今回のスーパーコンピューターの系譜はASC Red Stormである。当初はこれもASCI Red Stormなどと呼ばれていたあたり、名前に若干の混乱があるが、Delivering Insight The History of ASCIでは“ASC Red Storm”とされている。
もっともその混乱のためもあってか、ASCIもASCも省いて単にRed Stormと記している文献が一番多い。
ASCI WhiteやASCI Qの失敗で反省
ASCI Redの後継機を作ることに
Red Stromの開発動機は、ASCI Redの後継という位置づけである。ASCI RedはASCIプロジェクトの中では比較的成功した方であり、またMPP(Massively Parallel Processing:超並列)方式の大規模システムが実用になることを示すことにも成功した。
しかし、ピーク性能が3TFLOPSと低めで、ある程度大規模なシミュレーションを動かそうとすると性能が足りないという話が出てきた。
悪いことにASCI Red上で動くアプリケーションはMPP方式にあわせて作成していたため、ASCI WhiteあるいはASCI QといったSMP(Symmetric Multiprocessing:対称型マルチプロセッシング)+クラスターに持っていこうとすると、処理の最適化あるいは処理分割の仕方を再設計の必要がある。
現実問題として再設計は難しいので、それなら最初からASCI WhiteやQ向けにアプリケーションを書き直したほうが早いということになってくる。
したがって、MPPの方式を継承しながら、より高性能な後継製品が必要という要求は、サンディア国立研究所でアプリケーション開発に携わっていた研究者から当然でてくる。
これとは別に、既存のSMP/クラスター方式に対する方針に誤りがあったことは担当者も理解していた。
下の画像は2003年に行なわれたJASON summer studyにおける資料である。JASONというのは米国政府に対して科学技術の分野での提言を行なう独立組織で、MITRE Corporationという非営利団体を経由して運営されている。
ASCIプロジェクトに対する外部のお目付け役的な位置づけと考えればよさそうだが、この2003年夏の討論会では、ASCIプロジェクトそのものは成果が出ていることを認めつつ、それでもASCI Qが地球シミュレータに負けたことを重く考えており、それに対してどんな形で今後の性能改善を可能にするか、といったアイディアも出されている。
解決法の中にはメモリー内部への演算素子の埋め込みや、再びベクトル型プロセッサーが登場しているあたりに驚く。それだけ地球シミュレータのインパクトが大きかったのだろう。
プレゼンテーションこそ2003年ではあるが、SMP/クラスター方式での反省点は、ASCI Blue Mountainやこれに続くASCI Qに携わった人はかなり前からわかっていたことであり、そうしたこともあってかMPPベースでASCI Redの後継を、という話は比較的通りやすかったようだ。
ASCI Redの後継製品はRed Stormというコード名に決まり、最終的に2002年10月にCRAY Inc.が9千万ドルで40TFLOPSのマシンをサンディア国立研究所に納入することになった。
→次のページヘ続く (Opteronをベースとした超並列マシンを開発)
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