まずは非英語圏から――LINEの海外展開
―― 今回KDDIと提携したわけですが、そのことが他のキャリアとの交渉を難しくする、ということはありませんか?
舛田 「それはないと思います。そもそもLINEは1つのキャリアに依存するモデルでもありませんし、LINE自体がすべてのOSやハード・デバイスの1つ上のレイヤーにプラットフォームを展開しています。そこでサービスやビジネスを展開していくわけですから、KDDIさん以外にも国内外のキャリアさんと連携の可能性はあると考えています。
それぞれのキャリアごとに決済やサービスをカスタマイズするのは、ロックインのためではなく、それぞれに対してサービスを“深化”させ、キャリアとのシナジーを高めて、ある意味支えているという認識でいます。ただ、今はまず、KDDIさんとのパートナーシップを進めることに注力していきます」
―― なるほど。いま海外のキャリアというお話が出ましたが、以前、夏野剛さんにお話を伺った際も、国内外のキャリアがそのビジネス構造が大きく異なる(海外のキャリアは通話と通信に軸足を置いているのに対し、国内キャリアは端末の企画からコンテンツサービスまで幅広く手がけてきた)という指摘がありましたが、むしろ海外のキャリアのほうがOTTの機能を元々持っていない分、組みやすい相手なのかもしれませんね。
舛田 「そうですね。色々なレベル感でお話をさせてもらっていますが、各国の様々なキャリアが、できて1年足らずというLINEに興味を持ってくれています。彼らのほとんどは、『コンペティティブではない』という判断をしています」
―― そうなりますよね。
舛田 「台湾ではVIVOという現地第4位のキャリアと共同マーケティングを始めています。また同じようにインドネシアではSingTel(シンガポールテレコム)、タイではデバイスメーカーのSAMSUNGと共同マーケティングを開始しています」
―― まずはアジアから、ということでしょうか?
舛田 「そうですね、我々のサービスが元々アジアにユーザーが多いということもあります」
―― インターネット(P2P)を介したコミュニケーションサービスとして、Skypeは北米・ヨーロッパに多くのユーザーを持ちますが、同じように欧米地域から、という考え方はなかったのでしょうか?
舛田 「我々自身が日本の会社ということで、肌感のわかるアジアから展開を考えるという面はあります。サービスはグローバルに展開するのですが、LINEについてはユーザーの反応が良かったのが“非英語圏”というのも特徴です。アジアだけでなくスウェーデンやロシアでもLINEがAppStoreで1位になったりしています。そんななか我々としても戦略的に非英語圏に力を入れるという考え方でやってきました」
―― ユーザーの反応が良かったからなのか、初めから戦略があったのかどちらなのでしょうか?
舛田 「両方ですね。我々はプロジェクトを進めながら、流れのなかで戦略を考える文化でやってきていますので、目が届く範囲としてのアジアがありつつ、そこでの反応が良かったことから、アジアに軸足を置いていこうと判断した経緯があります。日本の次は台湾、次はインドネシア、タイ、といった具合ですね。
1つ言えることは、欧米圏、特に北米のサービスを見ると、北米発のグローバルサービス――それもモンスターのような――は沢山あるわけです」
―― グーグル、アマゾンはじめ、沢山ありますね。
舛田 「そういったサービスは、北米に限って言えば最適化、アップデートが早い。でも、アジアへの対応は後手に回りがちです。我々はアジアの会社なので、彼らに対してアジア圏に対する対応は早いのです。このスピードの違いから生まれるタイムラグを戦略的に使っているのは確かです」
―― 一般的には、『日本だけじゃだめだ、英語にも対応して市場を拡げよう』と考えるウェブサービスが多いなかで、敢えて非英語圏を選択するというのはユニークだと思います。エモーティコン(絵文字・アイコン)などは、文化圏ごとに好みが分かれますが、その嗜好のずれが小さいところから進めよう、ということだったりするのでしょうか?
舛田 「これはあくまで一般論なのですが、日本のスタートアップが北米を指向する傾向はありますね。そこにも可能性はあるとは思いますが、あの国ほど“当てる”のが大変な国はないですから(笑)。
資金調達がしやすいのは確かですが、それは数多のライバルも同じことです。競争環境としてはむしろ厳しくて、いきなりなんの実績も持たずに我々がそこに入っていけるかというとそうではない。勝てる可能性がほとんどないなかで打って出るのは事業ではなくギャンブルだということになってしまう。
私たちが目指すのは世界ナンバーワンのサービスです。成功できるという確信が生まれてから欧米展開も考えますが、それは今ではない。スタッフやキャッシュも含めたリソースを集中しなければ、我々のようなゼロブランドから立ち上げる弱小サービスは、その市場では存在感を示せない、と思っています。
したがって全方位ではなく、アジア=非英語圏に注力してきたのです。
いまようやく5500万ユーザーというところまで来ましたので、次のステージとして中国や北米についてはこの四半期に、色々な仕掛け――例えば先ほど仰ったようにアイコンやスタンプのトーンを変えるなどして、我々のサービスが何処まで通用するのかテストしつつ展開したいと考えています」
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