ヒット作に恵まれず長い低迷
地道なノート向けの努力で生き残る
TGUI 9440では内部/フレームバッファともに32bit幅であったが、これを64bit化したのが「TGUI 9660」と、これをちょっと高速化した「TGUI 9660XGi」である。正確な日付が不明だが、登場はおそらく1995年と思われる。そして、これに簡単な動画再生支援機能(ズーム・色空間変換・DirectDrawのオーバレイ表示)を追加したのが、「TGUI 9680」になる。
このTGUI 9680は、あくまで「ローエンド品の中では」という注釈付きではあるがそこそこの性能が出たので、日本でもアイ・オー・データ機器を初めとして、いくつかのメーカーの製品で採用された。TGUI 9680は動作周波数やビデオ入力/テレビ出力などの差でいくつかの品番があり、特に「9685」は、TGUIではなく「ProVidia 9685」という名称で発売された。この製品はUMA(Unified Memory Architecture)をサポートし、デスクトップ向けの拡張カード以外にも、ノートPCへの組み込みも狙った製品である。ただし、採用例を筆者は知らない。
1997年には、同社初の3D対応製品「3DImage 9750」を投入する(当初は3DImage 975という型番だった)。これはVL-Busのサポートを削って、代わりにAGPへの対応を追加したものだ。9750では初めて、「rCADE」と呼ばれる3Dエンジンが搭載され、これによりDirect 3Dのサポートも追加されている。もっとも、9750でのDirect 3Dサポートは非常に限られたもので、性能で言えばS3の「Trio 3D」とか、Cirrus Logicの「CL-GD546X」にも劣ると評価されている。そういう意味では、「Direct3Dがエラーにならなければいい」程度の、非常にローエンド向けの製品であった。
9750のデータシートを見てみると、「OpenGLを利用した場合には最大120万ポリゴン/秒の描画性能」という話であったが、これはあくまでもピーク値。しかもDirect3Dの文言はどこにも出てきておらず、唯一ビデオ再生に関して、DirectDrawの専用機能がいくつか用意されている程度。これではTrio 3DやCL-GD546Xに及ばなくても不思議ではない。そのため、若干の動作周波数向上を施した「3DImage 9753」に、32音声を再生できるシンセサイザーを組み合わせた「9753WAVE」とか、9750にDVDデコーダーを組み合わせた「3DImage 9750DVD」といった変わりダネのラインナップを拡充するという、やや怪しげな方向に進んでいく。
だが、当時ノート向けグラフィックスには、それほど高い性能が求められていないという傾向があった。そこでノートへの搭載を前提として、3DImage 9750のプロセスを微細化するとともに、PCIのサポートを削ってAGP 2Xの対応を追加し、3DImage 9753よりもさらに若干動作周波数を引き上げた「3DImage 9850」を1998年に投入する。ところが肝心のノート向けにはさっぱり売れず、やはりグラフィックスカードとして販売する。
それでもノート向け市場は魅力的であったので、そこに向けてDVDデコーダーを追加した「3DImage 9850DVD」や、さらに動作周波数を引き上げた「3DImage 9850+」を投入。さらに、6MBものフレームバッファをエンベデッドメモリー(GPU内蔵メモリー)の形で搭載し、MPEGデコーダーも集約してUMA方式で動作する「3DImage SME-GMA」などをラインナップした。それでも、残念ながら思うように売り上げは伸びなかった。
しかも皮肉なことに、1995年頃からTVGA 9300シリーズをベースとした「Cyber9300」シリーズが次第にノートに採用されるようになってきた。当初は「Cyber9320/9382/9387/9397」といった、事実上BitBltしかアクセラレーターを搭載していない製品がほとんどだった。しかし1998年頃になると、TGUI 9680をベースに動作周波数と消費電力を引き下げて低価格化した「Cyber9525DVD」が発売される。こうしたノート向けの製品展開が、この頃になってようやく効いてきたこともあり、Cirrus Logicなどとは異なり、グラフィックスビジネスを継続することが可能になった。
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