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セキュリティの専門家が語る最新の脅威と対策 第3回

カスペルスキーとインターポールがタッグを組んだ理由

サイバー犯罪者をリアル逮捕で法廷に引きずり出す

2013年12月02日 14時00分更新

文● 谷崎朋子

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11月28日、カスペルスキーは「最新のサイバー脅威についてのプレスセミナー」を開催、来日中の同社CEOのユージン・カスペルスキー氏とIGCI総局長の中谷昇氏を迎え、パネルディスカッションを行った。サイバー犯罪撲滅に向けて、なぜインターポールとカスペルスキーが連携するに至ったのか、その背景が語られた。

銭形刑事じゃないけど……
国際間協力でサイバー犯罪を撲滅

 今年3月、カスペルスキーは国際刑事警察機構(インターポール)が2014年にシンガポールで設立予定のINTERPOL Global Complex for Innovation(IGCI)との協力を発表した。IGCIは、サイバー犯罪に関する研究開発、捜査トレーニング、さらには190の加盟国に捜査支援情報を提供する。その中で、同社は特にDigital Forensic Labで協力、技術者を派遣してマルウェア解析トレーニングや実務を行なうほか、インターポール捜査官をモスクワ本社に招いたトレーニングなどを実施する。また、カスペルスキーとNEC共同で建設中のCyber Fusion Centerでは、マルウェア解析情報などを加盟国へ公開するほか、レポートによるアラート提供なども行なう。

 「サイバー犯罪は、収益性の高いビジネスだ。犯罪現場に出向かずともマルウェアや不正サイトの作成ツールを使って簡単に大金がせしめられる。しかも、ボーダーレスで犯罪を遂行でき、それを取り締まるための国際間協力はまだ確立されていない」。Kaspersky Lab 取締役会長兼CEO ユージン・カスペルスキー氏は、現状をこう説明する。

 10年以上前から同氏は「インターネット・インターポール」を提唱、国際的なサイバー犯罪に対抗するには国際間協力が重要と訴えてきた。今回のIGCIとの協力は、構想実現の第一歩となる。

Kaspersky Lab 取締役会長兼CEO ユージン・カスペルスキー氏

 IGCI 総局長 中谷昇氏は、IGCI設立にあたり、さまざまなセキュリティ会社にコンタクトをとったという。そうした中で、「カスペルスキー氏は初めてのミーティングで即反応し連携に乗り出してくれた。また以前よりインターネット・インターポールの構想を訴えていたことにも共鳴した」と、今回のタッグの背景を説明する。

IGCI 総局長 中谷昇氏

 「インターポールは、ルパン三世の銭形刑事のように世界各国を飛び回って犯罪者を追い詰めるわけではない」と語り、笑いを誘った中谷氏。実際の捜査官はブラックベリー片手に情報収集し、犯罪者を捕まえて法廷に連れ出すことが任務だという。

 「法治国家の法執行機関にとって、きちんと法廷の場で犯罪を裁くことが使命。しかし、インターネットを使った犯罪の登場で、これまでの捜査方法は通用しなくなった。サイバー犯罪者は、つねに最新の技術を駆使して攻撃してくる”見えない”犯罪者だ。それに対して、法執行機関は新技術の導入のための予算請求や処理、証拠押さえのための国家間の捜査協力の依頼などで、膨大な時間がかかってしまう。手間取っているうちに敵は進化し、新たな犯罪も発生、捜査側はいつも後手だ」(中谷氏)。

 IGCIは、いわば190か国の警察機関向けのISPのようなものと、中谷氏は言う。サイバー犯罪対策機関のない国は多い。そんな国からの捜査依頼に応え、また最新のサイバー犯罪情報をかみ砕いて提供することが、IGCIの役割という。

両者のタッグはすでに実績があるという

 両者はすでにサイバー犯罪者の逮捕で協力した実績がある。ある国の企業がサイバー攻撃を受け、インターポールに捜査依頼したところ、証拠保全時にマルウェアが発見された。そこでインターポールはカスペルスキーに解析を依頼した。「データが破損していたので解析に手間どったが、約2週間のリバースエンジニアリングの結果、ドジな犯罪者がマルウェアに残していた個人情報を特定、本人の名前、Facebookアカウント、写真を取得してインターポールに提出した」(カスペルスキー氏)。

 こうして逮捕されたサイバー犯罪者は、一様にびっくりした表情をするという。インターネット上でアノニマスと信じ切っていただけに、リアルに逮捕されると「なぜバレた?」と驚愕するそうだ。「インターポール+カスペルスキー+国際間協力で、これからもっと多くのサイバー犯罪者にびっくり顔をさせたい」。カスペルスキー氏はいたずらっぽく笑う。

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