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Winnyの金子氏が夢見る次世代高速ネットの世界

2012年08月07日 12時00分更新

文● 美和正臣

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 2011年、8年をかけた「Winny」裁判が終わった。渦中にいたのは「2ちゃんねる」では「47氏」と呼ばれていた金子勇氏だ。裁判後のインタビュー(関連記事)では、編集部の「これからどうしていきたいか?」という質問に「決めてないです」と答えていた金子氏であるが、着実に次のステップに進み始めている。

 6月12日、Skeed社とデータホテルが業務提携して「CLOUD CONNECT」というデータセンター間を高速接続するサービスを展開すると発表(関連記事)したが、金子氏は現在、このSkeed社の社外取締役となっており、新たなプロダクトの開発に専念している。今回のインタビューでは、この金子氏とともに代表取締役社長である明石昌也氏も同席を願い、Winny事件をきっかけにできあがったというSkeed社や、事件の思い出、そして彼らが現在広めようとしている高速データ転送技術について尋ねてみたい。

Winny裁判の際に押収されたPCは
ようやく先月に戻ってきた!

金子勇。茨城大学大学院にて博士(工学)の学位を取得。情報システム科学専攻。専門はシミュレーション環境、OS、可視化など。ネットワークは専門外であったが、原子力研究所勤務時代に複数のスーパーコンピュータをネットワークで接続し、その計算結果を可視化する研究にかかわった。その後、フリーソフトとして公開していたCGソフトの商用化、IPAの未踏ソフト事業などに参加したのち、東京大学で特任助手として実践的プログラミングの指導に従事した。ファイル共有ソフトWinnyの開発者。2004年5月に著作権法違反幇助の疑いにより京都府警察に逮捕。2011年12月、最高裁で検察側の上告を棄却され、無罪が確定した

明石昌也。早稲田大学卒業後、大手電機メーカーに入社。ストレージ製品など海外及び国内向けの販売企画業務に従事し、製造業向けのSCMソリューションの拡販やサーバー事業における戦略アライアンス、事業企画等を担当する。退職後、米国のストレージベンチャー企業のスタートアップ期に日本法人のマーケティング責任者として参画、上場までの期間在籍し、シリコンバレー型の起業モデルを実践する。その後、大手SI会社のシンクタンク部門で戦略投資による新規事業開発担当の統括責任者として、放送通信融合や次世代データセンタ分野などにおける事業企画、アライアンス及び事業化推進を担当する。2008年、Skeed社の取締役に就任。2010年より現職

――現在、御社の製品は「SkeedSilverBullet」と「SkeedCast」の2つがメインということでよろしいのでしょうか?

明石:製品というとまだいくつかあるのですが、大別するとP2P分散系のSkeedCastと、高速データ転送ができるSilverBulletの2種類になります。この系列の中で新しい製品をどんどん生み出していこうと考えています。

――SkeedCastに関しては2005年に出されたわけですね?

明石:2005年4月に当社は設立となりまして、金子さんが設立メンバーの1人として加わりました。「Winny」の技術を商用化していくというプロセスの中で出てきたのがSkeedCastです。

――SkeedCastは技術的に「Winny2」ベースで作成されているのでしょうか?

金子:全部「Winny1」のほうがベースになってます。

――えっ、Winny1なんですか。

明石:Winny2は(京都府警に)全部持っていかれてしまいましたから。

金子:みなさん勘違いされているんですよ。お忘れでしょうけど、Winny自体も勘違いされていて、ファイル共有ソフトはWinny1なんですよ(笑)。私はWinny2を作って捕まってるんで。

――捕まっているって……。いいのですか、そんな表現で(笑)。

金子:有罪ではなく無罪が決まったわけですからね。Winny2にWinny1の機能をそのまま載っけたところがあったから、捕まったんですよ。Winny2は本来ファイル共有じゃなくて、分散BBSをやろうとして作ったものなので。もうみんな忘れてしまっているんですよ(笑)。逆に言えば、Winny2は本気で手抜きをしていて、ファイル共有に関しては効率が悪いんですよ。だけどみなさん、新しいほうがいいんだろうと思って勘違いされているんですね。

