このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

富士通のUNIXサーバー、かく戦えり 第1回

UNIXサーバー、プロセッサ事業の歴史と変遷を豊木則行氏に聞く

富士通はSPARC/UNIXサーバーをどう作ってきたか

2013年08月13日 08時00分更新

文● 渡邉利和 写真●曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 この方針に基づいて日本側で製品開発を行ない、2000年に発売したUNIXサーバーが「PRIMEPOWER」シリーズ※3です。GP7000Fファミリーの後継として生まれたPRIMEPOWERでも、富士通製SPARCプロセッサとSolarisの組み合わせが採用されています。

 PRIMEPOWERは、富士通がメインフレーム開発で培ってきたハードウェア技術を投入して開発したマシンで、ミッションクリティカルなシステムにも対応できる高い信頼性が特徴です。また、最大128プロセッサを搭載できる大規模サーバという点も特徴でした。

※3 PRIMEPOWERシリーズ 2000年5月発表。富士通製「SPARC64 V」プロセッサとSolarisを組み合わせたUNIXサーバーで、初期モデルの1つ、PRIMEPOWER 2000は最大128プロセッサまで搭載可能だった。2004年6月に発表されたモデル(PRIMEPOWER 2500など)では、当時のUNIXサーバーでは世界初となる90nmプロセスの「SPARC64 V」プロセッサが採用されている。同シリーズは2008年5月に販売終息。

サンの失速と「SPARC Enterprise」の共同開発

 ユーザーから見れば導入しやすく、また富士通製ハードウェアに対する信頼感も非常に高かったため、こうした“Solaris互換機ビジネス”は国内外で好調な結果を生みました。特にヨーロッパ市場での評価は高く、当時の海外売上は国内売上の2倍に達する勢いでした。

 ですがその後、サンの経営が不安定になり、弱体化したこともあって両社の関係は微妙に変化していきます。サンの経営が好調だったころは、互換機の存在も「SPARC/Solarisの市場シェアを拡大するもの」として好意的に受け止められていました。しかし業績が悪化するにつれて、「本来サンの売上になるべき部分を富士通が互換機ビジネスで奪っている」と見る人も出てきました。その結果、両社はかつての良好な協力関係から、ときには厳しい競合を起こす関係に変わったのです。

 そうは言っても、同じSPARC/Solaris陣営の富士通とサンが叩き合ったところで、IBMやHPといったUNIX分野の競合を利する結果にしかならないのは自明です。ユーザーの利益を最優先に考えて、協力関係を再構築すべきだという話でまとまり、新たな製品を共同開発する取り組みがスタートしたのです。

 開発コード名“APL(Advanced Product Line)”※4と呼ばれたこのSPARC/Solarisサーバは、2007年に「SPARC Enterprise」のブランド名で市場投入されました。

 APLプロジェクトでは、大まかに「ハイエンド領域を富士通が、ローエンド領域をサン・マイクロシステムズがカバーする」という分担になりました。この分担は、APLがSPARC Enterpriseサーバとして製品化された後も継続しましたが、サンがオラクルに買収された※5ため、現在は富士通とオラクルとの間でパートナーシップを構築しています。

※4 APL(Advanced Product Line) 2004年6月に発表された、富士通とサン・マイクロシステムズの戦略提携拡大の一環として開発/発売表明が行われた「次世代SPARC/Solarisサーバ」の開発コード名。発表時点では2006年中頃に発売される予定だったが、実際に「SPARC Enterprise」サーバが発売されたのは2007年4月だった。

2007年4月に発売された「SPARC Enterprise M9000」。「SPARC64 VI/VII/VII+」プロセッサを搭載

※5 オラクルによるサン・マイクロシステムズの買収 2009年4月に買収合意が発表され、2010年1月に買収が完了した。サンの経営が不安定化し、もはや単独で存続することは困難だという認識が一般化する中で、IBMによるサン買収といった憶測も流れたが、最終的にはエンタープライズソフトウェア企業によるハードウェアメーカーの買収というかたちで決着した。基本的には現在でもサンの製品はオラクル傘下で販売が継続されているが、路線変更を受けたり、ひっそりと終息したものもある。

UNIX市場の奪還に向けて

 富士通-サン時代よりも両社の独立性が高まっているのは事実ですが、富士通-オラクルの枠組みで開発された製品が、今年(2013年)1月に発表されたUNIXサーバーが「SPARC M10」です。プロセッサには「SPARC64 X」を搭載し、同一筐体内に4世代のSolaris(Solaris 8/9/10/11)を混在させることができます。

2013年1月に発売された「SPARC M10-4S」(右はラック搭載時)

 ワールドワイドで見れば漸減状況にあるUNIX市場ですが、それでも100億ドル規模の市場ですから、富士通がここから撤退するという考えはありません。これまで販売してきた顧客に対する責任もありますから、富士通は今後ともUNIX事業に継続的な投資を続けていきます。

 富士通にとってUNIXハードウェアの開発は、特にプロセッサ開発の領域において極めて重要な位置づけとなっています。現在、SPARCプロセッサの開発はメインフレーム用プロセッサの開発とかなりの部分で共通化されているため、ハイエンドサーバで幅広くラインアップをカバーし、開発効率を高めていくためにも大切なものなのです。

 ここ数年、UNIX市場ではIBMがシェアを拡大しています。IBMの製品が強力だったということもありますが、オラクルのサン買収に伴う混乱や、「Itanium」プロセッサの先行き不透明感でHPが勢いを失ったことなど、IBMの競合側が十分な競争力を発揮できなかった側面もあると考えています。現状の販売シェアではIBMが過半数を占める状況ですが、富士通のSPARC M10やオラクルが4月に発表した「SPARC T5」シリーズなどで、UNIX市場の奪還を果たしていくつもりです。

(→第2回記事に続く)

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事