日本進出が話題になった「Netflix」。Netflixは、オンラインDVDレンタルや映像のストリーミングサービスで、会員数は全世界で5000万人以上と言われる、世界最大手の映像配信サービスです。特に米国では普及率が高く、「Hulu Plus」や「Amazon Prime」と激しく競い合っています。
Netflix:作品数がダントツで多い。ただし古い作品がメインで、最新作は含まれない。たとえばテレビドラマは、シーズンが終わってから一気に追加される
Hulu Plus:作品数は少ないが、新しいエピソードが充実。ただし見逃し想定なので、最新の5話のみ視聴可能といった制限がある(日本のHuluとは異なる)
Amazon Prime:作品は比較的多い。米国内送料無料化サービスのおまけなので安い。最新作の視聴には追加料金がかかる。
Netflix、Amazon Primeはオリジナル作品を制作し独占放映しているので、複数のサービスを契約している人もいます。日本と米国とを行き来している私は、これら3つに加えて、
- 渡航時はiTunesでレンタルした作品をiPadでオフライン視聴する
- 日本にいるときはバンダイチャネルを契約する
と、複数のサービスを組み合わせて利用しています。
これらのストリーミングサービスはいずれもオンデマンドなので、ニュースやスポーツ観戦のようなリアルタイム性はありません。そのため、CATVをはじめとしたリアルタイムのサービスを補完する位置づけです。
アメリカのストリーミング事情とNetflixの特徴
ストリーミングサービスが普及しているアメリカでは、ブルーレイプレーヤーもストリーミングサービスに対応しています。
「アメリカではTVリモコンにNetflixボタンがついている」と日本で話題になりましたが、リモコンにボタンがついたから普及したよりは、普及したから専用ボタンがついたのです。
アメリカで生活していると「XXのドキュメンタリーが面白かった」「それNetflixに上がっている?」といった会話が普通に飛び交います。
Netflixの魅力の1つは膨大な配信作品数ですが、B級作品や無名作品が多いため、有名な作品や最新作を探して視聴するよりも、作品を掘り起こして当たり外れを楽しむスタイルが中心となります。そのため、ネットフリックス社は過去の視聴履歴に基づくレコメンド機能の開発に大きな投資をしています。見れば見るほど自分好みに鍛えられるレコメンド機能のあまりの秀逸さに、日本に帰国するときでさえ退会をためらうほどです(実際、私は退会ではなく、休会するようにしています)。
Netflixのコンセプトダイアグラムを描いてみた
Netflixはなぜ多くの顧客に支持されているのか? 顧客の動きと気持ちをビジュアライズする「コンセプトダイアグラム」を使って図解してみました。
まず、ネットフリックスのマーケターになったつもりで、Netflixのビジネス課題を洗い出してみます。
- 月額固定だが、いつでも休会できる。退会は月単位(一方Amazonは年契約)なので、継続が重要
- ライセンス費が安く数が多い旧作の視聴を促進したい
- 見たい作品が尽きると休会が増える(マイリストに作品をたくさん追加してもらいたい)
- 作品は追加するだけでなく、削除することもある(放映ライセンスは時限)
次に、これらの課題を踏まえて、コンセプトダイアグラムを作成します。コンセプトダイアグラムは、顧客を主語にして、サービスや商品との接点からゴールまでの動きを描いていきます。
Netflixと顧客との最初の接点となる「きっかけ」として、「話題になる」「ヒマつぶし」の2つをスタートとします。Netflixは月額固定料金制のサービスであり、いつでも休会できる(休会期間は請求対象外)ので、ゴールは「続ける」にしました。このコンセプトダイアグラム上に、現在のNetflixの取り組み(マーケティング施策や機能)を青字で重ねてみます。
Netflixに加入する「きっかけ」は、「ヒマつぶし」と「話題になる」のそれぞれの施策を考えます。
- ヒマつぶしの場合
- 話題がきっかけの場合
気楽にテレビやタブレットで視聴できる環境が重要です。そこで、iOS、Android、Kindleのアプリ提供、Xbox、PlayStationなど、コンソール対応、Chromecast、Rokuなどストリーミング機器への対応などに取り組みます。
話題を作るために、House of Cardsのような面白いオリジナル作品へ投資します。また、作品の追加日、削除日の情報を発信します。
コンセプトダイアグラムで顧客の行動を整理すると、実は、作品の追加日だけではなく、削除される情報も閲覧促進に重要だとわかりました。情報を各方面にリリースすることで、「新しい作品を早く見たい」「消される前に見ておかないと」というきっかけ作りにつながります。
コンセプトダイアグラムから分かる顧客の視点
「きっかけ」からNetflixを訪れた顧客が作品を「視聴する」ために、Webサイトやアプリで動画を視聴するときに役立つ機能を提供します。「前回の続きを見る」機能や、見たい番組をリストに入れておくマイリスト機能、レコメンドなどが重要になることがわかります。
マイリストに作品が溜まっていれば、検索して作品を選ぶ負担が軽減され、気軽に視聴できます。つまり、「常にリストに複数の作品が追加されている状態を作る」施策が重要です。Netflixは、作品を見終わった後に、次の作品や関連した類似番組を提案し、マイリストに誘導しています。
一方、「次の作品」がない、レコメンドがつまらなそう、関連作品がない、マイリストに番組が登録されていない、といった状態になると、顧客はコンセプトダイアグラムの左の矢印に進み、休会されるリスクが高まります。
以上、顧客視点の流れでさまざまな施策を整理した結果、Netflixが多くの顧客に支持されている理由が見えてきました。
ビジネスに役立つレポートを作る
コンセプトダイアグラムの目的は、単にビジネスや施策を整理することではありません。図解によってサイトの機能やマーケティング施策の位置づけがクリアになると、分析すべき指標が明確になり、継続的に評価していくことで改善、成長のサイクルを回すことができます。
そこで、「Netflixのマーケターになったらこんな数字を見て意思決定したい!」というレポートについて妄想してみました。
この例は、交渉担当がどのような番組を仕入れるべきかを判断するためのレポートです。コンセプトダイアグラムを作ることで、目的が明確なレポートを作成し、的確な意思決定ができるようになります。
コンセプトダイアグラムが自分で描ける!