――BBS! 確かにそんな機能ありましたね。ああ、思い出した! 記事で書いた覚えがありますよ(笑)。

金子:開発環境もWinny1はマイクロソフトのVisual StudioでC++で作成していますけど、Winny2はボーランドの開発環境でしたから。

――開発環境も異なっていたんですか。

金子:「2ちゃんねるブラウザ」みたいなのを作ろうと思っていたので、GUIとの組み合わせの問題でWinny2はボーランドの「C++ Builder」だったんですよ。だからまったく別のものです。SkeedCastはWinny1と同じく、マイクロソフトの「Visual Studio」で作成されています。

――そういえば、金子さんのWikiを見ていたら、「公式ホームページ」のリンクが「そろそろノートだけでもいいから返してもらえないと……」っていう、例のあれのままなんですが……。

金子:ああ、元々Winnyを公開してたホームページですね。更新してないですね。

――えっ、忘れていたんですか?

金子:忘れてた(笑)。

――「あの当時のままだ!」とびっくりしましたよ。

明石:PCは先月返ってきたんですよね。

――えっ、今頃!

金子:そうです、やっと返ってきました。本当に時間がかかるんですよ。

現在のWinny公式ページの残骸がこれ。逮捕時のまま、8年近く放置されている

――最高裁の判決は2011年12月後半でしたよね?

明石:12月20日ですね。

金子:わざわざ書類で「(押収されたPCを)返してくれ」って弁護士さんが出して、それに対して「わかった」と返事がきて、私のほうで「どれを返してください」って書類を出して、先方がチェックをかけて、それをまた返してというやりとりが延々と続くんですよ。で、PCが返ってきたのが6月です。

――そんなやりとりで5、6ヵ月もかかるんだ……。

金子:わざわざ家まで検察の人が持ってきてくれました。書類には「“廃棄”としてくれれば持っていかない」「小さいノートPCだけは郵送で送る」って書いてあるんですよ。大きなPCに関しては「全部送る」ってあるんですよね。検察の方が直接家まで持ってくるってことだったんで「うわー、来てほしくねぇー」っと(笑)。

――(一同爆笑)

明石:せっかく引っ越ししたのにねぇ。

金子:心配なのはHDDだけだから「HDDだけ送ってください」って書いたんです。でも「よくわからないから全部持ってきます」ということで。

――持って来られた量はどれくらいだったのですか?

金子:段ボールが4つか5つくらい。引っ越ししてせっかく片付けたのに。PCの台数でいうと8台くらいになります。

――その当時のデスクトップとかですよね。

金子:そうです。いらないですよね(笑)。だからといって捨てるわけにもいかないですから、しょうがないから全部持ってきてもらいました。昔作ったモデル検証用の「Winnyシミュレーター」っていうのあったのですが、バックアップしてなかったものですから10年ぶりぐらいに見たわけですけど、「ああこれか、久しぶりだなぁ」と。まさか人に見せるとは思ってなかったんで。

明石:Winny2はようやく再開できるってことですか。

――ツッコミますねぇ!(笑)

明石:こういう関係ですから(笑)。

金子:いやー、弁護士さんに「多分、また開発するとヤバイから」と言われました。

明石:じゃあ、ちゃんと作戦を立てれば?

金子:ちょっとやっかいですね。一応「無罪」が出たから、Winnyの続編とかを作って公開するのは問題ないと思ったのですが、弁護士さんの話を聞くと「(続編を作れば)悪用されているのがわかっている」状態で「(警察的に)改変し続けるのはいかがなものか」という感じらしいです。「(違法ファイル交換をする連中がいて)やるとわかっているのだろ、お前!」って言われて、裁判沙汰になったくらいですから、弁護士から「わかってますね? これ以上バージョンアップするとややこしいことになる可能性が高いですよ」と言われました。ということで、あんまり安易には開発できないです。

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