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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第292回

スーパーコンピューターの系譜 ASCI Redの後継Red Storm

2015年02月23日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII.jp

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ジョブの要求比率に応じて
3研究所間の使用比率を動的に変更可能

 そしてRed Stormでは、初めての試みとして“Capability Computing”なる概念が導入された。日本語では「計算能力によるコンピューティング」という訳語があてられているが、要するに非常に計算量が多い大規模シミュレーションなどを、最大限の計算能力を利用して最小時間で解決するという仕組みである。

 Red Stormでは当初、「各プロセッサーの処理時間の80%を、システム負荷の40%以上を占める作業に割り当てる」というポリシーでCapability Computingに向けた実施を行なっている。

 またRed Strormは最初のTri-Lab Platformとされる。これはなにかというと、これまで3つの国立研究所(サンディア、ロスアラモス、ローレンス・リバモア)はそれぞれ独自にマシンを設置して、基本的にはそれぞれが独自に運用していたが、この際の計算能力の比率は2:1:1にする、という決まりがあった。

 つまり自分の研究所での利用比率を50%にして、他の研究所がそれぞれ25%づつを利用できるという運用ポリシーだ。

 ところが従来のASCIシステムの場合、物理的にノード数を2:1:1にパーティション分割する、という形でしか実現できず、これはCapability Computingには相応しい運用形態ではない。そこでRed Stormではこの比率を動的に変化させられるようになっている。

パーティション分割の概念図。2つのブロック(Red/Black)の比率は、それぞれのセクションに対するジョブの要求比率に応じて動的に変化する。サンディア国立研究所の論文“Red Storm Capability Computing Queuing Policy“より抜粋

5倍もの性能向上を成し遂げ
傑作機となったRed Storm

 いろいろと新機軸を盛り込んだASC Red Stormだが2004年7月にインストールを完了し、2005年11月のTOP 500では36.2TFLOPSで6位につける。

2004年当時、サンディア国立研究所が発表した設置イメージ図。キャビネットの上の縦方向のスパンに、Z軸方向のネットワーク接続用ケーブルが収められている

 理論性能43.5TFLOPSに対して実効性能36.2TFLOPSで効率は83.2%に達しており、これはそう悪い数字ではない。

 これに続き、(当初は2005年末としていたが、やや遅れて)2006年11月に、プロセッサーを2.4GHzのデュアルコアOpteronにアップグレードし、理論性能で127.4TFLOPS、実効性能でも101.4TFLOPSを叩き出して2006年11月のTOP 500で2位に躍り出る。

これもサンディア国立研究所が発表した写真。説明によるとCRAYと契約したエンジニアのJason Repik氏がRed Stormのパネルを点検している最中だそうである

 おそらくこの頃にはCatamountがSMP対応になり、デュアルコアOpteronでも利用できるようになったのだろう。SMP対応になったために若干メモリーアクセスのレイテンシーが増えたためか、効率は79.6%とやや落ちたが、絶対性能で言えば約2.8倍になったのは、プロセッサーの更新に加えてコンピュートノードの追加もあったためだ。

 さらに2年後の2008年2月には、プロセッサーを一部2.2GHzのクワッドコアOpteron(悪名高いBarcelonaコアである)に置き換えることで理論性能を284TFLOPSに引き上げるとともに、ノードあたりのメモリーを8GB(コアあたり2GB)まで増加させるが、実効性能は204.2TFLOPSとだいぶ効率を下げており(71.9%)、2008年11月のTOP500でも10位に入るのがやっとであった。

 そんなわけで最後の方ではあまり性能改善にはつながらなかったものの、40TFLOPSから200TFLOPSまで5倍もの性能向上を成し遂げ、また(最後のクワッドコアを除けば)高効率を保って利用可能であり、これはサンディア国立研究所やASC(Advanced Simulation and Computing Program:アメリカ合衆国連邦政府のスーパーコンピュータ計画)のみならず、CRAYにとっても大当たりのシステムとなった。

 実際CRAYはこのRed Stormの構成をCRAY XT3として製品ラインナップに加え、CSCS(Swiss National Supercomputing Centre)、オークリッジ国立研究所、ERDC(US Army Engineer Research and Development Center)、北陸先端科学技術大学院大学などから早いタイミングで受注しており、商業的にも成功した部類に入る。

 またクワッドコアOpteronを搭載したモデルはCRAY XT4としてこれも販売され、特にプロセッサーコアを65nmプロセスのBarcelonaから45nmプロセスのShanghaiに切り替えた後は、性能/消費電力もだいぶ改善されたので、こちらも相応に売れたモデルとなった。

 この後継としてさらにCRAY XT5という製品も投入され、これを利用してオークリッジ国立研究所に納入されたJaguarは2009年11月から2010年6月でTOP500の1位を占めるなど、Red Stormのアーキテクチャーはその後も長く利用されることになった。

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