日本発のOTT「LINE」のキーマンにインタビュー
ユーザー数が世界中で5500万人に達し、急速にシェアを拡大する「LINE」。
先日Twitterのようなタイムラインに対応し、チャットとしてだけでなく、SNS的にも使えるようになった。ポップなスタンプや無料通話がユーザーメリットとして紹介されることが多いが、その本質は電話の未来の姿を先取りした点にある。その仕掛け人であるNHN Japan執行役員の舛田淳氏にそこに至る経緯や狙いを聞いた。
「LINE」は2011年6月にリリースされた、NHN Japan製の無料通話・メッセンジャー系アプリ。登録には電話番号が必須で、スマートフォンでの利用をメインに作られている。リリースから約1年2ヵ月後の8月17日には、登録ユーザー数が全世界で5500万人を突破したとの発表があった
業界を驚かせたKDDIとの提携
―― LINEはFacebookなどと同じくOTT(Over the Top。Google、Facebookなど圧倒的な影響力を持つウェブサービスを指す)の一員ということが、今回のSNS化でも明らかになりつつあります。そんななか、これまでキャリアが提供してきた機能も併せ持つLINEがKDDIと組んだことはインパクトがあります。
舛田 「LINEはアプリケーションサービスではありますが、通話やメッセージ機能も持っています。それはまさにユーザーにとっては通信キャリア・オペレーターが担っていた電話やメールの役割を一部担おうとするものです。
当初はコンペティティブ(競合的存在)ではないか、と指摘されることも多かったのも事実です。確かに通話料が彼らのビジネスモデルの中心であればそうであったかもしれません。ただ、各通信キャリアがスマートフォンへの移行を経営戦略上も進めた――あるいは進めざるを得なかった――なか、音声通話だけではなくデータ通信の部分で新しいビジネスモデルを作るべきなんじゃないか、という方向にシフトされているのではないでしょうか。
もちろんキャリアによって、その度合いは異なります。いわゆる“土管屋”に徹するという会社もあれば、土管屋にとどまることはしないと断言するところもあります。しかしいずれにせよ、データ通信部分のビジネスを拡大する上では良いパートナーを見つけていかなければならなかったわけです。
そんななか、LINEが新しいコミュニケーションのトレンドとして生まれてきた。キャリアのなかにはコンペティティブで居続けるという判断も当然あったかと思いますが、KDDIさんとしては、『そういう時代ではないだろう』と。つまりスマートフォンのビジネスを展開する上で魅力的なサービスと組むことのほうが大事だ、組むからこそ生まれる新しいビジネス機会もあるだろう、ということで提携に至りました。
また実際、LINEはメッセージ(トーク)のほうが圧倒的にActiveですので音声通話事業に大きく影響はありません」
―― ただ、データ部分の売上をさらに伸ばしていこうとした場合、現在はデータ通信定額制が一般的である以上、単純にその利用を増やすだけではメリットは薄くはありませんか?
舛田 「データのやり取りのなかで新たに発生する収益があるということですね。例えばLINEでも一部のスタンプを有料で販売していますし、いわゆるアイテム課金がそれにあたります」
―― なるほど。先日の発表会でも紹介されていた日本コカ・コーラなどのナショナルクライアントとのタイアップも、広告収益という収益源となるわけですね。
舛田 「そうですね」
―― そういった収益は、キャリア側へはどのように分配されますか?
舛田 「KDDIさんとの取り組みでは、LINEをauスマートパスにラインナップいただく計画です(編註:9月3日より実施)。従来、私たちはAndroidプラットフォームではGoogle Check Outを決済手段としてきましたが、auユーザーはauのキャリア決済(かんたん決済)や、auポイントを使ってアイテムを購入することができるようになります。
KDDIさんとしてはもちろん新たな収益源となるメリットがありますし、我々もいままでリーチできなかった層にLINEを訴求することができますから双方WIN-WINではないかと考えています。現在、KDDIさんとは詳細な仕様や展開方法を詰めている段階ですが、並行して開発も進めていますので、9月頃にはリリースできるはずです(編註:9月3日より実施)」

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