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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第292回

スーパーコンピューターの系譜 ASCI Redの後継Red Storm

2015年02月23日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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スーパーコンピューターに帰ってきた
CRAY Inc.

 このRed Stormは、CRAY Inc.が日本で説明会を開催しており、幸いにも筆者はこれに参加していたので、以後はこの時の資料をベースに説明したい。

日本での説明会に登壇したBrian Koblenz氏(Vice President, Special Project)。氏は1989年から15年間CRAYに在籍しており、2004年のシステム納入後に離職している

 まず最初にCRAY Inc.の話をしよう。CRIがCRAY Y-MPまで開発しつつも資金繰りが苦しくなり、1996年にSGIに買収された話は連載第279回で書いたとおり。

 ところが2000年、SGIはカナダのTera Computer Co.にCRI部門を丸ごと売却してしまった。ちなみに売却額は明確にされていないが、SGIが買収した際の7億5200万ドルより非常に少ない金額だったらしい。

 理由もまた明確にされていないが、この後SGIはItaniumベースのシステムを市場に投入していることから、自前でプロセッサーから作るのではなく、インテルのプロセッサーを利用してシステムを作る方向に舵を切った結果として、CRI部門が丸ごと不要になったのだろう。

 一方このCRI部門を買収したTera Computer Co.は、独自のTera MTA(後にCray MTAと改称)と呼ばれるアーキテクチャーをベースにシステムを提供していた。そのTera Computerは買収直後に社名をCRAY Inc.に改称して、改めてスーパーコンピュータービジネスに参入することになる。

CRAY Inc.が2002年に発表したX1はベクトル型最後のシステムとして良さそうに思う。この後、アップグレード版のX1Eを最後にベクトル型プロセッサーの開発を終了している

Opteronをベースとした
超並列マシンを開発

 さてそのCRAYだが、2003年の時点ではX1と呼ばれるマシンを出荷していたが、Red Storm向けにはまったく異なるマシンを開発することになる。

 CRAYはSGIの時代にT3D/T3Eと呼ばれるマシンを開発していたが、これはDECのEV4(T3D)/EV56(T3E)を利用したMPP構成のマシンである。

 またTera Computerが開発していたMTAアーキテクチャーは、128スレッドという広大なSMT(Simultaneous Multithreading:同時マルチスレッディング)構成のプロセッサーをさらに多数(MTA-2だと最大256個)並べ、それを3Dトーラス構造でつなぐという、SMT+MPPという非常にユニークなものである。

 これらの開発により、実はCRAY Inc.はMPPに関して一定の経験を積んでいた。それもあり、Red Stormでは2004年時点で最速と考えられた、AMDのOpteronをベースとしたMPPマシンの構成になった。

 Red Stormの設計目標は40TFLOPSである。これを実現するために2GHzのOpteronを1万368個(後に1万880個に増加)集積する構造を取った。これを108個のキャビネットに収める形だ。

設計の段階では、まだ名前がASCI Red Stormになっていることがわかる

設計目標の数々。トータルメモリーは10TBで、換算するとOpteron1つあたり1GBのメモリーということになる

 システム性能としては、ASCI Redの7倍のアプリケーション性能と、ASCI Red向けアプリケーションを連続して50時間動かすことなどが挙げられている。

Red Stormの概要

システムの配置イメージ

 上の画像にあるBlackは一般に利用できるパーティション、Redは機密エリア(核兵器関連シミュレーションなどを主に実行)のパーティションで、比率は動的に変化させることができる。これにあわせてストレージなどは別々に、システムの両端に配される。

 このRed Stormの肝は、唯一新規に作成するインターコネクトであるが、構造としては下図のような3次元メッシュ構造である。

Red Stormのネットワーク構造。通信のレイテンシーは、隣接ノードで2マイクロ秒、一番遠いノードで5マイクロ秒なので、隣接はともかく一番遠いノードまでのレイテンシーはかなり高速な部類だ

→次のページヘ続く (CRAY独自のインターコネクトを搭載

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