楽天や米Adobe、電通レイザーフィッシュなど数多くの企業での実績を持つ著者が実践してきたユニークなWeb解析・マーケティング改善の手法を徹底解説した本『コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析』が発売されました。
「コンセプトダイアグラム」による顧客の行動やマーケティング施策の「見える化」から、指標の定義、データ取得の考え方、上司やクライアントを説得できるレポート作成のテクニックまで。
「周囲に理解されない」「役立つデータが得られない」と悩むアクセス解析担当者、コンテンツ設計や広告キャンペーンを見直したいWeb担当者、チームの意識統一を図りたいディレクターなど、すべてのデジタルマーケター必読の1冊です。
Image from Amazon.co.jp |
コンセプトダイアグラムでわかる [清水式]ビジュアルWeb解析 |
清水 誠 著
- 価格:2,592円 (本体2,400円)
- 発売日:2015年3月18日
- 形態:A5 (184ページ)
- ISBN:978-4-04-8661423
- 発行:株式会社KADOKAWA
目次
- 第1章 アクセス解析を超える「ビジュアルWeb解析」とは
- [1-1]図で考え、図で伝えることがチームを鍛える
- 第2章 事例で学ぶビジュアルWeb解析の流れ
- [2-1]売上2.7倍!地ビールメーカーのリニューアル戦略
- [2-2]新規客とリピーターのWeb利用を設計する
- [2-3]用意すべきコンテンツは図から見えてくる
- [2-4]サイト改善の実績をExcelでアピールする
- 第3章 コンセプトダイアグラムで顧客と施策をビジュアライズ
- [3-1]ビジネスを図で表せば上司と顧客が味方になる
- [3-2]誰でもコンセプトダイアグラムは描けるようになる
- [3-3]ビジネス別コンセプトダイアグラムのサンプル
- 第4章 自作指標と目的別レポートで効果をビジュアライズ
- [4-1]ビジネスの指揮権は追いかける指標を決める人にある
- [4-2]ユーザーの行動を指標で把握しよう
- [4-3]どこから来たか、どこを見ているのかの違いを気にしよう
- [4-4]改善アクションから指標とディメンションを決める
- [4-5]指標の使われ方を考えてレポートを設計しよう
- [4-6]コピペ率や購入チェック率などの自作指標
- [4-7]分かりやすくてカッコイイレポートをExcelで作る方法
- 第5章 今日から使えるグラフデザインの原則とビジュアライズのコツ
- [5-1]表や折れ線グラフを加工するときのヒント
- [5-2]ダッシュボードデザインの原則
- [5-3]ビジュアライズを助けてくれるツール
- [5-4]図の威力をナポレオンの遠征で感じよう
著者:清水 誠(『[清水式]ビジュアルWeb解析』著者)
1995年国際基督教大学教育工学科修了。インハウスとコンサルタントの両方の立場で各種組織のデジタル化を推進し続けて20年。ユーザー視点(UX/IA)とIT活用(ツール/データ)を上から下からアジャイルに進めるスタイルが得意。
凸版印刷や外資Webエージェンシーでは情報アーキテクチャの分野を開拓しつつ大手企業へのWebコンサルティングを提供。ウェブクルーでは開発・運用プロセスの改善、日本アムウェイでは印刷物のデジタル化とCMS導入、楽天ではアクセス解析の全社展開、ギルト・グループではKPIの再定義とCRMをリード。2011年に米国で就職し、デジタルマーケティングソリューションの品質改善と活用促進に取り組む。任務完了後、2014年に帰国して独立。企業のデータ活用サポートや執筆・講演に力を入れている。
株式会社電通レイザーフィッシュCAO (Chief Analytics Officer)。Adobe Analyticsユーザー会「eVar7」共同創始者。2013年Web人賞受賞。