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キング関口台スタジオのエンジニアを取材

50年のときを経て、麻倉怜士がザ・ピーナッツに出会う

2015年06月14日 12時00分更新

文● 小林久 語り●麻倉怜士 構成/写真●ASCII.jp

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楽曲を試聴して~麻倉怜士

 ハイレゾを再生できる環境が普及する中、配信する音源も多様化しています。その中でも、過去にアナログで収録された音源を、改めて高品質にデジタル化することには、大きな意味があります。

 アナログマスターの中には、録音した時点で、アーティストの最高のパフォーマンス、そしてエンジニアのこめた最高のニュアンス情報がこめられています。キングレコードはその情報をくまなく引き出すことへのこだわりを徹底していることに感動しました。

 国内レーベルであり、オリジナルマスターを直接扱えるというのも大きな利点です。海外レーベルの音源の場合、それには国内で直接触ることはできず、デジタルコピーをマスタリングして配信することしかできません。

 ハイレゾ・ベストコレクションでは、録音した当時と近い、TelefunkenやSTUDER製のデッキで本物のアナログマスターテープを再生し、その場でDSD化しています。

 この際フラットトランスファーするか、イコライジングをかけるかという2種類の選択があるのですが、キングレコードの場合、当時の歌声、そして作品に込められた芸術性を現代に甦らせるためには、イコライザーが必要だと考えています。完成したDSDのマスターとオリジナルのマスターを比較してみると、オリジナルのよさはもちろん引き出しつつ、これに現代的な風味が加わった印象ですね。

 今回は2曲聴きました。まず『恋のバカンス』は、最初に自宅で聴き、非常に驚いて、この取材を思い立った印象深い作品です。大変有名な曲なので、過去にレコードやCDで何度も聴いていたはずですが、簡単に言うと、これまでのイメージとはまったく違う音が自宅のシステムから響いてきました。言ってしまえば、過去に聞いたレコードやCDの音はなぜか厚化粧で、再発時に演歌やポップス向けのイコライジングが施されていたのかもしれません。これが本格的なシステムでは違和感を与えるものでした。しかしDSD版ではそれがなく、コーラスはクリアーでバックも演歌やポップス的な過剰な風味がありませんでした。

 キングレコードの関口台スタジオでは、STUDER A820を使い、アナログマスターの音を聴きました。その再生では、透明感や質感の高さに加え、空気感もリッチで、音場の位置関係やダイナミックレンジの広さなど、オーディオ的な意味でのクオリティーの高さも感じました。まさにマスターであり、これまでのレプリカとはまったく違う次元を超えた透明感と実在感が共存しているという感想です。

 音源は昭和38年に文京公会堂で録音されたものだそうですが、ユニゾン、そしてハーモニーの美しさはひとつの聞きどころです。双子ならではというか、同種の声質の二人が同時に歌う声の微妙な違いや複雑性を感じます。そのニュアンスに加えて、弱音のやさしさと強音のハリというレンジの広さもあります。

 これがDSD5.6MHzになると、この基本線を保ちつつ、もっとリッチで芳醇な響きとなり、音に体積感や音場感が得られるようになってきます。これは(イコライジングによる)あからさまというほどの違いではないのですが、やはり違っていました。ボーカルはよりブライトになり、音の力感がくっきりしている。しかし大事なことですが、デジタルっぽさ(つまり強調感や冷たさ)はなく、明晰化しても、アナログ的なヒューマンな響きを維持している。逆に言うと、よりストレートな音にしたのがマスターと言えます。

 倍賞千恵子の『下町の太陽』は、当初のシングルはモノラル収録で、配信の音源は3度目のステレオ録音だそうです。マスターからしてグロッシーで、リバーブも適度にありリッチな印象です。マンドリンをフィーチャーしていて弦をはじく音の楽しさなども感じられます。ベースラインは単純ですが、切れがあって、こんなところからもさすがマスターは違うと感じてしまいました。

 取材では、マスターテープで再生中の音をリアルタイムでA/D変換する現場に立ち会うことができました。すでにアナログのイコライザーの設定は済ませてあり、作成したDSDファイルはそのまま配信に使われるそうです。

 できたてのほやほやのDSD版の音源はマスターテープに、明確さと華やぎが加わり、元のリソースに含まれていた情報量はキープしつつも、華麗でブライトな質感と輪郭感が加わった印象です。一方でDSD5.6MHzというフォーマットの持つ、アナログに近いよさが十全に出ているのを感じる音源でした。

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