ニュータニックスのNutanix VCP(Virtual Computing Platform)は仮想化に最適化されたインフラを提供するアプライアンス。ユニークな製品のアーキテクチャやメリットについて米ニュータニックスのプレジデント兼CEO ディラージュ・パンディ氏、エンジニアのブレント・チュン氏に聞いた。
既存の垂直統合システムとは大きく異なる
サーバーやストレージの仮想化が進むと共に、仮想化インフラをワンストップで提供できる統合型のハードウェアが増えてきたのはご存じの通りだ。IBMやオラクルをはじめとした大手ベンダーが提供する垂直統合型システム、あるいは「vBlock」「FlexPod」などストレージベンダーの仮想インフラアプライアンスなど、さまざまな製品が登場している。こうした市場の中でひときわ異色を放っているのが、ニュータニックスだ。
米ニュータニックスは2009年にGoogle File SystemやOracle Exadataの設計・開発者によって設立されたシリコンバレーのベンチャー企業。同社のNutanix VCPはサーバーとストレージを統合し、ストレージネットワークを排除。独自の分散ファイルシステムにより、高い拡張性とシンプルさを実現している。
米ニュータニックスのプレジデント兼CEO ディラージュ・パンディ氏はNutanix VCPのコンセプトについて「高価なハードウェア機器、目的に特化したハードウェア、GoogleやFacebaookのような大きなデータセンターを持たなくとも、コモディティハードウェアとソフトウェアの組み合わせで理想的な仮想化インフラを提供する」と、そのコンセプトを語る。「過去さまざまなレガシーシステムの開発に手がけた経験を元に、新しいコンピューターのパラダイムシフトを作りたいと思った」(パンディ氏)という既存の垂直統合型システムとは異なる高みを目指す。
他社の垂直統合型システムと、Nutanix VCPが一線を画しているのは、既存のサーバーとストレージ、管理ソフトウェアを組み合わせたのではなく、仮想化インフラを前提として、イチからアーキテクチャを設計し直した点だ。パンディ氏は「iPodのような“コンバージデバイス”は既存のハードウェアで実現したことを、ソフトウェア化によって実現した。データセンターでも同じことが起こる。VMwareがサーバーの仮想化を実現したように、ストレージやスイッチ、ルーター、ファイアウォール、WANアクセラレーターなども仮想化されていく。特定用途のアプライアンスは、ハイパーバイザー上のサービスになっていくだろう」と語る。こうした「オール仮想化の時代」を前提として設計されたのがNutanix VCPというわけだ。
今年は日本法人を立ち上げ、サービスプロバイダーやデータセンターをターゲットに製品を展開している。パンディ氏は、「日本は大きな市場だと考えている。サーバーの仮想化も急速に普及しているし、スペースや電力などを削減する必要があるし、Pay as Growのモデルが活きてくる」と語る。
高い汎用性を持つ仮想化前提の製品
Nutanix VCPでもう1つユニークなのは、ソフトウェア中心のアーキテクチャでありながら、ハードウェアとして提供されるという点だ。2Uのラックマウント筐体にはCPUやストレージ、フラッシュを一体化したサーバーノードを複数格納できる。これをスタックしていくことで自動的にリソースがプール化され、GUIから簡単に仮想マシンを作ることが可能だ。ストレージの知識なしで仮想化に最適なインフラを構築でき、拡張に関しても1ノード単位で容量や処理能力をスケールアウトできる。
ハードウェアとして提供している点についてパンディ氏は「わたしたちはサーバーとストレージの仮想化を手がけるベンダーで、強みはあくまでソフトウェアだ。ストレージとデータの管理がポイントになっている。ハードウェアとして提供しているのは、ユーザーにユニファイドエクスペリエンスを提供したいからだ。(ハードウェアの異なる)Androidではユニファイドなエクスペリエンスを提供できないだろう? だからコモディティハードウェアが登場しても、競合にならない」と語る。
Nutanix VCPというと仮想化に特化したストレージと位置づけられることも多いが、製品名の通り、実際は“Platform”である。「“ボックス”とは、特定用途のコンピューターを指すが、プラットフォームは汎用性がある。その点、Nutanix VCPはストレージのボックスではなく、プラットフォームだ。仮想マシン上でさまざまなワークロードをこなし、ロードバランサーやファイアウォールを動かすこともできる」と語る。特定の用途に最適化された既存のストレージ製品とは異なるからだ。
