扇型に客席が積み重り、芳醇な響きが広がる
佐武 先ほどホールの中を見せていただきました。広いのに客席が近く、しかも独特な配置で驚きました。普段私が立つようなステージのように座席が平行に並んでいるわけじゃないんですね!
石丸 はい。クラシック演奏で使われるコンサートホールには大きく分けて2種類あるんです。ひとつはワインヤード形式。ワイン畑という意味で、段々畑のように客席を配置します。世界的に有名なのはベルリンフィルのコンサートホールですが、日本で言えばサントリーホールやここ(東京芸術劇場)になると思います。もうひとつが四角いシューボックス形式です。“靴の箱”という名前のとおり、スクエアな形状となります。一番有名なのはウィーンのムジークフェラインザール。新宿の東京オペラシティもこの形式ですね。一般的にワインヤード形式は音がよく拡散して、少し華やかな響きになると言われています。逆にシューボックスでは音の密度が高く端正な響きになります。
佐武 私たちがライブで使うようなホールとの違いはあるのでしょうか? シューボックスと近いようにも思いますが。
石丸 ワインヤードやシューボックスといった形式はクラシック演奏に特化した場合に使われる呼び方です。なぜなら、クラシックコンサートに特化したホールはホールそのものが楽器と言えるからです。(座席の配置やホールの形状も合わせて響きが生まれます)
だから、ピアノにヤマハやスタインウェイ、ベーゼンドルファーがあり、バイオリンにストラディヴァリやガルネリがあったりするように、ホールにもその場所特有の音色があります。ムジークフェラインザールならムジークフェラインザール、東京芸術劇場なら東京芸術劇場の響きがあるんですね。
クラシックファンは、同じオーケストラ、同じマエストロ(指揮者)でも、ホールによって響きの違いが出ることを知っていて、それを楽しんだりもしています。
佐武 ホールそのものが楽器!! そうですか、確かにそうかもしれません!!
石丸 だからどこのホールの響きが良いといったことは言えないし、言うべきではないと思います。それぞれに癖はあるし、好き嫌いもあるでしょう。でもスタインウェイがよくてベーゼンドルファーが悪いと言えないように、優劣を付けることはできない。個性と言うべきものなんです。
前田 これは佐武さんが普段ライブをするホールだって同じです。武道館や中野サンプラザ、Zepp Tokyo……。どれも個性があります。ただ違いがあるとするなら、こういったホールではPAを使い、より多くの人に向けて音を届けていくスタイルが中心です。一方、クラシック演奏では、マイキングをせず生の音だけで鳴らす形になるので、空間の特性がよりダイレクトに観客に届きます。
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