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テクノロジー虎の穴 第7回

鹿野司氏に3Dプリンターの可能性について訊いてみた

3Dプリンターで料理は作れますか?――サイエンスライターに訊く

2014年12月25日 11時00分更新

文● コジマ/ASCII.jp編集部

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3Dプリンターで料理を作るのは面倒だ!

3Dプリンターで料理ができる時代も来る?

――食品についてはどうでしょう? 原料とレシピさえあれば、3Dプリンターで料理が作れるという話があって。ボタンを押したら食品がポンと出てくる……みたいなことが、3Dプリンターで可能になるんでしょうか。3Dプリンターって基本的には樹脂を固めていくものですよね。

鹿野 「砂糖にレーザーを当てて固め、一層ずつかぶせていって、二重らせんを作るみたいなものは、実は結構昔からあるんですね。砂糖を吹き付けて、きれいな形のデコレーションを作るというものもすでに存在している。

 ただ、一から料理を作るとなると、それはちょっと厳しい。人間が敏感に感じる微妙な風味やテクスチャを再現できる3Dプリンタなんて、そう簡単にできるはずがありません。まあ、後で話しますけど、臓器が作れれば、同じ原理で肉も作れるでしょうが、でも、それよりは家畜を育てたほうが安上がりで話も早いだろうと(笑)。それに3Dプリンターでは、一皿の料理を作るのにすごく時間がかかってしまうわけですよ。一層ずつ重ねなきゃいけないから。だから使える用途がないとは言わないけど、あらゆる料理が作れます、どんな味でも再現できますというのはウソですね。3Dプリンターが既存の料理を淘汰するということにはならない。

 ただ、3Dプリンターを料理の演出に取り込む人は必ず出てくるでしょう。料理も今、科学や新しい技術と無縁ではいられないんです。『こうやったほうがおいしくなる』という科学を取り込んで、新しい料理を作ろうとしている人たちがいる。そんなに新しい話ではないけど、肉の真空調理とかはそれですよね。あと面白い話では、レーザースキャンで霜降りの肉の脂肪のところだけを焼いて、赤身には火を通さないということをやった人がいるそうですよ」

――それはすごい! 一度食べてみたいですね。

鹿野 「でしょう。どんな味になるんだろうな、って思いますよね。つまり、演出的なものとして、3Dプリンターを料理に取り入れる人は出てくるでしょう。料理に高い付加価値を付けるということですね」

何もかも3Dプリンターでやる必要はない

――料理を一から作るのは大変であると……。まあ、さすがに料理は厳しいにしても、3Dプリンターでいろいろなものを作ろうとした時に、何がネックになってくるのでしょう。

鹿野 「現実的な利用の話として、一般家庭とか、街の3Dプリンター屋さんみたいなものを想定してみると、使える材料の問題があるわけです。今は基本的には樹脂、プラスチックを使ってというのが多いけれども、これも一つの制限なわけですね。

 たとえば金属を吹いて何かを作るというのも不可能ではないけれど、それなりに大変な機械になる。金属を接着剤で固めるか、熱で融かして固めるか……。溶かすとすると、金属の種類によって物性も違うし、溶かす温度とかも違う。作ろうと思えば不可能ではないけれども、やはりいろいろと制限がある。一つの3Dプリンタで何でもできるわけではないし、そもそも『わざわざ3Dプリンターでやることなのか?』という疑問も出てくる」

――あっ、言われてみればそうですね。他に向いてる工具があれば、そっちを使ったほうが簡単なわけですから……。

鹿野 「うん。3Dプリンターで銃を作って逮捕された、みたいな事件があったじゃないですか? でもあれは、基本的にはバカを戒める見せしめみたいなものです。殺傷可能な発射性能があると言っても、銃弾そのものは警察が用意しているわけ。銃の弾丸って、弾頭があって、火薬があってそれを薬莢が覆っている。それを後ろから叩いて飛ばす、この仕組みが銃なんです。つまり銃を作っても、弾がなければ武器にならない。

 じゃあ弾丸を3Dプリンターで作るかとなったら、金属でないとちょっと弾丸としては難しい。それなら旋盤加工で作れるわけです。だから、『3Dプリンターで銃が作れるらしい、危ない!』というのはどこかに考え落としがある。誰かが面白がって武器を作ったとしても、3Dプリンターが社会に大きな脅威を与えるかというと、まあそれは有り得ない。他のものでも、危険物はいくらでも作れるから。

 何度も言っているように、3Dプリンターには『できない』領域のものが当然あるので。新しいものが出てくると怖がってしまうという人がいるというのはわかりますが、それが妥当なことかといわれると、どうかな……という感じですよね」


(次ページ、「技術が進歩しても「職人芸」は必要になる」に続く)

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