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シンガポールと千葉県千倉をつなぐアジアの新ケーブル

サーフィンのメッカ千倉にKDDIのSJCケーブルが陸揚げ!

2012年11月20日 06時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp 写真●曽根田元

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11月19日、KDDIおよびNECは千葉県千倉において、海底ケーブル「SJC(Southeast Asia-Japan Cable)ケーブル」の陸揚げ作業を報道陣に公開した。現地で行なわれた発表会では、KDDIが今回のSJCケーブルの事業について、NECが海底ケーブル事業について説明した。

日本酒で始まり、シャンパンで締める?

 SJCケーブルは、シンガポールと千葉県の千倉を直接結ぶ長距離海底ケーブルで、中国、香港、フィリピン、ブルネイなどの支線を合わせると総延長9000kmにおよぶ。2013年中旬を目指して敷設が進められており、今回は千葉県千倉での陸揚げ作業が報道陣に公開された。

まだ陽も上がらない6時に現地入り。この時点ではケーブル敷設船「KDDI PACIFIC LINK」も、まだかなり沖合に

 陸揚げが行なわれた千葉県の千倉は房総半島最南端の南房総市に属しており、九十九里の波が高いことからサーフィンのメッカとして知られている。KDDIは、ここに陸揚げされた海底ケーブルを収容する局舎(千倉海底線中継所)を持っており、今回の海底ケーブルもこの千倉局舎に引き込まれる。

千倉海底線中継所のエントランス。アンテナはかつてマイクロ波通信で使われていたモノ

 さて、まずは作業概要を説明しておく。KDDI千倉局舎の約1km沖には、北九州で海底ケーブルを積み込んだ国際ケーブル・シップ(KCS)のケーブル敷設船「KDDI PACIFIC LINK」が停泊している。このケーブルを海岸から陸揚げし、局舎に引き込むという作業だ。サーファーのメッカということで、当日は波も高く、風はそれなりに強かったが、天候は問題ないようだ。7時前からケーブルの先端をくくりつけたワイヤーを地上で巻き取っていく作業がスタートする。

陸揚げ作業の前に安全祈年祭が行なわれた

関係者により、引き込み機材に御神酒がかけられる

ケーブルの先端をくくりつけたワイヤーを巻き取り機で引っ張っていく

ワイヤーは機械で巻き取り、作業員が手動でまとめていく

ケーブル敷設船から黄色いブイがどんどん近づいてくる

 敷設船からはケーブルが送出され、地上ではケーブルの先端をつないだワイヤーが引っ張られていく。地上と敷設船の担当者間では常時トランシーバーで会話しながら、テンションを調整しているようで、ケーブルに取り付けられた黄色いブイがどんどん海岸に近づいてくる。そして、間の作業の様子は、水上バイクが常時監視しているようだ。それにしても、外洋から直接吹き付ける風はかなり冷たい。

ケーブルの先端が近づいてくると、ボディスーツの担当がケーブルの浮きなどを取り外していく

いよいよケーブルの先端となる浮きが数メートルまで近づく

繰り出し開始から1時間半程度で、陸に到着。オレンジの部分が海底ケーブルの先端になる

ケーブル敷設船と海岸の位置関係がよくわかる一枚。左側の機械が先ほどからワイヤーを巻き取る機械

ケーブルの先端を作業員たちが人力で巻き取っていく。すごい連携がとれている

 無事、ケーブルの先端が陸揚げされると、思いのほか細いのに驚く。寿司屋で太巻きを頼んだら、細巻きが出てきたような感じだろうか。海底ケーブルといえば、それこそ何本ものケーブルが束ねられた、ぶっといケーブルが陸揚げされるようなイメージがあるが、実際は6ペア12心の光ファイバーケーブルがシールドされて収容されているだけ。それでも、初期状態で16Tbpsという大容量伝送を実現するという。光波長多重技術、恐るべしである。

引っ張られてきたケーブルの先端は思いのほか細くないですか? SJC Cable Systemと印刷されている

 陸揚げされたケーブルの先端には、今度はシャンパンがかけられる。このシャンパンはケーブル敷設船からいっしょに送られたもので、浮き輪の中に入っていたものだ。ちょっと粋なはからいといえる。

ケーブルの先端に取り付けられていた浮き輪の中にシャンパンが……

シャンパンをかけて、陸揚げの成功を祝う

 なお、海上のケーブルはブイを外して沈めた上、漁業などに影響が出ないよう、海岸の1.5km沖合までは地底に埋められるとのこと。一方、今回のケーブル敷設船は40km沖合にまでケーブルを伸ばし、プロジェクトを担う別事業者(TE SubCom)に引き渡されるという。

スムースな作業工程に感心することしきり

 陸揚げされたケーブルは、その後海岸沿いの道路の下の管路をくぐり、そのままKDDI千倉局舎まで牽引され、マージンをとって局舎背後からいったん半回転。局舎前面の地下からケーブルピットを経由し、ネットワーク機器の並ぶ部屋まで引き込まれる。なお、千倉局舎も東京電力から2系統の給電を受けるほか、停電などを想定し、56時間もつガスタービン式の発電機を備える信頼性の高い作りとなっている。

局舎下の管路を通ってケーブルはいったん局舎の後ろに

局舎の海岸側から地下に潜り、屋内に引き込まれる

局舎内の地下からケーブルピットを経由し、屋内に引き込まれる

地下から対米回線UNITYのケーブルが上がってきている

 見学してまず驚いたのは、事前に作業がきちんと分担されているからか、作業が時間通りにきちんと完了することだ。ブイが到着すれば、そそと作業員が片付けに現われ、ケーブルの先端が現れれば、作業員が整列して、余ったケーブルを巻き取っていく。多くの業者が関わっているにもかかわらず、現場監督が怒鳴るわけでもなく、淡々と作業が進んでいくのだ。前回のUNITYも同じような進行だったようなので、かなり場慣れしているのだろう。

 もう1つ面白かったのが、思いの外、人海戦術なことだ。現場で働いていた機械は、おそらくケーブルを巻き取るウィンチくらいしかなく、あとは作業員がケーブルを引き回している。作業の省力化などはあるものの、基本的な作業のやり方に関しては、昔から意外に変わってないだろうと推察される。

(次ページ、アジアのトラフィック増に応えるSJCケーブル)


 

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