り、データセンターとISP部分を自社で運営し、国内100以上ある他のMVNO事業者にSIMだけ卸し売るという形で市場が形成されている。もはや設備を保有しなくても、通信サービスが提供できるようになっているわけだ。
ソラコムはMVNOとして基地局をNTTドコモから借り受け、AWSのクラウドの上にパケット交換機能を実装している。「基地局を提供するキャリアと、グローバルのクラウドという2つの巨人に乗っかる形で、IoTプラットフォームを提供するのがSORACOMになる」と玉川氏は説明する。
そして、このAWSクラウド上に載るのが、自社開発のソフトウェア交換機だ。星の数あるIoTデバイスを前提にしたソラコムのIoT向けの交換機能は、大量のセッションが張られても、ノンストップで動き続ける強固な信頼性と拡張性を持つ。これこそがSORACOMのコアテクノロジーと言える。「これまで通信事業者の交換機は、そもそも人の通信のために作られているので、データを送り続ける膨大なデバイスの接続を前提としていなかった。でも、私も安川もAWS上で作れないものはないと信じていたので、IoTを前提にクラウドネイティブな交換機能を開発しました」と玉川氏は語る。
(次ページ、IoT通信を細かく制御し、さらに自動化まで)
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