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『アクセル・ワールド』TVアニメ放送直前SP企画 第2回

われらAW設定研究会(前編)

『アクセル・ワールド』がASCII.jp読者必見である理由

2012年04月05日 22時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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(C)川原 礫/アスキー・メディアワークス/AW Project

1ビット=量子1個の世界が来る?

野口 「CPUが微細化の限界に近づきつつあるからです。昨今の研究開発では、1ビットが原子数十個分という大きさが限界だろうと言われていますね」

遠藤 「原子数十個? そんなに小さくなるんだ」

野口 「最終的には、1ビットを量子1個分の大きさにしないとブレークスルーは起きない、というかCPUが進化する過程でいつかそうせざるを得ない日が来ると言われています。

 そのためには、量子をもっと厳密に扱えるようにならないとダメなんです。ということは、量子を扱う技術がどんどん進化すれば極端な話、《ニューロリンカー》のようなモバイル機器に収まる量子コンピューターも可能……かも?」

今後もムーアの法則に沿ってCPUが進化するならば、2020年前後にはトランジスタも原子数十個分のサイズになる可能性がある(画像は月刊アスキー2004年3月号より抜粋)

遠藤 「そもそも量子は観測すると状態が変化しちゃうんじゃなかったの?」

野口 「ハイゼンベルグの不確定性原理の話ですね。ところがつい最近、その不確定性原理に誤りがあることを、名古屋大学の小澤正直教授が突き止めたんです。ハイゼンベルグの式は、ある値が必ず大きくなるはずなのに、実際に測ったらそんなに大きくならなかったと。今まで思われていたよりもずっと厳密に測定できることが判明したわけです」

―― なるほどぉ(←よくわかってない)

これが『アクセル・ワールド』の裏設定だ!?

遠藤 「不確定性原理のたとえ話でよく出てくるのはビリヤード台だよね。ニュートン力学的に考えれば、打った球が時速何キロでどの方向に動いて、壁にぶつかるたびにどの程度エネルギーを消耗しながら反射する……という一連の運動をすべて計算できるはずだと。

 では、世の中すべてが物理的なモノでできているとすれば、すでに未来は決まっているのでは? という疑問が生まれるのだけれど、不確定性原理があるからそこまで確定的じゃないよね、という話。

 でも不確定性原理が誤っているとなれば、アクセル・ワールドの世界って、ひょっとすると未来予測にもかかわる、とてつもない領域まで行っている可能性があるよね。だって、少なくても国民全員の脳内を読み取れるんだよ。そして《ソーシャルカメラ》と呼ばれるものが日本国中の公共空間を録画している。位置データその他諸々も存在するわけだ。

 となれば、量子レベルで未来を予測するというのではないとしても、1000億の神経細胞+《ソーシャルカメラ》データというウルトラビッグデータをマイニングすることで個々人が未来にどんな行動を起こすかぐらいはわかりそうな気がする」

―― 一生分の行動が計算可能な世界かも?

遠藤 「僕が大好きな海外ドラマ『天才数学者の事件ファイル』で1回ネタになってた。身体能力と過去成績を使って野球選手生命が終わるまでに稼ぐ営業成績を計算する“セイバーメトリクス”理論を、一般人に当てはめるという話。こういう性格でこんな能力持っていたら、一生の間に何ができるか計算しよう、みたいな。

 実際、東ドイツなんかは子供の骨密度や部位を測ってどのスポーツに向いているか判定していたといわれるよね。実際、足の平が大きい子供でないと水泳で勝てなくなるというようなシビアな時代が来る……なんて話もあり。

 こんな話が、量子コンピュータによってどこまでいくのかと思うと本当に怖いですね」

『アクセル・ワールド』世界での量子の振る舞いをもう少し詳しく知りたい……(野口)

野口 「かなり前の話ですけど、ワインの価格って専門家の長年の勘によって予想されていたのですが、リキッドアセットという会社が、各地域のピンポイント天候データを仕入れて、ワイナリーごとのワイン価格を提示するサービスを始めたという話がありまして。

 過去数十年分の天気とマッチングさせることで、ブドウの未来――要するにワインの出来が予想できてしまうという事実もあります」

遠藤 「コンピューターのパワーと、全脳細胞をスキャンする技術さえあれば、人間の思考でも同じような予想ができるんじゃないか。例えば、最初の一行ぐらい書くだけでソイツが考えていることを読み取って、原稿が終わりまで打ち出されるとか(笑)」

―― 原稿書かずに済む! 最高ですね!! ……ただ、そんな裏設定が『アクセル・ワールド』にあったら怖いですけど。

遠藤 「じつは人々の行動を読みきって構成された仮想空間で生きていた!」

野口 「もしくは、国家プロジェクトとして未来予測は済んでいるんだけれども、その予測結果がバッドエンドだったので、未確定要素がありそうな青少年の脳を活性化させて、予測以上のことをしでかす奴が出てくるのを待つ巨大実験――それが《ブレイン・バースト》だった、みたいな」

―― それだと、間違いなく主人公が予測以上の行動を起こして政府にマークされる展開が待ってますよね。国家に追われる能力者とか……って、設定を紐解くハズが、ただのストーリー展開予想になっちゃいましたよ。

遠藤 「ここまでくると、もはやデカルトとかベルグソンとか哲学の領域ですよね。3月6日に行なわれた情報処理学会の情報処理技術遺産認定式で、中京大学 福村晃夫先生の記念講演を拝聴したんだけど、1970年代のコンピューター研究者がそういうところまで入っていったお話が出てきて、とても刺激的でしたよ。そんなコンピューターサイエンスとライトノベルが、いま出会う……」

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