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シンガポールと千葉県千倉をつなぐアジアの新ケーブル

サーフィンのメッカ千倉にKDDIのSJCケーブルが陸揚げ!

2012年11月20日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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アジアのトラフィック増に応えるSJCケーブル

 陸揚げ作業の見学会に続いて行なわれた発表会では、KDDI 執行役員ネットワーク技術本部長の湯本敏彦氏が、SJCケーブルのプロジェクトについて説明した。

KDDI 執行役員ネットワーク技術本部長 湯本敏彦氏

 湯本氏によると、従来の音声中心の国際通信では、衛星通信と海底ケーブルが半々だったが、現在では国際通信のほとんどが海底ケーブルを経由するようになっているという。この背景には、インターネットのようなデータトラフィックが増大したこと、そして海底ケーブルの技術革新が進み、大容量の伝送が可能になったことが挙げられる。

 KDDIは他のキャリアとの共同出資により、国際海底ケーブルの拡充を進めており、2001年に対米回線の「JAPAN-US」、2008年にロシアに抜ける「RJCN」、2010年には最大20Tbpsの回線容量、総延長9620kmとなる対米回線「UNITY」を千倉からロサンゼルスまで敷設してきた。今回のSJCは2001年の「APCN2」に続く対アジア回線で、前述の通り、当初から16Tbpsという回線容量を実現しているという。

KDDIが手がける代表的な国際海底ケーブル

総延長9620kmとなる対米回線「UNITY」

今回新設されるSJCケーブルのプロジェクト概要

 SJCの目的は、2011年から2018年で8倍にまで拡大する東南アジアのトラフィックの急増に応えることだ。SJCにより東南アジア各国を結び、日本を経由し、UNITYから米国につなぎこむ。千倉は地理的に米国とアジアとの最短ルート上にあるため、日本で中継することで、建設費を最小限に抑え、シンガポールとロスアンゼルス間の遅延も、往復170ms程度に抑えられるという。「金融取引の世界においては、1ミリセカンドでも短くというニーズがある。国際間の通信遅延を短くすることが商品力につながる」(湯本氏)。さらにシンガポールとロサンゼルスまでの1万5000kmを、地上での中継なしにつなぐことが難しいという技術的な課題もあるとのことだ。

千倉は地理的に米国とアジアとの最短ルート上にある

 もう1つは、東南アジアのケーブル障害を回避するという目的だ。海底に敷設される海底ケーブルは、漁労や地震の土石流などで、切断が起こってしまう。特にアジアの多くの海底ケーブルが通っている台湾の南側海域は、地震や土石流の影響を受けやすい海域で、実際2007年の台湾沖地震では20カ所程度で急斜面に引き込まれたという。そのため、SJCでは「可能な限りケーブルをフィリピン側に寄せ、地震や土石流の影響を避ける安全なルートが選択している」(湯本氏)という。

フィリピン沖に近づけることで、地震や土石流を回避する

 もちろん、敷設以降の保守や修理も体制を整えており、KDDIを中心にChina Telecomや韓国のKTのケーブル船と連携し、安定した運用に寄与するという。

 なお、このSJCのプロジェクトには、KDDIのほか、Globe Telecom(フィリピン)、SingTel(シンガポール)、PK Telkom International(インドネシア)、China Telecom(中国)、China Mobile(中国)、Doghwa Telecom(香港)、BIG(ブルネイ)、TOT(タイ)など国際色豊かなキャリアのほか、米Googleも出資を行なっている。

全区域の4400kmをNECが担当

 続いてSJCのプロジェクトを請け負ったNECの執行役員常務の手島 俊一郎氏が、同社の海底ケーブルシステム事業について説明した。

NEC 執行役員常務 手島 俊一郎氏

 同社では海底ケーブルシステムを「インターネット/スマートフォンにより急増するデータトラフィックを大陸間で伝送する海底通信基幹網」と位置づけており、60km~100km間隔のリピーターを介することで、局舎間で最大1万2000~1万3000kmの伝搬距離を実現している。

 海溝もケーブルを這わせることになるため、25年のシステム稼働を保証している。約8000mの水深では、陸上時に自動車を親指で支える程度の圧力になるため、耐久性が特に重要になるという。特に近年は複数の波長を用いることで伝送能力を上げるDWDM(光波長多重通信)技術の進歩が著しく、「20年前に比べ、3000倍の大容量を実現している」(手島氏)とのことで、テラビット級の容量を実現していると説明した。局舎の両端で装置を換えれば、ケーブルを増やさなくとも容量を増やせるで、トラフィック増の対応に大きく寄与しているのは間違いない。

光波長多重技術の進化による容量の増大

 NECは海底ケーブルシステムでは、世界3大ベンダーの1つであり、海底ケーブルだけではなく、中継器や分岐装置まで含めたトータルシステムとして提供できる強みを持っているという。実績も豊富で、過去にはRJCNやAPCN2やUNITYなど多くの海底ケーブルプロジェクトに携わっている。「これまでに手がけたのは地球5周に相当する、約20万kmにおよぶ」(手島氏)。今回のSJCも、米TE SubComとともにSJCプロジェクトを担当しており、おもに幹線系ケーブルや陸揚げなど約4400kmを担う。今回のSJCの海底ケーブルは1週間前に北九州から積み込まれたモノで、製造を関連会社のOCCが担当しているという。

SJCケーブルのプロジェクトにおいてNECが担当する区間

 陸揚げ作業は完了したが、プロジェクトは今まさに始まったばかり。ここで陸揚げされたケーブルがはるか海を越え、シンガポールまで届くと思うと、ちょっと壮大な気分になってしまう。KDDIの湯本氏は、「最後まで安全第一で工事を仕上げ、通信環境の改善に貢献したい」、そしてNECの手島氏は、「NECの総力を挙げて、プロジェクトの完成に尽力する」と、それぞれ意気込みを語る。2013年の4月にはSJCケーブルの敷設を完了し、その後試験などを進めたのち、2013年央に運用を開始することになっている。

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