
ハイレゾに興味があって、「いい曲」を「いい音」で聴きたい。でも差し当たって「何を聴いたら幸せになれるのかなぁ」なんて思っている人に向けた新連載。評論家の麻倉怜士先生が、現在配信中の最新音源から、注目かつ高評価な楽曲をピックアップ。じっくり聞いて評価します。
特におすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
フランク&R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 他
諏訪内晶子(ヴァイオリン)、エンリコ・パーチェ(ピアノ)

1990年、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクールで優勝、その後、ニューヨークに留学し、1995年から本格的に演奏活動を再開した諏訪内晶子。4年ぶりの新録音だ。
ピアノの幻想的なテンションコードで始まるフランクのイ長調のヴァイオリンソナタ。冒頭の息の長い、不協和音を含んだロマンティックで、少し倦怠的な旋律が、諏訪内の手に掛かると、細身のボディ感にて、感情の起伏豊かなフランクの音になる。第2楽章の劇情的な展開も濃密で尖鋭だ。第4楽章のカノンは、ラブリーに始まり、ヴァイオリンとピアノの対話の息づかいが生々しい。
響きの質が高く、直接音と間接音のバランスが良好で、ヴァイオリンの浮遊感もリアル。ヴァイオリンもピアノも明瞭度が高く、音像的なバランスもいい。両者が対等的に主張するこの曲の録音としては、歴代かなり上位に入るのではないか。
2016年1月26-29日、パリのノートルダム・デュ・リバンで録音。
FLAC:96kHz/24bit
Universal Classics & Jazz、e-onkyo music
R.シュトラウス: 交響詩「英雄の生涯」/「ばらの騎士」組曲
トーンキュンストラー管弦楽団、佐渡裕
2015年秋、ウィーンの名門オーケストラ・トーンキュンストラー管弦楽団の音楽監督に就任した佐渡裕の同オーケストラ録音第一弾。トーンキュンストラーの自主レーベルからのリリースだ。ホールトーンが美しく、響きが豊か。弦の質感が繊細で、低音の量感がたっぷりのピラミッド的なバランスだ。フォルティッシモでも尖りや輪郭強調が少ない、すべらかな質感で聴ける。弦も管楽器もしやなやかで馥郁(ふくいく)たる香りがする。
R.シュトラウスの複雑なオーケストレーション世界を冷徹に細かくディテールまで突っ込むというより、ホールトーンの絢爛(けんらん)さに大オーケストラならではの雄大さと迫力と重層感を載せたゴージャスなサウンドで聴かせる。
R.シュトラウス:「薔薇の騎士」組曲の冒頭は、弦が手前にホルンが奥にと明確な位置関係が分かる。これまた芳しいウィーン的な高貴さが、ハイレゾで細やかにキャプチャーされている。2015年10月16~20日、ウィーン近郊のグラフェネックの「Auditorium」にて、ベルリンの制作会社「ペガサス ムジーク プロダチィオン」セッション録音。
WAV:192kHz/24bit、FLAC:192kHz/24bit
5.1ch WAV:192kHz/24bit、5.1ch FLAC:192kHz/24bit)
Tonkunstler Orchestra、e-onkyo music
ラヴェル:管弦楽作品集
ユジャ・ワン、レイ・チェン
Tonhalle-Orchester Zurich 、リオネル・ブランギエ
超お買い得なハイレゾだ。全50曲で4600円。何と一曲あたり92円! これは一括購入だから安いのである。この50曲のうち45曲が一曲単位で買えるが、一曲が最低でも268円だから、合計は1万3782円にもなる。。絶対的に全部購入が安い! 価格は抑えているが演奏は最高だ。ユジャ・ワンとチューリッヒのトーンハレオーケストラと来れば一流だ。しかもすべて最新録音である。
38曲目「ラ・ヴアルス」。トーンハレのホールトーンが心地良い。響きのスピードの速さが透明感に繋がっている。オーケストラの歌いもカンタービレが効き、弱音での感情の豊かさから、強音トゥッティでの大スケールの迫力感まで、生々しく聴かせてくれる。ホール1階のセンターで、眼前の演奏を聴いている感覚。音色感も素晴らしい。弦が艶やか、木管がしなやかで、ラヴェル的な色彩感が豊かなことに加え、スイスのオーケストラらしい清涼感がハイレゾでたっぷりと愉しめる。2014年11月、2015年1月、4月、9~11月〈協奏曲以外はライヴ、、2015年4月(協奏曲)、チューリヒのトーンハレホールで録音。
FLAC:96kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music

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