新生SAPの幕開けを告げる「SAPPHIRE NOW 2015」 第2回
クラウド企業のDNAを継承し、SAP買収から3年で大きく成長!
タレント管理のSuccessFactorsから見た日本の人事システム
2015年05月22日 07時00分更新
企業を支えるのは製品やサービスではなく社員だ。一人一人が持つ才能をいかに発揮してもらうか、人事システムは単なる給与システムから戦略的な役割を担いつつある。SAPが2012年に買収した人事・タレント管理のクラウドサービス「SuccessFactors」でクラウド&オンプレミスHR担当プレジデントのマイク・エトリング(Mike Ettling)氏に日本の人事システムのトレンドや課題について話しを聞いた。(以下、敬称略)
グローバルの日本企業は「二重アプローチ」に悩んでいる
――日本の人事システム分野のトレンドは。
エトリング 日本は国際拠点を持つ企業数が世界で3番目に多い市場だが、これら国際拠点を持つ企業はこれまで、人事システムで”二重アプローチ”をとってきた。つまり、国内と国外とで別のやり方を導入していた。しかし、ここにきて大きなシフトが起こっている。
要因は2つある。1つ目として、日本企業の多くが全体の従業員を把握しておらず、これを課題視し始めている。2つ目として、日本企業は子会社に大きな権限を与えているところが多く、子会社と親会社が違うシステムを導入していることが多い。
この1年半、複数の日本企業の人事トップと話をしているが、この2つを課題と感じており、解決したいと思っているところが多い。つまり、グローバルで単一の人事ソリューションを持つべきだという方向性にある。どのようにしてグローバルレベルでタレントマネジメントをするか、パフォーマンス管理をするか、人事に関するデータや情報の単一のビューを得られるのか。デジタル化が進んでおり、たとえばメーカーなら製品を作って売るだけでは生き残れなくなってきた。グローバルでの競争を勝ち抜くために、これらは不可避だ。
このようなトレンドはわれわれにとって大きな追い風となる。SuccessFactorsはこれらの課題を解決できるからだ。
――どのように解決できるか教えてください。
エトリング われわれのソリューションはモジュラー構造なので、人事トップは子会社の給与計算システムに関係なくパフォーマンス管理、タレント管理、ラーニングなどのソリューションをグローバルにロールアウトできる。軽量のデータレイヤーを利用してフィードを得るので、CEOら幹部は子会社に強制的に同一システムの導入を強いることなく単一のビューを得られる。このように、SuccessFactorsのモジュラー性、柔軟性のあるソリューションは日本企業に技術的、文化的にフィットする。
競合の多くが日本市場にアプローチするにあたって、グローバルでソリューションの導入を呼びかけるが、このアプローチは日本企業には適していない。その結果、日本国外の子会社で部分的に導入するだけで終わってしまっている。われわれのソリューションはそうではないので、日本企業から高い関心を得ている。SAPを導入している顧客も多い。
クラウドSAP買収以降で売上は3倍に
――SAPがSuccessFactorsを買収してから4年が経過した。現在の状況は?
エトリング 買収当時、SuccessFactorsは年3億5000万ドルを売り上げており、ベンチャーの域は脱していた。それでも高成長企業の文化を持つことは買収の大きなポイントで、SAPが買収した理由の1つとして、SuccessFactorsの製品や技術だけではなく、クラウドのDNAやカルチャーを取り入れたいという狙いがあった。そしてSAPはその後も、SuccessFactorsが自分たちのDNAを損なわないように別の組織(SAPカンパニー)として運営してきた。この間、売り上げは3倍になった。
われわれは2013年からSuccessFactorsとSAPの人事ソリューションの統合を進めてきた。現在、DNAを保存しつつ製品統合が完了した状態で、SAPの持つ大きなエンジンの活用とイノベーションの両輪だ。たとえばSAPはグローバルにプレゼンスがあり、巨大な営業部隊を持っている。これは重要だ。現在、SuccessFactorsのもっとも重要な推進力となっているのは、クラウド企業かどうかではなく、人事ビジネスのリーダーであること。人事担当者が魅力を感じるポイントは、CIOとは異なる。クラウドかどうかではなく、人事担当者が使いたい機能が備わっているかどうかだ。
実際にやった作業は、組織と製品の両面での再編だ。組織側ではSAP買収に伴う変化にハッピーだという人のみ残ってもらった。製品側では、クラウドの人事ソリューションとオンプレミス製品の統合。これにより、(クラウド、オンプレミス、ハイブリッドを網羅する)人事ビジネスが展開できる。
主力となるコアHR製品「Employee Central」はSAP買収時にまだ設計段階だったが、買収後に機能を加えて完成させた。現在、92%増で顧客数を増やしており、人事市場でもっとも成長している製品だ。これも、SAPのリソースなしには誕生し得なかった。
このように、現在成長エンジンとしてのSAPと本来からSuccessFactorsに備わっていたイノベーションのハーモニーがうまれつつある。
――SAPの他の製品との統合は?
エトリング たとえばファイナンスとの統合。ファイナンスとコアHRを構造レベルで、双方向で統合した。製品化することで、顧客は統合や統合のメンテナンスが不要となる。
このようなレベルの統合を今後も進めていく。たとえば派遣社員まで管理できるFieldglass(SAPが2014年に買収)などとも進めていく計画だ。
(次ページ、クラウドソーシングの台頭や若い世代の働き方)
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