グラフの「ピュア度」と安全性をいかに維持するのか?
―― なるほど。プラットフォームという観点からはアプリやAPIによって拡張されるFacebookとの相違という点も確認しておきたいところです。モバイル版のFacebookでは初回インストール時に電話帳を同期させるか確認があったりします。
舛田 「我々が拘ったのは“グラフのピュア度”でした。LINEを作るときに最後まで悩んだのは、FacebookやTwitterのアカウントで認証させるかどうかなんです」
―― なるほど。普通はグラフを広く押さえるためにも認証させたいところです。
舛田 「そうなんです。わたしはマーケティングの責任者でもあるので、いままではソーシャルな拡散性を重視する立場でした。NAVERまとめはまさにそういった性格のサービスだったわけで、その価値は誰よりも理解しているという自負があります。新しいサービスなので数字を伸ばしたいという誘惑もある。
けれどLINEは“他のグラフとあえて交わらせない”ことに価値を置いたわけです。日常生活を可視化するのであれば、他の要素を巻き込んでいるグラフをLINE内に持ち込んでしまうと、逆に価値をなくしてしまうだろうと。いまでもよく他のSNSやサービスと連携しないんですか? という質問をいただきますが、基本的にはしません。
一気に他のサービスとつなげてしまったら、そこには規律がなくなってしまう。大切な5500万ユーザーの刈り取り場、焼畑になってしまうことも避けたい。
我々自身プラットフォーマーとしては経験が浅いこともあり、まずはLINEにカテゴリーを切って、色々なCPやデベロッパーに参加してもらい、ユーザーとのコンセンサスを取りながらガイドラインを定め、次のステージに進もうと考えています。いきなりLINEゲームに100タイトル導入! といったことをやらないのはこういった理由からです」
―― mixiも“ホーム・タウン構想”を提唱しています。またソーシャル系のサービスでは“出会い系問題といかに向き合うか”も避けられない課題です。LINEでも今後、グラフのピュア度の維持とプラットフォームによる拡張のバランス、匙加減が求められるところですね。
舛田 「スマートフォンがないと使えないという仕組みが、LINEを既存のサービスとは異なるものにしていると思います。LINEはPC単独で使うことはできず、あくまでスマホの電話帳をグラフとして使うことで、ある種の拡張に対するブレーキが働いているのです。
他のグラフと交わらせることに対しても慎重ですし、それよりも先にやるべきことがあります。サービスの拡張はプラスアルファの1つでしかない、という認識です」
―― ソーシャルサービスとしての成長の軸足は、個々のユーザーのグラフを拡張させるのではなく、先ほどお話いただいたグローバルへの展開=ユーザー数自体の拡大にあるという理解でよろしいでしょうか?
舛田 「はい。つまり、『いま自分は知らない人たちと出会う場にいるんだ』という状態と、一種ホーム的な『知っている人たちと交流している』という状態を混ぜてはいけない。したがって前者はあくまでプラスアルファである、というコンセプトのもと提供していきます」
―― いわゆる犯罪につながるような“出会い”に対してはどのような対策を取っていますか?
舛田 「犯罪につながるものもあれば、犯罪そのものであるというコミュニケーションも当然そこにはあります。電話やメールといったサービスを代替する存在になりつつあるわけですから、そういったものはどうしても発生してしまう。ただ、その発生頻度を最大限下げないといけない。
先日も非公式アプリを名指しして禁止を表明いたしました。それに対して『そこまでやる必要はあるのか』というご批判をいただいたことも事実です。けれども我々はプラットフォーマーの責任として、親しい人同士が安心してコミュニケーションをとれる場を維持しなければいけないという考えのもと、明確にNGを出したのです。
じつはあの発表以前から、水面下では個別にアプリの提供者に対して連絡していました。けれどもなかなかそのやり方では受け入れてもらえないケースがあったこと、またユーザー側にも注意喚起する必要があると考え、ああいった形をとったのです。
結果的に(犯罪につながる可能性がある)アプリもずいぶん減ってきましたし、GoogleさんやAppleさんとも当該アプリについては連絡を取り合って対応しています。具体的には我々でもモニタリングし、彼らの規約にも違反するような犯罪を助長する類のレビューを発見したときは、通報し削除してもらうといった取り組みを行なっています。引き続き。ここは強化していきます」
―― ソーシャルゲームにおいては、ゲーム内のコミュニケーションを有人監視するといったことも行なわれています。LINEについてはいかがでしょうか?
舛田 「LINE内でのトークや通話のやり取りについては通信の秘密に該当するものですので内容の監視はできません。ただし、我々の外のサービスで個々のIDが書き込まれていて、異性間、特に未成年のものや犯罪に関するものについてはシステム/有人両方でモニタリングし、適時対応を取っています。
このレベルのサービスになると、ここまで広い範囲やバリエーションで投稿されるのかと正直驚きでもありますし、責任を感じているところではあります」
―― プラットフォームによっては、たとえ1対1のチャットであっても、それは個人間で利用できる“掲示板”であるという前提を置いて、やり取りを監視し、規約に違反するメッセージは相手に届く前に削除するという方針で臨んでいるものもあります。
舛田 「我々はLINEを開始するにあたって電気通信事業者として届け出をしています。まさにこれは通信に該当するものと捉えています。電話やメールを代替するものであり、ユーザーの意識としてもそうであるはずです。掲示板であるとは誰も思っていないでしょう。それを覗くという行為はユーザーの同意がなければできません、という認識ですね」
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