SV2がCray X1に生まれ変わる
SV1exに続く形でSV2という製品が予定されていたのは、前ページのSV1のロードマップにも掲載されているし、連載279回でも説明した通りだが、このSV2という名前は開発コード名としては残りつつ、製品としてはCray X1という形に生まれ変わることになった。
昔のロードマップのスライドを見ると、SV2という製品はT90やJ90/SV1/SV1eといったベクトルプロセッサー、それとT3Eというアーキテクチャーの両方の後継になっているのがわかる。
もっともこれはSV2だけでなく、旧SGIのOrigin系列にも言える話で、初代のOrigin(Origin 200/2000)とSN1(Origin 300/3000)に続くSN2はやはりT3Eの特徴を引き継いだものになる予定であり、実際同社はこれをItaniumベースのSN-IPFという形でやはり2002年に発表した。
要するに元のロードマップは、CrayのベクトルプロセッサーとSGIのMIPSベースプロセッサーの系列に、CrayのT3D/T3Eのアーキテクチャーを融合させよう、という発想であり、これはCrayのSGIからのスピンアウト後も変わらずに進むことになった。このあたりを端的に示したのが下図である。
Cray X1の内部構造であるが、プロセッサーそのものはSV1の延長にある。異なるのは、4つのベクトルプロセッサーで2MBのキャッシュを共有するように改められたことだ。
コアの動作周波数は800MHzまで引き上げられ、1つのベクトルプロセッサーで3.2GFLOPS、これを4コア搭載するMSPモジュールでは12.8GFLOPSに達する。ちなみに各々のSSP(Single Stream Processor)の中の“S”(Scalar Unit)は400MHz動作で、“V”(Vector Unit)が800MHzになっている。
このMSPを4つ搭載した16CPUの構成(Crayの用語ではNode Module)が最小構成とされる。
ちなみに、いかにCMOSを使って微細化したとはいえ800MHzのコア×4を内蔵したMCM(Multi-Chip Module)をさらに4つ搭載するので、空冷では間に合わない。そこでCray X1ではCRAY-2以来となるフロリナートを利用した液冷が採用された。
といってもCRAY-2なみに回路全体をフロリナートに漬けるのではなく、MCM部と接する厚いアルミの放熱板の中にフロリナートを通す構造になっているようで、メモリーあるいはネットワークチップは空冷のままとなっている。
ちなみにこのX1ではメモリーとしてDirect RDRAMが採用された。1ノード、つまり上の画像に示される1枚のボード上には32ch/64スロットのRIMMスロットが用意されており、PC800を利用した場合でボード1枚あたり51.2GB/秒の帯域となる計算だ。
2002年といえばそろそろDirect RDRAMの敗色が明らかになりつつある頃ではあったが、設計を開始したと思われる2000年以前の段階ではまだDDR SDRAMがどの程度普及するか見えておらず、DirectRDRAMを使ったのも仕方がないところだ。
このあたりは、新しい規格にあわせてさっとメモリーをDRDRAMからDDR SDRAMに切り替えられたPCとの相違点ではある。
→次のページヘ続く (超並列の名機Red Stormの2倍以上の性能)
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