リポートの3回目では、レッドハットの製品戦略についてそれぞれの製品責任者からヒアリングした内容をまとめる。
まずはレッドハット製品の総責任者であるポール・コーミア氏(上級副社長/社長、製品及びテクノロジー)は、エンタープライズにおけるコンピューター利用のトレンドを説明。大まかには、メインフレーム、クライアントサーバー、インターネットの利用を経てクラウドコンピューティングに移っている。技術的にみるとベアメタルと呼ばれるサーバー単位での利用から、仮想化技術を用いて1台のサーバー上で複数のOSを稼働させる形態に移行しており、さらにその延長線としてSalesforceやAmazon AWSといったパブリッククラウドが存在する。
コーミア氏は、企業が必要とする信頼性やデータのセキュリティーを確保するためにはパブリックなクラウドだけではIT部門が満足しないだろうと強調。そこで「プライベートとパブリックのハイブリッド型クラウド」を提案。これはつまり、パブリックなクラウドコンピューティングを必要に応じてプライベートな形でも利用できるというもの。結果的にベンダーに縛られることなく、企業が求めるさまざまなニーズを満たしてくれる。そして、そのソリューションがオープンソースであれば、最大限の開発効率とガバナンスを達成できると説明する。「OpenStack」が、Red Hatが用意したそのための回答というわけだ。
クラウドコンピューティングといえばAmazon AWSを例として挙げることが多いだろう。しかしそれではアマゾンという一私企業にコントロールされてしまい、いわゆるベンダーにロックイン、縛られていることになる。オープンソースで開発されるOpenStackはそれを回避する選択肢だ。
クラウドコンピューティングに向かう大きな流れの中で、単なるLinuxのパッケージベンダーからクラウドコンピューティングの総合的なソリューションベンダーになろうとしている意気込みがコーミア氏の説明からひしひしと感じられた。リポートの第1回で述べたとおり、OpenStackの最新リリースでは最大の貢献者がレッドハットのエンジニアであることが最大の証明。かつてひとつしか製品がなかったレッドハットだが、現在は「Red Hat Enterprise Linux」(RHEL)をはじめとして、「Red Hat Enterprise Virtualization」(RHEV)、「Red Hat Storage」、「Red Hat OpenStack」、「Red Hat JBOSSミドルウェア」、「OpenShift」という6つのラインを持つ総合的なオープンソースソリューションの企業になっている。またそれぞれの製品についてコミュニティーへの還元を義務づけている点も非常に象徴的だ。
Red Hat Enterprise Linux担当のジム・トットン氏(副社長、プラットフォーム事業部門)は、DEC、デル、マイクロソフトを経てレッドハットに参加した業界の超ベテラン。トットン氏は、業界の流れがオープンソースソフトウエアに向かっていることを改めて解説。特にサーバーに関しては明らかにプロプライエタリーなUNIXシステムのシェアを奪っており、クライアントもすでにデスクトップPCやノートブックではなく、スマホやタブレットを利用する時代に向かっているという。
その際にスマートデバイスはクラウドと連携が必須であり、レッドハットがそのクラウド側をハイブリッドなソリューションで提供するというポジショニングにあるわけだ。ちなみにセキュリティーに関しても、セキュリティーエンハンスドLinuxというリリースを政府などに提供しており、すでにカーネルに統合されていることがNSAから高く評価されているという。またここでも、独占的企業ではなくオープンソースであることの意義が強調されていた。
OpenStackの歴史とレッドハットの関わりを踏み込んで解説してくれたのは、レッドハットのCTOであるブライアン・スティーブンス氏(最高技術責任者/副社長、ワールドワイドエンジニアリング)。正式にコミットメントをしてからたった一年でレッドハットが大きな貢献をしていることと、OpenStackに含まれるプロジェクトをより詳細に説明。彼の話でも、ハイブリッドなクラウドインフラストラクチャーが今後の方向であることを強調していた。
製品を担う責任者がそれぞれの過去の知見と経験を生かして製品の方向性を決めるという、クラウドコンピューティングというバズワードとはまったく似つかわしくない、非常に堅実な内容だった。