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キング関口台スタジオのエンジニアを取材

50年のときを経て、麻倉怜士がザ・ピーナッツに出会う

2015年06月14日 12時00分更新

文● 小林久 語り●麻倉怜士 構成/写真●ASCII.jp

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エンジニアの知見がいっぱい詰まった、キングレコードのアーカイブ

麻倉 それでは実際の音を聞かせて下さい。まずはザ・ピーナッツの『恋のバカンス』からお願いします。

テープセットの様子。アナログテープの取り扱いにはいろいろとノウハウがあるので、安藤さんも新人時代にいろいろな修行があったそうだ。

ひねりまき(キングオリジナルのやり方)は、信号面へのダメージが少ない。キングではマスター巻きで保存している。再生(録音)したらそのまま左右のリールに巻いて保存するやり方だ。再生時は、巻き戻して再生する。

ゆっくりと巻き戻す。巻き戻し/早送りの2つのボタンを連打して低速で少しずつ巻き戻す。巻き戻しや早送りは押したままにすると早く回転しすぎるので、適当に緩めながら少しずつ巻く。

編集点のつなぎ目となる2枚のテープの貼り付けは45度の角度にして、つなぎの音変化を円滑にする。この部分に録音をするためにもいろいろと修行したという。

安藤 ザ・ピーナッツの録音は昭和38年の2月5日です。場所は文京公会堂。当時は収録するスタジオが埋まっている場合などに、ホールを使うことも多かったようです。マスターテープを聴くと、人工的なリバーブ処理が施されているようですが、ホールの響きが多少残っているようにも感じます。

 ちょっと話が反れますが、こういったホールで収録する際にトイレを締め切ってスピーカーや機材を持ち込んでそこでエフェクトを入れたこともあると先輩に聞いたことがあります。この録音がそう、というわけではないのですが。

テープのパッケージ裏面には、録音したときの状態が詳細に記録されている。電源周波数の記載まである点は、電源事情が貧困だった昭和30年代の様子が伺える。

 また当時は、電源事情もあまりよくなかったので、マスターテープの裏面に録音したときの電源周波数が書かれています。この音源で言うと47Hz。この数字に合わせれば、後から正確に再生できる。こういった細かな情報も担当したエンジニアが残しているのです。

麻倉 非常にしっかりとしたアーカイブですね。とても興味深い話ですね。もう1曲お願いします。

倍賞千恵子

安藤 それでは6月に配信が始まる、倍賞千恵子さんの「下町の太陽」をかけましょう。少しテンポが速いと感じるかもしれませんが、もともとはモノラルで収録された音源で、それを聞きなれているからだと思います。今かけているのはステレオで収録した3度目ぐらいの録音になりますね。

麻倉 アナログマスターとDSDを聴き比べると、DSDのほうが全体にブライトな感じになっているのが分かりますね。これはイコライジングによるものでしょうか?

安藤 いやでも意識してしまう部分ではあります。多少現代風にしたいというか、みんながそういった音を期待しているのだろうと。

麻倉 ただしこうしたシャープさを感じる一方で、アナログ的な音でもあり、きつくなりすぎない点がいいですね。

取材に立ち会ってくれた矢内康公さん。取材前にイコライジング設定は済ませており、マスターテープの再生中にその場でPyramixでDSD変換し、出来立ての音源を聞けるようにしてくれた。

1960~70年代のアーカイブだけでなく、11.2MHzの新録にも意欲

麻倉 最後に今後の配信予定について教えてください。

小林 ハイレゾコレクションは、毎月の1回のリリースを予定しています。時代で言うと1960~70年代の録音が豊かですから、そこを中心にベスト版を編成していこうと考えています。将来的には、個別アルバムのリリースやコンピレーションなどもありうると思います。

麻倉 切り口によるオリジナリティーも出せるわけですね。

小林 ハイレゾの浸透によって、業界やリスナーの間でも、こうした過去の音源が見直されている面があります。私自身も過去のアナログマスターは非常にすばらしいものだと思っていますし、こうしてアナログマスターを聴き、改めてDSDを聴くことで、数多くのサプライズがあります。収録方法からして、今ではほとんどできない一発録りですし。

麻倉 ザ・ピーナッツ、倍賞千恵子さんと聴きましたが、いずれもたいへん豊かなニュアンスがあって、表現力の豊かさを感じさせますよね。そして今回はアーカイブをDSD化するお話でしたが、DSDによる新録音にも大いに期待したいところです。

小林 DSD録音という意味ではジャズ系のアーティストの企画が控えています。ドラマーの大坂昌彦さんはDSDの録音にも造詣が深く、11.2MHzの意欲作になります!

麻倉 本日はありがとうございました!

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