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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第156回

GPU黒歴史 逆転のDirectX 9対応は口先だけ? Trident XP4

2012年06月18日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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Trident XP4で
業界初のDirectX 9.0対応を自称するも……

Trident XP4のノート向け「XP4 m32LP」を搭載した、東芝の「dynabook SS S7」。2003年の製品だ

 話を少し前に戻す。TridentのCyberBlade XP2は構成的にはBlade 3D 9880の延長にあるが、DirectX 7に対応した製品でもある。だがチップセット内蔵向けということもあり、ハードウェアT&Lの性能はかなり低めであった。時期的に言えば、当然次はDirectX 8への対応ということになるが、Tridentはここで他社に先駆けてDirectX 9に対応することで、シェアを挽回しようと目論んだようだ。

 2002年4月にサンプルを出荷、8月に量産開始された「Trident XP4」は、業界初となる「DirectX 9.0フルサポート」をうたったグラフィックスチップとなった。実際にDirectX 9.0が登場したのは2002年12月のことだ。しかし、Tridentは当初こそ「XP4用のDirectX 9.0対応ドライバーをすぐにリリースする」としていたが、途中から「Trident XP4はDirectX 8.1どまりで、次のXP8でDirectX 9.0対応になる」と言い始めたので、結局はDirectX 8.1対応製品と言うべきであろう。

 XP4の最終的なターゲットもチップセット内蔵向けだが、こちらはチップセットへの統合に時間が掛かるため、まずは独立GPU(ディスクリートGPU)で考えて、発表時には「XP4 T1/T2/T3」の3製品が発表された。ハイエンドのXP4 T3はグラフィックスコアが300MHz駆動で、128bit幅のメモリーバスに700MHz駆動のDDR SDRAMが接続される構成だった。

 TridentはXP4 T3搭載カード(メモリー128MB)が、「販売価格100ドル未満を予定」としていた。これを可能にしたのは、XP4が非常に小さなダイで構成できたことだ。同じDirectX 8.1世代で比較した場合、NVIDIAやAMDが4パイプライン構成で6000万トランジスター程度を必要としていたのに対して、XP4は半分の3000万トランジスターでこれを成し遂げた。

 いかなる技術でこれを実現したのかというと、要するにパイプラインは4本あるが、制御部はパイプライン1本分しかない、というトリックである。そのため、4本のパイプラインでまったく同じ処理をするケースでは性能が出るが、各々のパイプラインが異なる処理をするケースでは、性能が4分の1に落ちる。そのため、どれだけドライバーが巧みに、同じ処理を複数のパイプラインに割り振るかが性能の鍵となる。

 そして当然のごとく、Trident XP4搭載グラフィックスカードの性能は、散々なものだった。性能をある程度確保するためには、なるべく均一な画面表示とするのが効果的である。ところが細かいディテールを表現しようとすると、均一な画面にはならない。そうなると、ディテールを潰す方向で絵作りするのが、XP4での性能改善には唯一の方法となる。画質と性能のトレードオフは一般的なことだが、XP4では特にこれが、画質に多大な犠牲を及ぼすことになった。

 これに満足できなかったのか、ULiは当初予定していたXP4コアのチップセット搭載を、2003年の時点で放棄。ATIに乗り換えることを非公式ながら公言するようになり、Tridentは唯一の顧客すら失うことになってしまった。結果としてTridentは、途中まで進んでいた「XP8」(8パイプラインを予定)や、さらに先の「XP10」の開発をいったん中断。2003年6月にはグラフィックス事業部を台湾XGI Technologyに売却し、逆にデジタルメディア事業部が台湾にあったTTI(Trident Technologies Inc.)を買収して、こちらを主力ビジネスに据えることになった。

XGIに買収されても、
Trident部門は鳴かず飛ばず

 XGIは元々、SiSのグラフィックス部門のスピンアウト組が設立した会社だった。スピンアウト組が「Volari」という新しいディスクリート向けグラフィックスコアを開発。一方で旧Trident部門はXP4に加えてXP8コアの開発を継続し、これでモバイル向けの市場を掴むという、ある意味では能天気な経営方針を持っていた。だが、すでにTrident時代にモバイル向け市場を失っていたのに、会社がXGIになったからといって、失った市場を取り戻せるはずもない。結局XP4コアをベースにした「Volari XP5」が2003年9月に発表されたものの、それっきりで終了。XP8以降の製品は、幻のまま消えてしまった。

 XGI自身のビジネスも不調で、DirectX 9対応の「Volari V8」などを2004年に投入したりもしたが、2006年にはPC向けグラフィックスから撤退する。その後はサーバーや組み込み向けにわずかな活路を見出すものの、結局2010年にはSiSに買収されてしまった。そのSiS自身、今ではスマートテレビ向けとかタッチデバイス向けSoCを手がける小さなベンダーになってしまっており、特に2012年の売り上げを見てみると、この会社が2013年以降も存続できるのかすら、疑問に思えるほどの低迷ぶりである。

 SiSの不調の責任までXP4に負わせるつもりはないが、Tridentがグラフィックス部門の切り離しを図ったのも、XGIで旧Trident部門がお荷物になったのも、どちらもXP4の性能があまりにも不甲斐なかったから、というのは言い過ぎではないように思う。やはりXP4の基本的なアーキテクチャーに無理がありすぎたのであり、その無理に目をつむって製品化してしまったのが、最大の失敗だったのであろう。

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