現在のデータセンターはストレージを中心とした「ハブ&スポーク」のモデルになっており、複数のサーバーをまたがってやりとりするのにボトルネックが多いという。これに対してNutanix VCPが提供するのは、サーバー同士がピアツーピアでやりとりできる「フラットなデータセンター」を実現するソフトウェアだ。パンディ氏は「サーバーに適切な仮想ストレージがアタッチされ、仮想化ソフトウェアが新しいファブリックとして動作する。スケーラブルで支払った分だけ、成長できる。将来的な拡張を予測しなくてよい」とそのメリットを語る。
Nutanix VCPの特徴はハイブリッドコンピューティングだ。ここでの“ハイブリッド”には異なる構成要素をシームレスに同居させ、いいとこ取りするという意味がある。たとえば、パブリックとプライベートのクラウドでシームレスに連携でき、負荷にあわせて、オンプレミスのワークロードをクラウドに逃がすことが可能だという。
また、複数ハイパーバイザーを同居させるという“ハイブリッド”も実現できる。「Nutanix VCPはVMwareのほか、KVM、Hyper-Vなどマルチハイパーバイザー対応だ。これらは今まではハイパーバイザーごとアイランドとして独立していたが、それらを統合させることが可能だ」という。8月にリリースされたNutanix OSの3.5ではHyper-Vの技術プレビューを発表し、2013年末には正式版も提供される予定になっている。
さらにHDDとフラッシュを効率的に利用するという“ハイブリッド”も実現する。「高速なフラッシュはサーバーサイドのCPUの近くに置くことが重要だ。ネットワークがいくら高速でも、何ホップしては意味がない。しかし、サーバーに置くと、データ保護などの課題が出てくる。そのため、Nutanix VCPではストレージのインテリジェンスをサーバーに取り込み、ソフトウェアでストレージを仮想化している」とのことだ。
キンキンにチューニングされたNutanix OS 3.5
Hyper-Vへの対応で注目を集める最新のNutanix OS 3.5だが、その真価はパフォーマンスの向上だ。Nutanix OS 3.5においてパフォーマンスのチューニングを行なったプリンシパル・エンジニアのブレント・チュン氏が、改良点について説明してくれた。
チュン氏が行なったのは、実は地味なソフトウェアのチューニングだという。並列処理を同期させるオーバーヘッドを取り払うためにワークロードの一部をインライン展開させたり、ヘビーなワークロードで物理コアを有効活用するためにスレッドを分離したり、Linuxのリアルタイムスケジューリングも調整しているという。また、フロントエンドとバックエンドの処理を優先度を変更して、遅延を削減したり、データ構造自体もCPUが処理しやすいように調整し直した。こうした最適化の積み重ねにより、最初のバージョンに比べ、500%のパフォーマンス向上が実現できたという。チュン氏は「他社に比べて特別なことはなに1つやっていない」と謙遜するが、ハードウェアに頼らず、ソフトウェアをキンキンにチューニングして、パフォーマンスの強化を実現しているのがニュータニックスらしい。
パフォーマンスという観点では、インラインでの重複排除機能が実装されたのも大きい。同社が「Elastic Deduplication Engine」と呼ぶ重複排除エンジンでは、HDDとSSDだけではなく、メモリに書き込まれたデータもあわせて重複排除の対象となる。パフォーマンスを落とさず、データ量を大幅に削減することができ、重複データの多いVDIでの利用に大きな効果を発揮する。その他、同社の大きなメリットであるGUIツールにも大きな改良が施されたほか、VMware Site Recovery Manager向けのレプリケーションアダプターやDR向けのデータ圧縮機能など、75以上の機能強化が行なわれている。
チュン氏は、「Nutanixも当初はVDIにフォーカスしていたが、今後はSQL ServerやExchangeなどエンタープライズの“ティアワンアプリケーション”の利用も想定している。そのため、何百、何千のVMを動作させても、安定した稼働性やパフォーマンスを保証する必要がある。また、重複排除や圧縮、DRなどの機能も充実させる」とアピールする。
過去の製品ジャンルや概念にとらわれず、クラウドインフラの最適化を念頭に開発されたNutanix VCPは先進的だ。仮想化を前提とした製品設計、サーバーとストレージの統合、コモディティハードウェアとソフトウェアをベースにした実装などをいち早く導入し、結果的にSoftware-Defined Data Centerの概念をいち早く具現化したものと考えられる。5年後にNutanixの先進性がどのように評価されるか、非常に楽しみだ。