最近、何かと話題の3Dプリンター。
模型や工作はもちろん、建築など様々な分野にも応用されはじめており、その汎用性の高さから、まるでSFの世界のような「なんでもできる道具」として持ち上げられがちだ。誰もが3Dプリンターで料理を作ったり、拳銃のような武器を作ったり……そんなことが当たり前の世界は本当にやって来るのだろうか?
今回は3Dプリンターの可能性について、SF考証のお仕事もしているサイエンスライターの鹿野司さんにお話をうかがった。
3Dプリンターとは?
3Dの設計データをもとに立体物を造形するプリンター。現在の3Dプリンターは、原料となる樹脂をノズルから押し出し、データにもとづいて一層ずつ積み重ねていく「積層造形法」を採用したものが主流。光によって硬化する樹脂に紫外線を照射する、熱で軟化させた樹脂を再度冷やして硬化させるなど、樹脂を固める方法は複数ある。
派生として、生きた細胞を打ち出して細胞組織を作り上げる「バイオ3Dプリンター」などが開発されている。
3Dプリンターで『できる』と言われていることは
本当にできるんですか?
――ここ1〜2年ぐらい、3Dプリンターであれもできる、これもできると、まるで魔法の道具のような扱いです。模型や工作はもちろん、料理まで作れるなんて話まで。でも、実際にできるんでしょうか。できそうにないなら「できそうにない」と言って欲しい(笑)。今の3Dプリンターの現状を、鹿野さんに聞いてみたいんです。
鹿野 「昨今の3Dプリンターのような、技術的なバズワードは何でもそうなんですが、元ネタは専門家が昔から地道に研究してきたもののわけです。それがあるとき、経済系の人の目に留まって、彼らが解説するようになると一般人の耳に届くブームになる。だけど、そういうのは微妙に理解が浅いか、盛り上げようとしすぎるあまり、過剰な反応になっていることが多いんです。夢を膨らませすぎて、できることとできないことの区別がついていないというか。だから、何が“できない”か、というのはいいポイントだと思いますね」
――具体例でいうと、たとえば建築。スペインで建設中の『サグラダ・ファミリア』の現場で、3Dプリンターを使ったら、工期が大幅に短縮したというんです。
鹿野 「サグラダ・ファミリアには、たぶん、規格化されない複雑な部品が必要になると思うんですね。そこに3Dプリンターが活きてくるのでしょう。
現状、3Dプリンターのメリットの一つは、複雑な形状の一点ものが作れるということ。外側から削ったり接着したりすることでは、製作が困難な構造も作れる。初めから中に梁があって外に継ぎ目がない、といったようなね。同じ材料を使っても、構造的にすごく丈夫にするということが、原理的にはできる。
ただ、逆に、作るのに時間がかかるという限界がある。要するにスキャンしながら層を重ねていくので、部品を一つ作るのに一晩かかったりする。完成品の精度がどれくらい必要かによって変わりますが、0.1ミリの層を重ねて作るなら、10センチの厚みを作るのに1000層重ねる必要がある。それだけ時間がかかるわけで、そこは制限になるわけです。だから他の方法では作りにくい複雑な形状は比較的簡単に作れるけれども、大量生産には向いていないという限界がある。
サグラダ・ファミリアの場合は、職人が手作業で複雑な部品を一つ一つ作って……というのが大変だから、完成にあと150年かかるなんて言われていたけれど、設計図さえあれば3Dプリンターで出力できる。つまり、腕のいい少数の職人でなければ作れない部品というボトルネックがなくなって、ある意味手分けして作業が進められて、早くできますよねという話だと思うんです」
――3Dプリンターだけで建築するわけではなく、できることを活かして、効率よく利用してやるわけですね。
鹿野 「そうですね。少し夢のある話では、欧州宇宙機関(ESA)が月面基地を導入するのに3Dプリンターを使うということを2013年に提唱したんです。(ESAの紹介ページ)。どうやってやるかというと、インフレータブル(Inflatable。空気などを注入することにより膨らませて、膜の内圧により構造を支持して使う膜構造物)、つまりドーム状の風船みたいなものを膨らませて居住空間にするんですね。でも、そのままだと放射線とかが防げない。
そこで月の砂を使う。月面にはレゴリスといって、砂がたっぷりあるんですよ。アポロの月着陸の写真でも、宇宙飛行士の足跡が砂に残っていたでしょ? 月の表面の岩石が、永い期間太陽風や宇宙線で砕かれて、砂になっているんですが、それをロボットですくって集めて、ドームの周りに3Dプリンターで骨格を作りながら、吹き付けるように固めていく。これなら地球から建設資材を運ぶ手間がなくて費用も大幅に削減できるわけです」
(次ページ、「3Dプリンターで料理を作るのは面倒だ!」に続く)

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