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佐武宇綺が聞いちゃいます オーディオのココが知りたいです! 第10回

HD Impression 阿部さんはこれに魅せられた:

聴けば分かる、ハイレゾで聴く「サラウンド」の実力 (1/6)

2015年02月10日 17時00分更新

文● 編集部、聞き手●佐武宇綺

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テーマはサラウンド。新レーベル「HD Impression」主宰の阿部哲也さんを取材。場所はミックス作業の最終チェックを実施したオンキヨーの試聴室です。

サラウンドに特化した新レーベル・HD Impression

 佐武宇綺がいい音を探す旅。プロの現場を取材しながら、さまざまな立場で“いい音とは何か”を語ってもらっています。今回訪問したのは、オンキヨーの試聴室。有限会社HD Impression代表取締役の阿部哲也さんに、サラウンドの魅力について聞きます。

 阿部さんの最新作は、e-onkyo musicで1月21日から独占先行配信が始まった4つのアルバム関連記事)。教会やホールにマイクを持ち込み、なるべく手を加えず、その場の空気をより鮮明に描き出すことに注力されているとのことです。

 そして音の最終チェックは一般向けに販売されているオンキヨーの機器を使っています。サラウンド再生の魅力は、機会がないとなかなか理解しにくい面もありますが、その音を体験した佐武さんも非常に驚かれたようです。

お話を伺った人──阿部哲也さん

大手スタジオでエンジニアとして活躍後、著名エンジニア・赤川新一氏が率いる「ストリップ」などを経て、2014年に自身のレーベル・HD Impressionを設立。サラウンド録音にこだわった活動を開始した。Le Couple・藤田恵美の録音を数多く手がけており『camomile』3部作は、まず最初にアジア各国で高い評価を得た。そのBest版はサラウンド収録したSACDとして、ソニーでAVアンプの開発をしていた金井 隆氏の協力のもとリリース。オーディオファンの間でも高音質盤と評価されており、異例のベストセラーとなった。

本当のサラウンド再生ではホールの天井の高さまで分かる

佐武 佐武宇綺です。本日はよろしくお願いします! 早速ですがまず最初に阿部さんのお仕事について聞かせてください!

まずは佐武さんも「知っているようで知らない、サラウンド再生」について聞いていきましょう。

阿部 レコーディングエンジニアと言いまして、簡単に言うとスタジオでアーティストさんと一緒に録音をする仕事をしています。

佐武 “サラウンド”にこだわっていると聞いたのですが、具体的にはどんなものになるのでしょうか?

阿部 まず“サラウンド”というと、映画などで画面の動きに合わせて、いろいろな場所から音がするといった位置づけのものを思い浮かべる方が多いと思います。(リスナーを中心にした)半球体のいろいろな場所から音が鳴って臨場感を出すものですね。

 基本的な考え方はこれと同じなのですが、音だけのコンテンツ、例えばクラシックの生演奏をホールで聴く場合を考えてください。PAも何も介さずに直接音がリスナーに届くのですが、目をつむるとどこにどんな楽器があるか分かりますよね。

佐武 そうですね。ホールで聞くと、ああここにバイオリンがいるんだなとか、そういうことが分かりますね。

阿部 そのとき音は、演奏者のいるステージから一度上にあがってホール全体に広がっていくのですが──

クラシック演奏会のホールではステージでなった音が一度上にあがって、それがホール全体に広がります。

佐武 えっ!? 音は上にあがっていくのですか!!

阿部 はい。下側には観客がいたりするので、音が吸収されやすいんですよ。だから演奏者のところから、まず最初に音が上にパア~んと響きます。響きのいいホールなら、そこから音がよく広がって、後ろから反響した音が聞こえたりもしますよね。

佐武 はい、ちょっと遅れてきたりします。

阿部 そうです! あの感じをスピーカーでそのまま再現するっていうのが音楽におけるサラウンドなんです。正確には“サラウンド・ミックス”っていうんですが。

マイキングがうまくいくと、ホール内の反響をより繊細に収録することができ、音が鳴っていないはずの上部の音も再現されていく。

佐武 普通のオーディオでは左右のスピーカーだけで空間を再現しようとしますよね。サラウンドでは5つのスピーカーで囲まれた状態で音を聴くわけですよね。

阿部 そう。5台のスピーカーを使うことで水平方向について360度の音が再現できるようになります。面白いのは、ちゃんとマイクを立てて録音すると「上下方向の音も出てくる」という点なんです。スピーカーは同じ高さで並べてあるから、普通に考えたら、上下っていうのはありえない話に思えるでしょう? でも聴くと本当に音が上にあがっていくんです。ぜひあとで体験してください!

取材したオンキヨーの試聴室にはサブウーファーが2台、B&W 801が5台置かれていた。

佐武 そのために、どういう録り方をしているんですか?

阿部 まずは耳で確かめるのが重要ですね。同じホールでも聴いている場所で音には違いが出てきます。だから「ここだと高さが出てるな」とか「輪郭がハッキリするな」とか、自分の耳で判断して適切な方法でマイキングする。そうすると自然に高さだったり、臨場感が出てくるようになっていくんです。

佐武 後からスピーカーごとに鳴らす音の割り振りを変えたりするんですか?

阿部 そういうことはあまりしません。ベース(低域)については、前においてあるサブウーファーというものから出るんですが、映画の音響とは違って、クラシックやジャズの再生ではそれほど目立つようには使われないんですよ。

佐武 そうなんですか!!

阿部 もちろん音楽用のいいスピーカーで聴くというのが条件になりますが、サブウーファーなしでも十分な低音を出すことができますから。

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